蒼の国-TS Version/輪廻- |
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それから一週間もした頃、紫月は偶然に仕事で倫周と組が一緒になった。2人だけではなかったが
ビルと信一が一緒で、近頃にしては割と大きな仕事のようで現地には2〜3週間、或いは一ヶ月位は
行くことになると、高宮から説明を受けた。
場所は平安時代のようだったが、何故か今回は仕事内容があやふやでそんなに長い間、4人もが
出向く割には特に何をしろとも指示されていなく、ただその時代の指定された場所に生活をして辺りの
様子を見て来いというのが高宮の指示であった。
遠く平安の時代に転送されて、のどかな風景にビルは思いっきり背伸びをすると
「あ〜あ、平和だねぇ・・・特に何しろとも言われてないのだし?これからどうするよ?
この先の都でも訪ねて久し振りに雅な気分にでも浸るか?なあ、紫月よ?この時代の綺麗どころを
拝むっていうのも悪くはないぞ?」
そう言って紫月を振り返ると側で膨れっ面をした信一に気付いてにやりと笑った。
「ああ、お前らは残ってろよ、ああいうとこは大人の行くとこだからしてなあ。それにお前はそういうとこ
行ったってしょうがないであろう?剛君に悪いもんなぁ?だからお留守番、お留守番・・・とっ!」
「何だよ、俺だってもう20歳過ぎてんだ!子供じゃないってば!それに町行ったからって遊びに行く
とは限らないだろ?俺だってこんな人のいないような村にいるよりは町行って旨いもんでも食いたい!
なあ、連れてってよぉ、ビルぅ・・・ねえ、専務ぅ・・・皆で行こうよぉ・・・」
信一は未だに紫月のことを専務と呼んでいた。
そう言って駄々をこねる信一に、くすりと微笑むと紫月は言った。
「じゃあ行っておいで。俺は今日は遠慮しとくから。ねえ、ビル連れて行ってやってくれよ。」
そう言うと信一はうれしそうな顔をしたが今度はビルの方が膨れっ面になってしまった。
「何でぇ?俺はこぶ付きなんて嫌だぞぉ、もう・・・」
そう言いながら倫周の方を振り返ると、急いで信一の手を取って引っ張るようにしながら足早に
歩き出した。
「倫周っ、お前はお留守番なっ!紫月と一緒にここに残れっ、いいな、お前は又今度連れてってやるから
今日は遠慮してくれっ!じゃねえとこんなこぶが2つも付いて来たらたまらんからな、じゃ悪いなあ!」
そう言い終わる頃にはもうビルと信一の姿は既に小さくなっていた。
少々呆れたようにそんな2人を見送った後、もう日が傾き出した午後の日差しの中に紫月は倫周を
振り返った。
「お前も行けば?今からなら追いつけるだろう?」
静かにそれだけ言うと紫月はこれから住むことになる自分たちの家へ戻って行った。
「待って・・・待ってよ、紫月・・・・」
どちらからも取り残されそうになって倫周は慌てて紫月の後を付いて駆け出した。
夕闇が降りると辺りは真っ暗だった。こんな時代だから電気などあるはずも無く、ましてやこんな
ひと気の無いような村には只 虫の鳴き声だけが響いていた。
特に何を話すわけでもなく紫月は倫周と一緒に軽く夕食だけ済ませるとすぐに自室に引き上げて
しまった。自室、といっても襖一枚挟んだ狭い部屋の油の灯りだけの中ですることも無くて倫周は
そっと襖を開けると隣の紫月に声を掛けた。
「ね、ねえ紫月・・・何してんの・・・?」
少し遠慮気味に声を掛けたけれど。
紫月は開け放した障子に寄り掛かって外を見ながら酒を呑んでいた。
恐る恐る襖から覗き込むその気配にじろりと大きな瞳だけが向けられて・・・
「何だよ?何か用か?」
穏やかだが感情の無いような声が尋ねた。
「ううん・・・別に・・・・ただ何してるかなあって・・・何となく眠れなくて・・」
又も遠慮気味に言われた倫周の言葉にふい、と微笑むと紫月は言った。
「じゃこっち来いよ。お前も呑むか?」
そう言って新しい杯に酒を注ぐと倫周に勧めた。
「あ・・ありがと・・・あの・・」
あの飛行機事故以来、蒼国に入ってからはあまり紫月と接する機会が無かった倫周は少々怯えた
ようになりながらも2人っきりの気まずさに何も言わずに襖一枚挟んでいる方が余程嫌で声を掛けた
のだったが。
倫周も又、蒼国に来てからというものあれ程激しかった紫月の感情が左程感じられなくなったことに
不思議な感を抱いてはいた。いつも自分を見つけては所構わず引っ張り込んで激しく抱いた、そんな
紫月が蒼国に来て以来、ぱったりとそういったことが無くなったかと思ったら自分を見掛けても
どちらかといえば避けるようにして顔を合わせないようにしている紫月の様子にどうしたのだろうと
思っていたのだった。
「お前知ってる?今回ここに来た理由・・・」
まだ外に目をやりながら倫周の顔を見ようともしないで紫月は言葉だけを掛けた。
え・・・?
不思議そうな顔をしている倫周を、やっと振り返るとふいと微笑んで紫月は言った。
「下見なんだぜ、今回。次にこの時代で仕事する為の下見。何の仕事かは詳しく知らないけどな、
高宮がそう言ってた。この辺で少し暮らしながらいろいろと下見して来いって。だから
ビルの行動も一応重要なんだけどな、都なんて俺は面倒くさくって・・・・」
そう言って酒を口にすると又ぼんやりとしたような瞳で外に目をやった。
「あの・・・紫月・・・・」
一緒にいてもあまり会話もなく何を話していいのかわからずに又気まずい雰囲気になってしまうようで
倫周は必死に話題を探しては話し掛けようとした。だが特に紫月の方はそんな様子も格別なさそうに
ただぼうっと外を見つめては時折酒を口にしていた。
「ね、ねえ・・・紫・・・・っ・・」
わっ・・・!
突然大きな声をあげたかと思ったら倫周は酒の入った杯をひっくり返していた。
「何やってんだっ!ばかっ・・・早く拭けよっ、染みになっちまう・・・・」
そう言って慌てて差し出した紫月の手が倫周の白い手に重なって・・・・
ひとたび、ときが止まった・・・・・・
紫月の褐色の瞳が倫周を見つめて・・・・
微かに感じる温かい吐息に先日からの光景が蘇る、遼二に抱かれて寄り掛かっていた倫周の姿。
シュミレーションルームから出て来たときの首筋の紅い痕。そして・・・・
抱き締めた帝斗が逃げるようにこの腕をすり抜けて行ってしまったことなどが一気に思い出されて。
僅かに震えている白い手を包むように力を込めるとぐいと勢いよく引き寄せた。
「紫っ・・紫月っ・・・・」
突然の強い力に倫周は慌てて・・・・
紫月はしばらく黙ってそうしていたが腕の中の白い頬を見つめながら褐色の瞳を顰めると湧きあがる
怒りのようなものを抑えるように低い声で言った。
「何て顔してんだよ・・・?今更怖がることもねえだろ?いつもだって遼二にさんざん好きにさせてる
くせに・・・お前ってほんと、強いよな・・・いろんな目に遭ってるにしちゃあそんなこと皆忘れちまった
ような顔してよ・・・・正直うらやましいよ・・・・」
そうしてつかんでいた細い身体をぐいと押し倒すと自分の下に組み敷いた。
「紫・・紫月っ・・・・?」
「ふ・・・んっ・・そんな顔すんなよ倫。何でそんなに強くなれる?教えてくれよ・・・・」
そう、何でそんなに前向きになれるんだ、俺にあんなことされて、いろんな奴に酷え目に遭わされて
何でそんな普通でいられるんだ?俺なんか、俺なんか、いろんなことが重すぎてもう壊れそうだよ・・・・
帝斗だって結局は蒼国に入っても取り戻せなかった・・・・何にも変わらずに、何もよくならない・・・・
身体だって時々酷く辛くなる、何でなんだ・・・俺は何も変われない、よくなれない、なのにお前は・・・・
「倫・・・・」
少し怯えたような瞳で自分を見上げている倫周の白い首筋に顔を埋めた。
「紫月っ・・・・待って、待ってよ紫っ・・・・!」
ぁあっ・・・・
すぐに微かな熱い吐息が掠れて・・・・・
「んっ・・・・紫月、紫っ・・・・」
ほんの少しの愛撫をされて既にとろけるような声を出している倫周の細い身体を感じながら紫月は
次第に自分の中から冷たい感情が湧きあがってくるのを感じていた。
もうこんな声出して・・ちょっとこんなふうにされただけでもう漂うような瞳をして、俺に身体を預けてくる・・
いつもは遼二の腕に抱かれて同じようにしてるくせに・・何でこいつは・・・・・
こいつのせいで俺たちは離れてしまったんだ、帝斗と俺のしあわせだった日々・・が・・・・
すべてこいつのせいでっ・・・・!
「紫月・・紫月・・・・あぁっ・・・・」
とろけるようなその声に、紫月はぐっと力を込めて両の手で細い肩を押さえつけるように自身の
身体を起こすと半分意識の遠くなっている倫周の顔を見下ろしながら言った。
「そんなにいいのかよ?お前ってほんと誰でもいいんだな。っふふ・・・・
こうしてるとよ、何か俺の方が遊郭に行ったみてえな気分だよなぁ?」
「ちっ、違うっ・・・そんなんじゃない・・・・」
「何が違うんだよ?くくくっ・・・もうこんなになっちまってるくせによ?ほら、ほら・・・・どうだよ?
いいんだろ?どうなんだよ、倫?」
や・・っ・・・・ぁあ・・・・・
紫月はしばらくそうして遊んでいたが突然に倫周を引っ張り上げると勢いよく、着ていたものを
すべて引き剥がした。
「やっ・・・紫月、何をっ・・・・」
戸惑う倫周をぐいっと引き寄せるとそのまま庭へ引っ張って降りて行った。
「やっ・・やだっ紫月っ・・・こんなっ・・・・外なんて行けないよっ・・何か着なきゃ・・・ねえっ・・・・
ねえ紫月っ・・・・!」
慌てながら一生懸命身を屈める倫周を庭先に突き飛ばすと紫月は次第に湧きあがってきた冷たい
感情のままに酷い言葉を口にした。
「丁度いいじゃねえか?似合ってるよ、お前には服なんて必要ないじゃない?それにどうせ
まだ続きをしなきゃなんねしな、なっ?そうだろ?」
そう言って一糸纏わぬ姿を地面に組み敷くと乱暴なくらいの強い力で激しく愛撫をはじめた。
さすがに倫周は怖くなって叫んだが・・・・
「紫月っ・・紫月やめてっ・・・お願い・・背中がっ・・痛い・・痛いからっ・・・・」
「うるせえなぁ、黙れよ。どうせ気持ちいいんだろ?ほらもっと声出せよ、遊郭の女だってそんな
文句は言わねえぜ?なあ倫・・・・」
そう言った瞬間・・・・!
又しても突然に襲ってきた激しい動悸に紫月は飛び上がるように倫周から離れると苦しそうに
胸を押さえながら地面に屈みこんだ。
ぁあっ・・・・何で・・又こんなっ・・・・
「うっ・・・・」
苦しそうに胸を押さえながら顔はもう真っ青で冷や汗が月光に光っていた。
「紫・・・紫月・・?どうしたの・・・・ねえ、紫・・・・・」
あまりのもがきように恐る恐る声を掛けたが、そんな声もまるで届かないくらい苦しんでいる紫月を
見て、そっと側に寄ると倫周はその肩に手をまわして包むように抱き込んだ。
「り・・・倫・・・・?」
「大丈夫?紫月・・・ねえどこか具合悪いの?」
そんなふうに心配そうに覗き込んでくる倫周の手を振り解くと苦しそうな声で紫月は言った。
「何でもねえ・・よ、あっち行ってろよ・・・・・」
うっ・・・・!
ああ、苦し・・又身体が震えて・・・・どうかなっちまいそうだっ・・・・
這いずりながら部屋へ戻ろうとして必死にもがく紫月を見ていられずに倫周は再びその身体を
抱き寄せると抱えるようにして部屋へ連れて行った。
そんな倫周の存在を遠い意識の中に感じながら必死の思いで隣に目をやった。
そこには自分の身体を必死に支える一糸纏わぬ姿があって・・・・
倫・・・・
「あっち行けって言ってんだっ!俺にさわるんじゃねぇっ!・・・・っう・・・っ・・・・・」
ぁあ、辛い・・・心臓がもぎ取られそうだ・・熱くて、も、う・・・・・
「紫、紫月・・・・・?あの、だいじょうぶ・・・?」
まだ心配そうな顔で恐る恐る覗き込んでくる倫周のやさしさが痛くて・・・・
紫月は心にもない酷い言葉を口にしてしまった。
「うるせえっ・・!何だよ?そんな顔してんなよ、お前、今俺に酷えことされたばっかりじゃねえかよ?
よくそんな顔してられんな?よっぽどお人好しっていうの?・・・・・・・
じゃなきゃ何だよ?もしかして待ってるわけ?ほんとは俺にされるのを期待してるってか?」
苦しそうにそう言うと紫月は突然に大声をあげて笑い出した。
「くふふふっふっ・・・・ああそうか、お前そういうの好きなんだ?
そういや昔からそうだったもんな?あはははっ、じゃあご希望にお応えしてやらなきゃね。
ほ、ら・・・来いよっ、犯ってやっからよ!」
投げ捨てるようにそう言うと紫月は勢いよく倫周の一糸纏わぬ身体を引き寄せた。
「やっ・・・紫月、違うっ・・そんなんじゃないよ・・・・ただ本当にくるしそうだったから・・・・・」
一生懸命そう言う倫周の不安気な表情が紫月の心を更に病みに突き落として・・・
本当は紫月にも解っていた、倫周がどんなに純粋に自分を心配してくれているか、その瞳を見れば
そんなことは言われなくても解り過ぎる程だったが、紫月にはそのやさしさがあまりに苦しくて仕方
なかった。蒼国に来る前だっていつも乱暴に追い詰める自分を何も言わずに受け入れてくれていた
倫周の温かい気持ちが、純粋過ぎて痛くて。
でも紫月には他にどうしようもなかったのだ。恐ろしい程の身体の震えを止める為に倫周に縋って
いるなどと、認めてしまえばもっと怖くて二度と戻れなくなりそうで。
だからいつも酷い言葉で倫周を追い込んで、自分をごまかしていることに気付いてしまって怖くて。
だから蒼国に来たのをきっかけにそんなことはもうやめようと誓ったのに、今までの自分を改めて
新しい気持ちでやり直そうと思ったのに。
何で・・・・身体は一向によくならない、帝斗は取り戻せない、お前はこうして悪気もなく遼二に
抱かれ、そして俺にも素直に身を任せようとする・・・なんでっ・・・・・
結局俺は変われない、何も変わらない、何もよくならないっ・・・!
はあはあと、荒い息使いが狭い部屋の障子を叩く、紫月の足元を掬うように身体は辛さを増して。
「こ・・っち来いよ・・・・倫・・・来いって言ってんだよっ!」
荒い言葉がついて出た。
こんなこと言いたいんじゃない、こんなことしたいんじゃない、ああだけど・・・・
どうしようもないんだ、辛くて苦しくて・・・倫のせいだ、もともとは倫のせいで俺はこんなになっちまった、
違うっ・・そうじゃないのに、解ってるのにだめなんだ・・・・・
誰かのせいにしなきゃいられないんだ、怖くて苦しくて、辛くてっ・・・・
紫月は震える手で倫周を引き寄せると乱暴に畳の上に突き飛ばした、そして一糸纏わぬその細い
首筋を覆いかぶさるように押さえつけると身体中を激しく弄り始めた。
「お前のせいだっ、お前のせいで俺はっ、俺はこんなっ・・・・」
「っ紫月、紫月っ・・・待って、や・・・・」
「うるせえっ!」
ぱんっ、と頬を殴って・・・・
ときがとまった。
大きな瞳に驚愕の表情が浮かんで・・・・
倫周には紫月の心がまったく解らずに戸惑っていた。ころころと変わる言葉、乱暴な行動、けれども
大きな褐色の瞳はどこか切なく辛そうで。何とか紫月を理解しようとしたのだけれどそんな倫周の
やさしい気持ちはより一層紫月の心を追い込んでしまっていた。だから怖くてそんなもの認めたく
なくて紫月は心にも無い酷い言葉を口にしては迷いを振り払うように倫周に酷いことをしてしまう。
一度捨てようとしたことが、改めようとしたことが残酷に蘇ってしまい・・・
結局はやめられないっ・・・俺はこいつを痛めつけることでしか救われない・・・・・何で・・・っ・・・
紫月も又逃れられない縄にがんじがらめになって、もがけばもがく程複雑に絡まって二度と解けない
鎖のようにその心を陥れていった。
「やめてっ・・・!嫌っ、嫌・・っ・・・痛い紫月っ・・・紫っ・・・・」
「うるせえっ、黙れよっ、お前は俺のもんなんだからなっ・・・何されたって文句なんか言えねえって、
そうだろっ!?倫っ、お前は俺のっ・・・・」
「っう・・・・えっ・・・えっ・・・・・・」
狭い畳の上で倫周は身を捩って、その頬は涙で汚れて、紫月も又、美しい褐色の瞳を歪ませては
その心は怒涛の如く悲しみで潰れそうになっていた。 |
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