蒼の国-TS Version/Ties2-
帝斗の部屋を出て遼二は急いで収録中の歌番組のスタジオへ戻った。自分の出待ちの合間を

抜けて帝斗を訪ねたのであった。自分たちの出まではまだ若干時間があったので一服でも

しようと遼二は外へ出た。

先程よりも少しやわらかくなった午後の日差しが此処にも降り注いでいた。

思いっきり背伸びをしてから煙草に火を点けようとした瞬間、大きな貯水槽の影にひっそりと佇む

倫周の姿が目に入り遼二は足を止めた。遠くに午後の日差しを受けながら何かを握りしめて

瞳を閉じている。声を掛けるつもりで近寄ったが大事そうに握りしめているその手の中のものを

確認した瞬間に遼二はそれ以上動けなくなってしまった。

倫周の手に大切に握りしめられていたもの、それはドラム用のスティックだった。スティックを

大事そうに胸元に握りしめ、まるで愛しいものを想うようなその姿に遼二は、はっとなった。

あのスティック、、、確か粟津さんに買ってもらったって喜んでたやつ、、、倫、、、、

そんなにもお前は粟津が好きなのか?そんなにも忘れられないのか?今でもずっとずっと粟津

一人を追いかけて、そんなふうに辛そうな表情をして、、、倫、、、、



ふいに後ろから強い力でつかまれて、倫周ははっと振り返った。それが遼二だと確認出来た瞬間に、

強く唇を奪われた。突然に強く激しく、それはまるで怒りさえも感じる程で。

「りょ、、、遼二、、待ってよ遼二、、、」

ようやく倫周は遼二を引き離すと不思議そうにその瞳を覗き込んだ。

「どうしたの?突然に、、、何かあったのか、、?」

そんなことを訊いてくる細い身体を引き寄せると遼二は折れそうな位の力を込めて倫周を

抱き締めた。



「忘れろっ!もう、、忘れろよ、、、」



俺が側にいるじゃないか!俺じゃだめなのか?粟津のことはもう忘れろよっ、、、なあ倫、、、

ぎゅうっと強い力で抱き締めて、息も出来ないくらいのくちつ゛けをして、絡めた舌を噛み切って

しまうくらいの激しいくちつ゛けをして、、、

「遼二、、遼二、、、こんなとこじゃ誰かに見つかっちゃうよ、、、」

それは倫周でさえ心配する程の激しい抱擁で、、、

「いいじゃねえか見つかったら見つかったで。俺は全然構わねえよ、、、お前はどうなんだ?

お前は見つかったら嫌なのか?」

真剣な表情でそんなことを訊かれて倫周はぽっと頬が赤く染まった。

「別に、、嫌じゃないけど、、、何か遼二らしくなくて、何かちょっと恥ずかしい、、、」

頬を染めて恥ずかしそうにする倫周を遼二はもう一度抱きしめた。強く、強く、抱きしめて。

実際、本当に誰かに見られていたなんて2人には思いも寄らなかったけれど。





それからしばらくして倫周にたまには笑みがこぼれる程になった頃、久し振りに夕方前にオフに

なってFairyのメンバーは一緒に食事にでも行こうと駐車場に集まって来ていた。

撮りが一番最後だった倫周と潤を待ちながら遼二らは車の前で一服をしていた。夕方の日差しが

眩しい5月の駐車場で。

にこにこと大きな瞳に意味ありげに微笑みを湛えて信一が遼二に近寄って来た。

遼二の顔を覗き込んではうれしそうにニヤニヤと微笑っている、その様子に遼二は繭をしかめ

ながら言った。

「何だよ?気持ち悪ィな、、、」

信一はまだニヤニヤとしている。その後ろで剛までが肩を竦めてジェスチャーして見せてきた。

一体何なんだと思った瞬間、信一に言われた言葉で遼二は顔が真っ赤になってしまった。

「ねえ遼二ぃ、、、俺こないだ見ちゃったぁ、お前と倫周がキスしてるとこ、、、」

ふふふっ、と微笑って信一は剛に抱きついた。そして遼二の方を向いてわざとからかうように

剛に体重を預けると

「ねっ遼二!こんなふうにして、さ!すっごい激しかったよねっ!いいなあ、うらやましいなあ」

そんなことを言う信一に剛がやさしい視線を向けながら言った。

「何だよ?お前ももっと激しいの、して欲しいのか?」

きゃははは、とうれしそうに笑い声をあげると2人はいつものようにじゃれ合いながら言った。

「一応さっ、おめでとさん!って言った方がいいのかな?けどそうなるとあと一人うるさいのが

いるよなあ。あいつにはこういうことって理解してもらえないんじゃ、、、」

そい言いかけたとき。後方から利発な声が響いてきた。

「誰がうるさいんですって?だいたい!皆何か誤解してるようですけどね、別に同性愛がいけない

なんて僕は思っていませんよ。むしろそういうものが必要不可欠な場合だってあるんですから。」

いきなりの登場にきょとんとした表情の3人を横目に流しながら潤は続けた。

遠くにこちらに向かって来る倫周の姿が目に入ったが潤はそちらを見ながら話を始めた。

「例えば昔の戦国の時代なんかですと当然戦場には女性が居ないわけですからそういった

場合は男性同士での性行為は当たり前だったんですよ。別に戦場に限らずですけど現在だって

男性社会ではそういったことは珍しくありませんし、まあ体外は信一さんのような可愛いらしい

タイプですとか彼のような綺麗なタイプの男性が主に女性の役割になるのが普通でして、、、」

云々とそんなことを哲学的に飄々と言ってのける潤の方が余程並外れているんじゃないかと

3人は思っていた。

ぽかんと口を開きながら自分を見ている3人にちらりと流し目を送ると少々口をとがらせながら

潤は言った。

「けど、だからといっていつもべたべたは困りますからね!移動中の車の中でずっとなんて僕は

嫌ですよ!僕は一人身なんですから、それぞれの世界に入り込まれてもねっ、そこんとこは

少しは気を使って下さいよね!」

ぷりぷりとしながらそんなことを言う潤に3人はぷーっと噴出して、腹を抱えて大笑いになった。

そんな様子に潤も一緒に笑い出してようやくやって来た倫周は何もわからずにきょとんとした

表情をした。それが又どうにも可笑しくて一同は又笑い転げた。

そんなふうにしてFairyはまたひとつ絆を深くしたのであった。