蒼の国-TS Version/癪重の宴-
夜半になって紫月に言われた通りに倫周はやって来た。

蒼国の幕舎の裏の林道を抜けた森の入り口は真っ暗で何もなく、このような時代だから

辺りを照らす灯りなどはあるはずがなかった。

時折森の木々の合間から差し込む月明かりだけがぼんやりと当りを照らしていた。



薄暗い森の大きな幹に寄りかかりながら紫月は空を見上げていた。

ふっと倫周に気が付くと褐色の瞳がにやりとうれしそうに笑みを見せた。

「よく抜けられたな、そんなとこに突っ立ってないで早くこっち来いよ。」

そう言うとぐいと倫周の細い腕を引っ張って寄りかかっていた幹に押し付けた。

紫月はその腕の中に倫周を押さえ込むとうれしそうににやにやと笑った。



「なあお前さあ、この前遼二と何してた?ここに来る前の晩、シュミレーションルーム行ったんだろ?

又この身体を自由にさせたわけ?そんなに遼二がいいんだ?俺に抱かれるだけじゃ足らねえってわけ?

お前も好きだなあ、、、ふふふっ、倫君のエッチ!」

白い頬を撫でながら耳元で低い声で囁く、そんな紫月が痛々しい程恐ろしげで

倫周はぎゅっと瞳を閉じた。



違う、こんなことを言いたいんじゃないのに、、何で俺は、、、

だってこいつがいけないんだ!あんなに愛してやったのに、俺は本気で全ての愛情を注いだのに

こいつが遼二とあんなことするからっ、、、

俺は帝斗を忘れてこいつだけを愛していこうと思ったのにっ、、、折角そう思うことが出来たって

いうのに何でこいつにはわからないんだ、、、もともとはこいつのせいで俺は散々苦しんで、、、

それなのにっ、、、!

こいつのせいだっ、、こいつのせいで俺は帝斗を失いこんなになっちまったんだからっ、、、

みんなみんなこいつの、倫のせいで俺はっ、、、倫が憎い、いくら憎んでも憎み足りないっ、、!

そうだ、こいつがいけないんだ、こんな奴、、、、



すぐ側で自分を見つめる褐色の瞳が歪んで震えている・・・?

得もいわれぬような深い悲しみの表情を・・・

紫月、何がそんなに悲しいの?何がそんなにあなたを追い込んでるの?

このところ次第に色濃くなってくる紫月のいろいろな感情が入り混じったような複雑な瞳を

いつも側で感じながら倫周にはその本心がつかめないでいた。



「脱げよ。」



今まで感じていた深い悲しみの感情があっという間に色を失くす、乾いた言葉だけが響いて。



「何ぼうっとしてんだ?脱げって言ったんだっ、脱いでそこで裸になれよ。早くしろっ!」

倫周は蒼ざめた。

ころころと変わる紫月の感情と言葉が痛い程伝わってくるのに本心がまるで見えなくて。

苛々とした感情が紫月をどんどん追い込んでいくようで言葉はどんどん乱暴になって

自分を責め立てる。



なんで、、紫月、、なんでいつも俺を、、いつも酷い言葉で俺を追い込むんだ、、、

この間まではあんなにやさしく愛してくれたのに又 急に俺を追い詰める、、、

紫月、あなたはまだ俺を許していないの?

だってもうそんなこと思ってないって、ついこの前そう言ったじゃないか?

俺が帝斗の代わりになってあげるだなんて、そんなことまで言ったじゃないか、、、

それなのに、、、

酷くやさしかったり、すごく甘く愛してくれたり、何でそんなに変わるんだ、、、

全身で感じるあなたの深い悲しみのような感情とあなたの言葉があまりにも違っていて、、、

俺はどうしたらいいのかわからなくなる。

酷い言葉と共に乱暴になっていくあなたの感情が、怖くて、まるで狂気のように感じられて、、、

紫月、あなたはいったい、、、



震える手で倫周は衣服を解いていく、その様子を満足そうに見つめながら紫月は更にエスカレートして。



ぱさり、と最後の一枚を地面に置く、その手が震えて・・・・

ねっとりと這うように紫月はその白い肌に触れる。舐めるようにひとつひとつその存在を確認するように

白い肌の上を褐色の瞳が這い回って。

嫌だ、怖いよ・・・紫月・・・・もうやめて・・・



「んっ・・・・」

倫周の瞳に涙が滲む、一糸纏わぬ白い肌が震えて。

辛そうにするその表情に褐色の瞳は怒りの色を映して。



「何だよ、そんなに嫌なのかよ。そんなに遼二がいいってのかっ?言えよ倫。どっちがいいんだ!

俺と遼二のどっちがいいかっ、、、言えよっ、、、!」

凶暴な手が細い肩をがくがくと揺り動かして、その表情は怒りで蒼ざめて歪んでいく。

怖い、やだ・・もう嫌だ・・助けて誰か・・・助けて・・帝斗っ・・・!

倫周は声を上げて泣き出した。そんな様子に紫月の感情も又掻き乱されて、その心の内とは

うらはらに進んでいってしまう自分が哀れで悲しくて、どうしようもなくなる。



どうして素直に好きだと言えないんだろう?いや違う、、、俺はちゃんと言ったじゃないか。

倫を愛してるって言ったのに、それなのにこいつが悪気もなく遼二に抱かれたりするから。

だから俺はこんなに苦しんでるのにっ、、、こいつはそんな気持ちを何ひとつわかってないっ!



紫月はそんな思いを素直にそのまま言葉に出来たなら倫周とも分かり合えただろうにどうしても

それが出来なかった。又 倫周の方もこれ程の紫月の想いに気付くことも出来ずに遼二にも、そして

求められればこうして紫月にも迷いなく身を任せてしまう、それが普通ではないということに

気付けなかったのは幼い頃からの因果、というだけでは済まされる問題ではなかったろう。

いずれにしろ、もう20歳にもなってそうしたことに気付けなかったのは倫周自身にも免れ得ない

責任はあったといえよう。

言葉ではっきり愛している、と真剣に言われなければ気付けない、そんな歳ではなかっただろうに。

逆に考えるならば言葉でさえ言ってくれればそれを鵜呑みにする危険性も十分に兼ね備えていたわけで、

どちらにしても倫周は愛というものに対してどう向き合っていいかが解り得ない性質だったのかも知れない。

それは今までの自分を求めて近寄ってきた全ての人々が倫周に与えた疑心暗鬼のような

不幸な本能だったのかも知れない。





一頻り激情をぶちまけて息のあがった2つの身体が闇を仰ぐ。

恐る恐る衣服に手を伸ばすと倫周はその場から立ち去ろうとした、その瞬間。

強い力で腕をつかまれて、、、



「誰が行っていいって言ったよ?」

乱暴に引き寄せられた。

「お前は俺のものなんだからな。俺がいいって言うまでここにいるんだよっ!

どうせ、まだ足んねえんだろ?だから遼二のところにいくんだろ?それとも遼二はそんなにいいってのかよ?

俺よりも遼二がいいから、、、?、、、どうなんだよっ!?」

紫月は怒鳴った、苛々とした感情をぶつけるように怒鳴って。



倫周はますますわけがわからなくなって、どうしたらこの紫月の激情を沈められるのか、

何をそれ程までに怒り狂うのか、そんなに自分のことを憎いのか、まるでわからなくて怖くて。

無口になって震える、涙だけが込み上げてきて。そんな倫周に紫月はもっと怒りを露にして。



悪循環の繰り返しだった。本当はそんなこと言いたいんじゃないのに、そんなことしたいんじゃないのに、

どうしようもなく悪循環を繰り返す。わかっているのにとめられなくて。



無理矢理に白い身体を押さえ込んで激しく愛撫して、そうする度に腕の中の大きな瞳は涙を流す、

抵抗もしないまま只ひたすらに耐えるように泣いて。

「そんな、、泣くほど嫌だっていうのか?ちょっと前までは俺に抱いてってせがんでたくせに、、

ちょっと遼二にやさしくされて?遼二を想って泣いてるってわけ?ここはこんなになっちゃってるくせに、、

この、、、変態野郎っ!お前なんか、お前なんかっ、だたの汚ねえ淫乱野郎のくせにっ、、、!」





目の前が真っ白になった。

なんでそんな酷いっ、、、酷すぎる、、、っ、、、

もう、、紫月なんか、紫月なんかっ、、、大っ嫌いだ、、っ、、、!

倫周は紫月を跳ね除けた、力一杯跳ね除けて、突き飛ばした。



「嫌い、、大っ嫌いっ!」



それだけ叫ぶと一目散に走り去って行った。

「倫っ・・・!」

待てよっ、倫・・・っ・・・

行かないでくれ・・なあ・・・行かないでくれよぉ・・・・

俺を置いて行かないでくれっ・・・倫っ・・・!

闇の中に小さくなっていく後ろ姿を追いかけながら紫月はその場に崩れ落ちた。

ふと目をやった先に倫周の上着が落ちていて、紫月はずるずるとそれを引き寄せると頬刷りを

しながら泣き崩れた。



嫌だ倫・・・行くなよ・・・俺を置いて・・行かないで・・くれ・・・

倫、倫、ああ倫・・・っ・・