蒼の国-TS Version/Only You〜おまえだけ- |
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余程草臥れていたのか気がついたときは既にお昼を回っていた。
「ああ、いけねっ、チェックアウトもうすぐだぜ。倫急げっ!ああでもよかったよレイトチェックにしといて!」
歯ブラシを口に銜えたままばたばたと2人で部屋中を走り回ってホテルを出た頃にはお互いを見つめて
大笑いをし合って。
外は眩しい5月の午後の日差しがきらきらと波間に降り注いでいた。
「おなかすいちゃった、、、」
「んっ、そだな。じゃ遅いランチでもすっか?」
少し遅めのランチをマリンハーバーを見渡す可愛いレストランで取り終えると紫月は車を飛ばして
東京の懐かしいプロダクションに向かっていた。既に夕陽が眩しいくらいに輝き出していて。
「あっ、、、、」
車がベイブリッッジに差し掛かったとき、倫周は小さな声をあげた。と同時に隣りから明るい
紫月の声が耳に飛び込んでくるのを感じた。
「ほら倫、見てみろよ。すげえ綺麗、夕陽が、さっ。ちょっと留めよっか。」
そう言って紫月は車を路側帯に入れた。
眩しいばかりの夕陽が目に痛い程で、あの春の日よりは少し暖かだったけれど、同じ場所で同じ
夕陽を見つめて倫周はときが止まったように呆然となってしまっていた。
まさか以前に帝斗と一緒に同じようにこの場所から夕陽を眺めていたなどと、何も知らない紫月は
倫周にこの雄大な景色を見せてやろうとうれしそうに瞳に手をかざしていた。
紫月のヘーゼル色の髪が夕陽に透けて、、、
ほんの少し色合いは違うものの、その姿はまさにあの日の帝斗を彷彿とさせるものに他ならなくて、、、
ぽろぽろと涙が零れて落ちた、泣くつもりなんかなかった、哀しかったわけじゃない、だけど
無意識のように溢れ出た涙は止め処なくて、、、、
「どうした?り、、ん、、、?」
何でもない、何でもないんだ・・・本当に・・・なんでもな・・い・・・・
ぽろぽろと真珠のような涙は止まらずに。
「急ごうか?このままだと東京着くの夜になっちまうもんな。」
やさしくそれだけ言うと紫月はプロダクションに向かって走り出した。
ごめん紫月、、、
そう思ったけれど何も言葉に出せないままカーステレオから流れるメロディを聞き流していた。
「ほら倫、着いたぜ。うわあ、変わってねえなあ。」
半分うつらうつらとしていた倫周はそう言われてはっと意識を取り戻した。
「あっ・・・ほんとだ・・・何か懐かしい・・・」
車の窓からビルを見上げて
「でも中には入れないよね?紫月のあの部屋って、今誰が使ってるんだろ?」
「見てみる?って言ってもこの中じゃないけどな、ほら見てみ。向かい側ってさ、ホテルだって知ってた?
結構いいホテルなんだぜ、ここ。ね、倫。今日も泊まっちゃおっ!」
そんなことを言う紫月にとっても驚いたけれど。
「いいの?うん、いいよ。俺はうれしいけど・・・・」
そうして部屋に入った頃は既に夜のネオンライトが街を賑やかに包み込んでいた。
「わあっ、懐かしいっ!ね、ねっ、紫月の部屋っ。あそこだよねっ、どんな人がいるんだろう?」
向かい側の丁度同じくらいの階に懐かしい紫月の専務室を覗いては倫周はうれしそうに声をあげた。
「ほんとに・・懐かしい、・・・」
しばらくそうして大きな窓に張り付きながら見ていたけれど。
突然に又も、ぽろぽろと涙が零れてきてしまった。
嫌だ、どうしてこんな・・・別に泣きたいわけじゃないのに・・・本当に・・
紫月に悪いよ、折角楽しくいろんなとこ連れてってくれたのに・・・
必死で抑えようとしても無情にも溢れ出る涙はしばらくは止まってくれそうもなかった。
「倫・・・」
そっと後ろから抱き竦められて。
「懐かしいんだよな?いいよ、思いっきり泣けよ。」
そう言われた言葉がすごく温かくて。倫周は紫月にしがみ付くと声を殺しながらその広い胸の中で
唇を噛み締めるように泣いた。
「あそこ、、、帝斗と行ったのか?ベイブリッジ、、、さ。」
頭上から穏やかな感じの声が尋ねて、、、
紫月、やっぱりわかっちゃったんだ・・・さっき俺が泣いたりしたから・・・・
倫周は何も言えずに紫月の腕の中で只、只、首を横に振った。
ふっと、紫月は微笑んで。
「いいんだよ、俺も知らなかったから。思い出させちまったな、悪かった。」
なっ・・・何で・・何でそんなこと言うの?悪いのは俺なのに、どうして?紫月・・・・
倫周はそっと紫月の胸を離れると弱々しい小さな声で尋ねた。
「紫月はまだ怒ってるだろう?俺のこと・・・その、帝斗の・・ことで・・・
あの・・・ごめんなさい。俺、ほんとに・・・・」
紫月はしばらく黙っていたが、広い窓に頭をぶつけるようにしながら少し震える声で言った。
「俺の方だよ、、、」
え・・?
「謝らなきゃならねえのは俺の方だっ・・・俺はっ・・倫・・お前を酷い目に遭わせた・・・
お前を無理矢理俺のものにしてっ、それだけでも酷えことなのに・・・俺はっ、俺はっ・・・・」
紫月は大きな瞳を辛そうに歪めながら倫周の方を振り返ると縋るような瞳で見つめた。
「許してくれっ倫・・・俺はお前が俺なしじゃいられないのを知っててわざと突き放したんだ・・・
そのせいでお前は・・・あんな目に・・・俺のせいなんだ、すべてこの俺がっ・・・・」
搾り出すような声で苦しそうにそう言うと、紫月は大きな窓に縋るようにずるずるとその場に
座り込んでしまった。俯いた表情は辛そうに歪んで、ぎゅっと閉じられた瞳からは涙が滲んでいた。
「紫月・・・?そんな・・そんなこと、もういいんだ・・もう俺は何ともないんだし・・・それより
俺の方が、最初に帝斗を・・・盗った・・・から・・・・」
倫周はたまらなくなって紫月に抱きつくと自らも涙を流しながら叫んだ。
「許して紫月っ・・・ごめんなさいっ・・・ごめんっ・・・なさ・・・」
り・・ん・・・?
「り、倫、倫・・倫っ・・・!」
紫月も倫周を抱き返して、、、お互いに縋るように唇を求め合った。涙に滲んだ想いがやがて
熱い吐息に変わって、、、
「・・んっ・・う・・んっ・・・んっ・・・」
「あ・・ぁ・・好きだよ倫・・好き・・愛してる・・・愛してるよ・・・ぁあっ・・・」
紫月は倫周の白い胸元を開くと既に綻んでいる花びらにくちつ゛けを繰り返した。
熱く、くちつ゛けては深く吸い取るように唇に含ませて、夢中で、花びらを一枚一枚もぎ取るように
くちつ゛けた。
紫月の細くて長い指がすうーっと白い肌の上を這って既に花びらを毟り取られて潤んでいる蕾に触れて・・・
「熱い・・倫のここ・・・ほら、もうこんなにとろとろだ・・・・すごいよ、倫・・・・ほら・・・
どうしたの?こんなに溶けて、そんなにいいの?今日はそんなに感じるの?」
そう言う紫月の声も熱く掠れて、いつもの低いハスキーボイスが熱をもったようになって、それが
更に倫周の高まりに輪をかけていくようで。
「紫・・・し・・・月・・・ぁふ・・ぁああっ・・・・・」
倫周はもうとろとろに溶けてしまって、どこにも力が入らない程、身体中がぐずぐずになってしまって
いた。
あぁっ・・・紫月っ・・紫月・・・もっとして・・もっともっと・・・めちゃくちゃにしてっ・・・・
「好き、、、紫月、、、好き、、大好きっ、、、」
紫月に触れられているところすべてがもうとろとろで、それでももっともっと溶かして欲しくて倫周は
自分から紫月を求めるように揺れて、、、
「可愛い・・倫・・そういう倫ってすごい可愛いよ・・・もっともっと動いてごらん・・・そう・・もっとだよ・・」
「あ・・っ・・あっ・・・あっ・・んっ・・」
熱く、激しく、形がなくなるんじゃないかというくらい溶けて、、、2人は久し振りに身も心をもひとつに
結ぶように溶け合っていった。向かい側に懐かしいプロダクションの部屋を映しながら、まるでその頃へ
還ったかのように求め合った。
このまま、ずっとこのまま、蒼国に帰ることもなくずっと2人だけでいられたならっ・・・
ああっ倫っ・・俺はお前を愛しているっ・・・・
激しく求め合ったあとで、2人はぎゅっと抱き合いながらそのまましばらく心地よい眠りに落ちていった。
そして目の前の大きな道路を通る車の音が少し静かになった頃、どちらからともなくうつらうつらと
瞳を開けて、すぐ側にあるお互いの瞳を見つめた。瞳があった瞬間、くすっと微笑んで。
長い茶色の髪をやさしく撫でながら穏やかな声で紫月は言った。
「なあ倫、お前はまだ帝斗のことが好き?」
えっ・・・・?
信じられないような言葉をあまりにも穏やかに言った紫月に倫周はすごく驚いて、少し眠かった瞳が
一気に覚めてしまうかのようだった。
そんな様子にも紫月はやさしく微笑むと又してももっと信じ難いようなことを言った。
「俺と帝斗はさ、よく似てるだろ?身長も殆んど一緒、服のサイズも同じだし、髪の色が少し違うけどさ、
あとはどこそこ似たようなもんだろ?だからさ、、、
倫が帝斗を忘れられねえんなら、いいよ。俺を帝斗だと思ってさ、帝斗の代わり、、、俺じゃだめかな?」
そんなことを言う紫月が信じられなくて倫周は何も言葉など返せるはずも無かった。
「そんな顔すんなって。別に変な意味じゃねえよ。只そう思っただけ。」
そう言うと今度は少し真面目な顔で倫周を見つめながら言った。
「俺が帝斗の代わりになってやるよ、だから倫、、、お願い、、俺を許して。今まで俺がお前にしてきた
酷いこと、許してくれ、、、俺はそのことが気になって夜も眠れねえんだ。お前に悪いことしたって
後悔が襲ってきて、怖くて。だから許してくれ、その代わり俺が帝斗になってやるから。
俺を帝斗だと思っていいから、なあ倫、帝斗がお前を愛したように、同じように愛してあげる、、、
な、言ってごらん。帝斗はどんなふうにお前を愛してくれた?どんなふうにキスしてくれた?
こんなふう?こう?」
そう言いながらくちつ゛けて、、、
「紫っ・・・しずきっ・・・・いいよ、そんな・・・・俺は紫月がいてくれるんならそれで十分だから・・・
ぁっ・・・や・・やめ・・て・・・・紫月・・やめ・・・」
「いいんだよ遠慮すんなって。どう?こうだった?どうやって愛してくれたの?言ってご覧、、、」
やだ、やだ・・やめてよ紫・・・・そんなことされたら、本当に・・・帝斗に・・・・
「わ、、からない、、、わからないよ、、、、」
だって俺は帝斗に抱いてもらったことなんてないもの・・・わからない・・・キスだって遠い昔の
ことだもの・・もう・・想い出せないよっ・・・
想い出せないっ、、、
覚えてるのはあのときの気持ちだけで、、ああっ、、帝斗、帝斗っ、、、好きだったんだ、大好きだった
「うっ・・・うっ・・・・んっ・・・・んっ・・」
・・・・・倫周・・・倫周・・・・・
帝斗の呼ぶ声が聴こえてきて。あのときの会話が蘇って。
倫周はもう煙草吸ってるの?いけない子だ、そういう子はここに置いていっちゃうぞっ!
・・・ごめんよ、許しておくれよ・・・・・
そっと抱き締めてくれた帝斗の胸、温かかった、そしてキスは、、、熱くて、、帝斗が舌を絡めてきて、、、
あんなくちつ゛け初めてだった、、、あんな熱い激しい帝斗、、、
ああ好きっ・・・好きだ・・・帝斗が好き、今でも俺は・・・・
「ああっ、、、帝斗っ、、帝斗、、、」
身体中を包み込む快楽の波に呑まれながら帝斗を思い出しては倫周の瞳は大粒の涙で濡れていた。
いいんだよ倫、それでいいんだ。これからは俺が帝斗になってあげるよ。だから許しておくれ、そして
ずっとずっと俺の側にいておくれ。もうどこへもいかないと約束してくれ?帝斗のところへも遼二の
ところへも行かないって。俺の側にだけいておくれ・・・
そうしたら俺も帝斗を忘れる、帝斗を忘れてお前だけを愛していくから。俺はお前を愛してるんだから。
懇親の想いを込めて紫月は倫周を抱き締めた。
だがこのとき紫月はその想いを胸に唱えたまま言葉に出すことをしなかった。言葉に出してその想いを
告げたなら、或いは本当に2人の間に本物の愛が芽生えたかも知れなかったが、こうなって尚、
結ばれ得なかったのは運命というより他ならないだろう。紫月はその胸の内を言葉に表さなかった
ことでこれより後、又しても怒涛の如く激しい運命が2人を呑み込もうとしていることなど、このときの
2人には知る由もなかった。
そうして甘く激しく溶け合った連休から紫月と倫周が蒼国に帰ったのは間もなくのことであった。
あれだけの甘いときを一緒に求め合ったならば普通であれば何も言わなくてもお互いだけを
見つめていけるであろう。だがこれ程のときを一緒に過ごしたのに関わらず、倫周は蒼国に戻ると
遼二の胸に抱かれることに迷いが無かった。それは幼い頃から刻み込まれた特殊な因果のような
ものか、或いは紫月とのこれまでの経緯が成せる技だったのかはわからないが、それは別としても
倫周は遼二に抱かれることにこうなって尚も違和感を覚えることが出来なかった。
あれ程までに紫月と抱き合い、解り合ったに関わらず、遼二の胸にも特別の罪悪感もないままに
自然と身を任せていった。そのことが紫月にばれたとき、怒涛の如く嵐は現実のものとなった。
ほんの僅かな甘く幸せなひとときは嘘のように、又しても紫月と倫周の抗えない運命の幕は
もうすぐそこまで近付いていた。 |
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