蒼の国-TS Version/蜜月- |
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こうしてお互いに一緒の時代へ転送された偶然が蒼国に来て以来、新しい自分と向き合おうと努力
していた紫月の心の抑制を一気に外してしまうこととなった。特に何をするわけでもなくひと月もの間を
一緒に過ごさなければならないこの環境がそんな2人に更に輪を掛けていったのは想像するに
容易すかった。
又しても2人を昔に引き戻してしまったその夜からもう5日が過ぎようとしていた頃。
あれ以来、さすがにビルや信一の手前もあって紫月は倫周に手を出すということは無かったが、
身体の不調は依然儘ならず、激しい症状こそ無かったもののその表情は相変わらず冴えることは
無かった。
そんな折、もう5日も都へも行かずこんなひと気の無い村にたった4人ですることも無くてビルらは
暇をもてあましていた。
「よお!紫月、今宵は皆で一杯やろうじゃないか。酒でもないっていうとやってられないぞ。」
そう言ってビルは先日都で仕入れてきた酒を差し出した。
「たんまりあるからなあ!まあ堪能してくれよ。あっ、これで足らんようなら蒼国から持参してきたのも
あるからな!遠慮しないで言ってくれ?」
ビルはご機嫌で封を切ると皆に杯を回した。
しばらくはたわいの無い昔話などに花を咲かせていたが。
「あ〜あ、しかし暇だなあ。何もしないでいいっていうのも結構酷なことだなあ?あ〜あ、明日は又
都でも行きますか。こんなところに男が4人揃っていたってなあ、することもないしさあ。」
ぐだぐだとくだを巻きながらビルは膨れて見せた。
「そういやこの前はどうだったのよ、都は、さ?」
紫月がそう尋ねると
「ああ、もう最悪よ。何てったってこぶ付きなわけでしょ?綺麗な女子どころでは無かったわ!
こいつときたらまるで祭りの出店をまわってるような感じでよ、あっちこっち引っ張りまわされてそりゃ
散々だったぜ。なあ信ちゃんよぉ?」
そう言われて既に酔いが回っているのか顔を真っ赤にしながら信一はもう半分ろれつのまわらない声で
膨れ返した。
「なあんだよぉ、ビルだって結構乗ってたじゃあ〜ん・・・和の時代を感じるとか何とか言ってさぁ〜、
引っ張り回されたのは俺の方だっての〜にぃ〜・・・あぁ、あふ・・・・・」
大あくびを手で押さえながら信一は畳の上に寝転ぶとビルの腰に抱き付いた。
「何よぉ、信ちゃあん、お前ひょっとして寂しいんと違う?はははっ、だあってぇ剛ちゃん一緒じゃない
もんなあ〜。俺でよけりゃ慰めてやってもいいよぉ?本場仕込みは違うよぉ〜?」
そう言って腰に絡んでくる信一の身体を抱き寄せるとこそこそとくすぐって見せた。
「きゃはははっはっ・・・!」
信一はうれしそうに声をあげて笑うとそのままむにゃむにゃと何か言いながら瞼がくっ付いてしまいそう
だった。
・・・・・・・剛・・・ご・・う・・・・ん・・・
「なあんだ、こいつもう酔っっちまいやがった・・・」
呆れたように肩を竦めると、ふっと微笑んでビルは信一を布団に寝かせてやった。
そうして自らも半分横になりながら紫月に向かって話し掛けた。
「ところでなあ紫月よ、都で面白い噂を耳にしたんだがな、この時代には源氏って名の物書きが
いるんだと。何でもね、そいつがものすごいハンサムらしくてな、都じゃ姐さん方が騒いでちょっとした
名物になっているそうよ。俺はまだそいつを見たわけじゃないけどな、世にも怖ろしい程の美男だって
話だったぜ。ま、お前だってそうだけどなあ、そいつとどっちが綺麗なんだろうねえ?どうせ暇なんだ、
今度見に行ってみようぜ、なあ?」
そう言って倫周の方を見るとビルも又、大あくびをしながら完全に横になってしまった。
そんな話を聞きながら倫周も又、あまり強くはない酒にもう瞼がくっ付きそうになりながら唯一平然と
している紫月に話し掛けた。
「ねえ、それって○×源氏のことじゃない?あ、でも変だね、○×源氏って物語の中の人でしょ?確か、
○×式部・・だったっけ?書いた人。何だよ、それじゃ話があべこべじゃんか?ねえ紫・・・・」
そう言った途端に、紫月はにやりと笑うと
「しぃーっ、静かにしろよ。実はな今回の下見ってそれなんだぜ。高宮からの指示。そうか、じゃ
仕方ねえな、あんまり気は進まねえが一度都に下見に行く必要があるかもな・・・」
そう言うと開け放した障子から外を見つめては遠い瞳をした。
そんな紫月の話を聞きながら既にくっ付きそうになった瞼に倫周はごろんと自分の布団に横に
なりながら一生懸命起きていようとしていたが、杯を持つ手も儘ならずにぱたりと意識を失いそうに
なったとき・・・・
隣ではごうごうといびきの音を高らかに鳴らしながらビルが眠り込んでいた、信一も又しかりで・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「えっ・・・・」
突然に後ろから抱きすくめられて倫周は、はっと我に返った。
後ろ側から回り込んだ手が既に襟元を割って入り込んで来ていて・・・・
「紫っ・・紫月っ!?」
「ばかっ、大きい声出すなよ?起きちまうぜ。」
低いハスキーボイスが耳元でそう囁いたと同時にぐいと、肩を露にされた。
「やっ・・・紫月・・こんなとこで・・・・・ばれちゃうよ・・」
焦る倫周を可笑しそうに覗き込むと紫月は更に低い声をその耳元に近付けた。
「声、出すなよ?」
そう言った口元が愉しそうに笑っているのがわかる。
「紫・・月・・・・?」
・・・・・・・!!・・・・・・・・・
やっ・・・やめ・・て・・・紫っ・・・
突然に意識を掻き乱されて、声もあげられずに倫周は身体を丸めた。紫月の指が胸元を這い回って・・・
「・・・っう・・ん・・っ・・・・ぁあっ・・・っ・・・」
声にならない小さな嬌声が漏れ出してとまらない・・・・!
「・・っは・・・やっ・・・嫌っ・・・・紫月・・・・っ」
「声出すなって言ってるだろ?それとも何?もう我慢できない?な、どうなのよ倫?言ってみろよ。」
耳元に唇を這わされながらそう囁かれて倫周は押さえ切れない高まりに翻弄されていた。
その表情は本当に美しく、そして例えようもないくらい淫らで。
「いいな倫、お前のその表情。素敵だよ。俺はね、そういう倫が好き。大好きだよ。素直な、倫・・・
可愛い、倫・・・・可愛い、俺の・・・・・」
先日とは全く逆の甘い言葉を囁く紫月の低いハスキーボイスも又、高まる波に呑み込まれるかのような
掠れた声に変わり、そんなものを耳元ぎりぎりに聞きながら倫周は意識を手放そうとしていた。
「だめ、倫まだだよ。まだ・・・一緒に、ね。一緒・・・に・・・・っ・・・・・」
やっ・・紫月っ・・・・・・・・ぁあ紫っ・・・・・・月・・
びくんと、背中を仰け反らせて長い茶色の髪と褐色の瞳が重なり合った。 |
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