蒼の国-TS Version/WINGLESS1- |
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周瑜が倫周を受け止めて、恐らくはその心も身体でさえ包み込んだと思われる頃、ひとり幕舎の
自分の室で紫月はその心を持て余していた。
以前でさえ、倫周に酷いことをしてしまったと後悔し体調までも壊しながら、それでもやっと素直に
なってようやく分かり合えたと思っていたらこの時代へ来て倫周は孫策と愛し合ってしまい、そして
孫策が亡くなると又しても倫周を求めた自分はその心とはうらはらについつい酷い扱いをしてしまった。
蒼国に入ったとき、孫策と倫周が愛し合ったとき、いつもそうした機会にこれまでの自分を改めようと
思う紫月だったが結局は成し遂げられずに倫周を求めては酷いことを繰り返してしまう。
そんな自分がたまらなく嫌で紫月は襲い来る後悔の念に眠れぬ夜を過ごしていた。だが紫月にとって
地獄だったのはそんな後悔の念とはうらはらにいつも倫周を求めて止まない自分の欲望だった。
帝斗を失って以来、その細い身体をいたぶりながら何とか心を平常に保ち続けてきた紫月にとって
再びその存在をを失った今、正にそれは不安のどん底だった。
あれ以来、誰かに裏切られることを常に恐怖として感じ、だから倫周が遼二と一緒にいることにさえも
あんなに嫌悪感があった。だから常に倫周を酷い言葉で脅かしては自分のもとに置いていた。
そして倫周が自分のもとにいるという確信が持てたときだけ、飛び切りやさしくなれた、素直になって
倫周に縋ることが出来たのに、ついこの前は又しても酷いことを言ってしまった。
一生帝斗の代わりにしてやるよ、、、
本当はそんなことを言いたかったわけじゃない。
倫周の言った通り、紫月は確かに今でも帝斗を想ってはいたのだけれど、それとは別だとしても
倫周に対しても愛情はちゃんと持っていたのだった。
確かに最初は帝斗を盗られた憎しみからだった、だがそうして倫周をその手に抱くうちに、長い月日を
共に過ごすうちに愛情が芽生えていたのも確かだったのだ。
それは帝斗に対して持っていたものとは又違った形にせよ、紫月はこのとき確かに倫周を愛していた。
だが紫月にはそれらの気持ちをどうしてもうまく伝えられなくて、だから周瑜が倫周を包み込んだときは
正直 衝撃だった。自分だって倫周を想っていたのに何故その気持ちが素直に伝えられないのだろう
とその心を歯がゆい気持ちで一杯にしていた。今度こそはきちんと伝えようと思っても倫周を目の前に
すると心とはうらはらな酷い言葉が口をついて出てしまう。
だからついこの間だって、孫策が亡くなったことで独りになった倫周に今度こそ気持ちを伝えて包んで
あげようと思っていたのにあんな言い方をしてしまった。
あれ以来、何度か倫周を抱いたけれど結局は素直な気持ちを伝えられないままに倫周は周瑜のもとに
受け止められてしまった、気まずい関係のまま離れ離れになってしまったことに紫月は後悔の念で心を
一杯にしながら重たい気持ちを抱える日々を過ごしていたのだった。
そんな折だった、日増しに伸びた陽が完全に沈み切って辺りを闇が包み込んだ頃、今宵も又重い
気持ちのまま眠れぬ夜を過ごすのであろうと虚ろな瞳で寝所に腰を下ろしたとき。
ばたばたと慌しい叫び声のようなものに紫月は室から外を覗いた。
「倫っ、、、!」
そこには倫周を抱きかかえる安曇の姿があったがそのあまりの酷い様子に紫月は我が目を疑った。
「倫っ、、、倫っ、どうしたんだっ!?お前っ、、、こんな、、、、」
泥に汚れてぼろぼろに引き裂かれた衣服、その下から覗く白い首筋や胸元の至るところにどす黒い
痣が無数に広がって血が滲んでいる。髪は乱れて唇は切れて顔色は真っ青だった。
紫月は慌てて駆け寄ると倫周を抱きかかえた。
「倫っ、倫っ、、、おい、しっかりしろっ!」
そう言って叫ぶと少し意識が戻ったのか、倫周はうっすらと目を開けると紫月を確認して安心したかの
ように大きな瞳に涙を一杯に溜めながらぐっと、紫月に抱きついた。
縋るように唇が重ねられて、、、
「倫、、、?」
紫月は驚いたが余りのことにまるで頭の整理がつかないでいた。戸惑う紫月に倫周は涙に声を
詰まらせながら必死の思いを口にした。
「抱いて、、、紫月、、お、願い、、、紫月抱いてよ、、俺を、、、愛して、、、」
お願い紫月、忘れたいんだ、あんなこと忘れたい、、、もう嫌だ、何もかも、、、
連れて帰ってよ、あの頃へ。あのプロダクションの部屋へ。あの夕陽が眩しかった春の日に、、、、
帰してっ、、、抱いて紫月、助けて紫月っ、、、俺にはもうあなたしか助けてくれる人はいないっ、、、
・・・兄上にあんなに寵愛を受けておきながら兄上が亡くなるともう公瑾を抱き込んでっ、、、
この色情狂めがっ!お前など抱いてやるのだ、有難く思えっ、、、
兄上や父上や公瑾ならよくて私では嫌だとでも言うのかっ!好き者のくせにっ・・・
朝方から続いていた雷鳴の中で孫策の亡き後の呉国を継いだ君主、孫権による衝撃の怒り。
そして、、、
・・・あんた、自分の置かれてる状況が分かってないなあ?俺たちは孫権さまに頼まれて来たんだぜ、
あんたこうして欲しいんだろ?・・・
数人の見知らぬ男に引き裂かれて、、、
孫策が亡くなって周瑜に受け止められた倫周はしばし、幸せの中にあった。
だがそれまでの事のいきさつをよく知らなかった孫策の弟で、ときの君主の孫権仲謀に周瑜との逢瀬を
偶然に目撃されてしまった倫周は、そのことで怒りに燃えた孫権によってその身体を奪われてしまった。
それだけならまだしも若さ故だったのかどうにも怒りの収まらない孫権が手をまわした数人の男たちの
手に係り信じがたいような暴行を受けて、全身の激痛と酷い吐き気を引きずりながら、瀕死の思いで
蒼国の幕舎に帰ってきたのだった。
ああ嫌だ、もうすべてが嫌。どうしてこんな、俺は孫策を愛しただけ、周瑜を愛しただけ。
人を愛しただけなのにどうしてそれがいけないんだ、どうしてこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ。
人を愛するってそんなにいけないことなのか?教えてくれよ、俺が何をしたっていうんだ?
只、人を愛して信じただけなのにどうしてこんなっ、、、、
ああ紫月っ、抱いて、お願い、、、そしてこの汚いものをすべて押し流してしまってくれよ、、、
あいつらに穢されたこの汚い身体をどうすれば始末できるんだろう、俺には死ぬことさえも許されない。
あなたしかいないんだ、こんな俺の我がままを聞いてくれる人。俺にはもうあなたしか頼るところが
ないんだよ、、、紫月許して。あなたから帝斗を盗った。そしてあなたを苦しめた数々の俺の行動を。
許して欲しい、、、そして我がままを聞いて欲しい、俺を抱いて。
あなたに抱かれてすべて忘れてしまいたい、嫌なことすべて、、、
この汚い身体をあなたのその青真珠のような肌で洗い流してっ、、、ああ抱いてっ、、、、!
がっくりと倫周は紫月の腕の中で意識を失った。
紫月は倫周を抱き締めるとしばらくはそうしてじっとしていた。
倫、倫、誰がお前をこんなふうにした?こんな、、、
綺麗なお前を、輝くようなお前の白い肌にこんなに痣がいっぱいになって、、、
許せないっ、誰がやったんだっ!
辛かったろう?苦しかったろう?お前をこんなにした奴らを俺は絶対に許しはしないよ、、、!
ああだけど、、、
その昔、俺だってお前に同じようなことをした、、、帝斗を盗られた腹いせにお前を犯した。俺だって
同じだ、恐らくはお前をこんな目に遭わせた奴らと一緒だっ、、、
そう、あの頃だって俺は同じようなことをしていたんだ。お前を突き放し、お前が若いバイトの男たちに
犯されていたのを知ってた、、、それを俺は喜んで見ていたんだ、、、、っ、、、
いい気味だと。これでお前はお終いだと、そうなるように仕向けたのは他でもない、この俺だっ、、
ああ倫っ、、俺は何て酷いことをしてきたんだっ、お前を一番酷い目に遭わせてきたのは俺じゃないか、
俺は許されないことをしたんだ、誰よりも許されないのはこの俺だっ、、、
倫、倫、ごめんよ倫。許しておくれよ、、、、
紫月は倫周を抱え上げると寝所に連れて行き、傷の手当てを施した。そして側にいた安曇に
後を任せると何かを決意したように自分の室を出て行った。
そんな紫月を安曇は不可思議な表情で見つめていたが。
しばらくして紫月が戻って来たその後ろには帝斗も一緒だった。
「どうしたのですかっ、これはいったい、、、」
驚く帝斗に紫月は意を決したように自分のすべての思いを話し始めた。 |
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