蒼の国-TS Version/衝撃の事実-
こうして三国志の時代へ転送されても紫月との逢瀬は以前と何も変わることなく、

続けられた。欲望の赴くままに、それは以前よりも増して激しくなっていくかのようだった。

そんな事実が遼二にばれてしまったことと、それぞれの部隊へ配属されて思うように時間が

とれない現実とが重なってそれ以来遼二とは身体を重ねる機会は無くなっていた。

幼い頃からずっと一緒だった遼二に対して格別の感情を持ち合わせていなかったのか、

どれ程の思いで遼二が自分を受け止めてくれていたかなど、そんなことには考えも

及ばないまま、倫周は求められるままに紫月に自身を預けていった。

そしてそれは紫月との間のことだけではなくって・・・

紫月に酷い仕打ちを受けて傷付いていた倫周をやさしく受け止めてくれた呉の君主、

孫堅文台ともそんな甘いひとときを続けていた。



どうしてそれが普通ではないと気付けなかったのだろう、いくらそれが1800年前という

現実離れした時代であったとしても、一国の君主にまで甘えてその身を委ねている現実に、

違和感を感じられなかった倫周はやはり愛というものに対して

どう向き合ったらいいのかが解り得ない性質だったのか。

幼い頃からの因果と、そして永きに渡って仕込まれた紫月との快楽の日々が

作り上げた賜物、悪気のない倫周の本能のままの行動に天罰が下る瞬間はもうすぐそこまで

近付いてきていた。

それは真剣な愛というものを持ち合わせた人、その後倫周に初めて”愛”というものが

何なのかを教えてくれる唯一人の人によってもたらされた。

それは運命だったのか。

孫堅文台の長子、孫策伯符は身をもって倫周に愛を教えていくこととなる。





孫堅と倫周の甘い逢瀬のひとときを偶然に目撃してしまった息子の孫策は、

父孫堅が隣国周りに出掛けた折を見て倫周を問いただした。

真面目で男気の強かった孫策は倫周の乱れた感情が理解出来ずに怒りに燃えた激情を

ぶつけて、倫周の細い身体をずたずたに引き回しては殴り飛ばした。

額が切れて、血が噴出して、身体中痣だらけになる程に殴られて、

倫周は今まで経験したことのない暴力というものに驚愕の感情でいっぱいにしていた。

だがそんな感情をも意識出来なくなる程に身体中は激しい痛みと苦痛に襲われて、倫周は

初めて 今までしてきた愛欲の行為が普通ではないことを認識させられたのだった。

左程の悪気のないままに、求められれば素直に身を任せた。

倫周にとってそんな当たり前の行為はこれ程までに痛みを伴わなければ許されないような

特別の行為だったのだと、無言のまま孫策はそう云っていた。



「ごめんなさいっ・・孫策さま・・・許してくださいっ・・・・・」

謝っても謝っても孫策の激情を鎮められることはなく、孫策の口から発せられる言葉は

「お前が親父を穢した」 というひと言だけだった。

穢した・・・?

何で・・・?

俺は決してそんなつもりじゃ・・

あまりに乱暴に殴り付けられて、耐え切れない身体中の痛みに倫周は無意識に

助けを求める言葉を叫んだ。



「助けて帝斗っ・・・!」



倫周にとって自分を救ってくれる温かい存在は依然、帝斗から変わることはなかった。

どんなに身体が紫月を求めても、今までの紫月との経緯からするならば

それらは決して自分を助けてくれる、包んでくれるといった温かい存在とはいえなかったのだろう、

倫周にとって永遠の憧れ、聖者のような大いなる存在は今尚変わることなく帝斗であったのだ。

だが無意識に叫ばれたそんな言葉は怒りに燃えた孫策の心を更に煽るように

2人を怒涛の渦の中へと突き落としていったのだった。



「帝斗って誰だっ!?お前はそいつとも関係があるってのか!?

親父とだけじゃなくて!?一体何人の奴とそんなことしてんだっ!?」

狭い部屋に轟くその声が恐ろしくて倫周はひたすらに懇願の言葉を繰り返した。

「ごめんなさいっ・・孫策さま・・・許してくださいっ・・ごめんなさい・・・・」



どうして・・こんなに謝ってるのに何でこの人の怒りは鎮まらないんだろう?

何をそんなに怒ってるんだろう? 孫堅さまを俺が穢したって・・・・どうして・・・・

そんなことしてない・・穢すなんて・・・・・

あれが穢したってことなのか・・孫堅さまと俺のあの・・・・

どうして? だって孫堅さまは・・・・あんなにやさしくしてくれたのに・・

それに帝斗のことだって、どうしてそんなに怒るんだろう? そんなに怒ることなのか?

そんなこと言ったら帝斗だけじゃないよ、紫月だって遼だって皆と俺は同じことをしてたんだもの。

あれが悪いことだっていうのか? どうして・・何で・・・・?

何がそんなに悪いんだ・・?



それから孫策は毎夜のように倫周の傷の手当てをしながら、その後で必ず倫周をその腕に

抱いた。そんな行為に倫周の心は疑問で揺れると共にあの夜のことは一体何だったのだろうと

不思議に思っていたのだった。



この人もやっぱり皆と同じように俺を抱く。じゃあ あの夜は何を怒ってたんだろう?

このことじゃなかったのかな?俺はてっきり孫堅さまとこんなことしてることを怒ってるんだと

思ったんだけど・・・違ったのかな・・?

でも、、、気持ちいい。こうして誰かの腕の中にいる時は気持ちが落ち着くんだ。

いつも紫月がそうしてくれたように、こうして強く抱き締められるのって大好きだよ。

温かさを感じる、どんな人でもこの瞬間だけは皆が俺にやさしくしてくれるから、

やさしい瞳で見つめてくれるから、、、この瞬間が好きだよ、、、、



そんな倫周を夜毎にその腕の中に抱いて。

孫策はどうしようもない気持ちに駆られていた。

倫周、お前はどうしてそんな寂しそうな表情をするんだ、どうしてそんな遠い瞳をしてるんだ、

空を漂うようなおぼろげな瞳。何かを求めているような寂しそうな瞳。

だからなのか?親父があんなことをしていたのは。

こいつがあまりにも寂しそうで儚くて、消え入りそうなくらい切なくて・・・

だから親父はこいつを抱き締めてやったというのか?

倫周・・・お前は・・・・・・



「なあ、お前は好きな奴とかいないのか?その、さ。

何だ、いつもお前が言ってる帝斗だっけ?お前はそいつのことが好きなのか?」



少し照れながらそんなふうに訊いた孫策に倫周は驚きの表情を向けると

すぐに縋るように胸の中に飛び込んで来た。

「違うっ・・・帝斗なんて、好きじゃない・・・俺が好きなのはあなたです。あなただけ・・・

だから怒らないで・・お願い、怒らないで・・・・」

必死にそう懇願する、まるで媚るように自分を貶めながら、そんな行為さえ何でもないといったように

倫周は腰を折りながら孫策に媚びていた。

孫策は驚いた。

一応、大人の男がそんなふうに他人に媚びるなんて今までの自分の人生からするならば、

到底考えも及ばないことだったからだ。

そう、他人に媚びるなんて男として最低の行為、そんなふうに思ってきたから・・・

にもかかわらず、目の前の倫周は何の抵抗もなく自分に媚びてくる。それはまるでそうしないと

何か酷い目に遭わされるんじゃないかといったような恐怖の念が見え隠れしているようで

孫策は少々後悔をしていた。



あの夜、ちょっとやり過ぎちまったかな?親父のことで怒って俺がこいつを殴ったりしたから、

きっと俺のことが怖くなっちまったんじゃないか?

そんなふうに思っていたのだったが。

だが或る夜の倫周のひと言が孫策の心に驚愕の思いを突きつけた。

それは驚くべき言葉。



倫周が自分に対して怯えた感情を持っているのではないかと気付いた日以来、

いつもよりもやさしく倫周を抱き締めてやっていた孫策の胸の中で倫周が言ったそのひと言が

孫策の胸を締め付けて・・・



「なあ倫周、そんなに怖がるんじゃねえよ。俺はもう何もしねえからよ、お前を殴ったりとか、

傷付けたりなんかしねえから、なっ?」

・・・・・・・・・・・・・?

え・・・・?

「孫策さま・・・・」

「んな顔すんなって。いつかは悪かったよ、お前をあんなふうに殴ったりして、、さ。

今はもう何とも思ってねえしよ。どっちかっていったらお前のこと好きだよ、だからさ、、、」

そう言い掛けて。

「好き・・?俺のことが?本当に・・・?」

そう言うと倫周は思いっきり孫策の胸の中に飛び込んで来た。



ああよかった・・許してくれたんだ・・・・この人も皆みたいに俺のことを好きだって言ってくれた。

この瞬間はやっぱり俺をしあわせにしてくれる最高のときだよ・・

こうして俺が胸の中に抱かれているときは、誰も俺を傷付けない。皆やさしくしてくれる・・・

好きだって、愛してるって言ってくれる。だからこの瞬間が好きだよ・・・





「そう、皆そう言う・・好きだって言ってくれるんだ・・・俺を抱いてくれる瞬間は皆やさしいから

この瞬間が好きだよ・・・・・皆愛してくれるから・・・」





自分の胸元に頬を摺り寄せながらそんなことを言った倫周に孫策は驚きと哀しみの感情を

隠すことが出来なかった。

自然と涙までもが滲んできて・・・



「倫周・・・愛ってそんなもんじゃねえ・・人を愛するって、そんなもんじぇねえよっ・・!」



そう言いながら腕の中の細い身体を折れるくらいに抱き締めた。

きつくきつく抱き締めて、壊れる程に孫策は倫周を抱き締めた。

そんな孫策の行動に当の倫周は大きな瞳をぱちくりとさせながら

きょとんとした不思議そうな表情を浮かべていた。