蒼の国-TS Version/Only You〜あなただけ- |
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「倫っ」
2〜3日の軽い仕事を終えて信一と共に蒼国に帰って来た倫周に声を掛けたのは明るい微笑みを
浮かべた紫月だった。紫月はにっこりと微笑みながら軽く手まで振って倫周に近付いて来た。
「紫月?どうしたの?何かいいことでもあったの?」
あまりのうれしそうな様子にそんなふうに声を掛けた。
紫月は倫周の側に来ると又、微笑んで。
「倫、明日から連休だろ?久し振りに横浜行こうと思うんだ。お前と二人でデート!
どうだ?一緒に来れるか?」
「デート、、、?」
倫周は一瞬驚いたような顔をしたけれど。
「う、うん、、いいよ。横浜、、?懐かしいな、、、」
少し恥ずかしそうに頬を染めるとそう返事をした。
「よしっ、じゃあ決まりなっ!楽しみにしてろよぉ。」
そう言って又手を振るとうれしそうに微笑んで紫月は自室へ引き上げて行った。
そんな後ろ姿を見送りながら倫周はぼうっとその場に立ち尽くしてしまった。
紫月、、どうしたんだろう、、、急にデートだなんて、、、俺デートなんてしたことないよ、、、
どんなんだろう、、、そういえば昔帝斗によく連れてってもらった、、、横浜って、、、
ああ、あれもデートっていうのかなあ、、、、
そんなことを考えながらうつらうつらと眠りについた。
久し振りの日本の、横浜の街はよく晴れていて気持ちのいい5月の風がそよ吹いていた。
山の手の細い道を歩きながら倫周はまだ午前中の陽の光に照らされた海を見下ろしていた。
「ここ来るのは初めてだよ。海が光って綺麗だね。」
そんな様子に紫月は飛び切りやさしい笑顔で微笑むと
「この近くにね美味しいお茶やさんがあるんだ、これから入ってみような。まだやってるかなあ?
俺の大好きなケーキがあってさ、旨いんだぜ?」
紫月からケーキなんて言葉を聞いただけでも何となく印象が湧かなくて驚いたのに店に入って
テーブルに着くともっとびっくりとするような言葉に倫周は大きな瞳をぱちぱちとさせてしまった。
それは注文をしようとメニュー表を見ながら言った紫月の言葉で、、、
「すみません、えーとね俺はこれ。ブルーベリーチーズのと、あとこっちのチョコのやつ。それと
コーヒーをホットでね。」
え、、、?
倫周は驚いて。
「紫月、、、ケーキ2つも食べんの、、?」
大きな瞳を開きっぱなしにしながらそう訊いた倫周に目をやると紫月はうれしそうに声をあげて笑った。
「あははっ、そういえば倫は知らないんだったっけ?俺さあ甘いものに目がないのよ。ケーキに
限らず甘い物なら何でも好きでさ。そういや倫とは一緒に飯、行ったことなんて無いもんなあ。
あはは、びっくりした?」
「うん、ちょっと、、、」
そう答えたけれど倫周がびっくりしたのはそれだけではなくって。
昨日からの紫月のうれしそうな感じが、ずっと見ていなかったような明るい笑顔が、どちらかといったら
ケーキのことよりもそっちの方が気になってならなかった。
そんなことをぼうっと考えていたら、、、
「ほら、何ぼうっとしてんだよ?ケーキ来たぜ。早く食べてみ?ほんとに旨いから!」
そう言って又うれしそうにする、目の前に2つのケーキを並べて美味しそうに食べる紫月の姿も
倫周には何だかとても珍しいものに見えてしまって。
まるで別人みたいだ、こんな紫月、、、どうしたんだろう、、、?
そんなことを思いながらもあまりに美味しそうに食べる紫月を見て倫周は自分の皿も差し出しながら
言った。
「ね、ねえ、、よかったらこれも食べる?あ、、だけどちょっとだよ?味見するだけ、、、!」
紫月は大きく開いた口元に今まさに口に入れようとしていたブルーベリーチーズの刺さったフォークを
一度引っ込めるとそれをそのまま倫周の口に入れてよこした。
「ほんとっ?じゃこれお前にやるっ!ほら食ってみ?」
突然にそう言われて慌てて口を開けた倫周に自分のケーキを食べさせてやると、その慌てた表情が
可笑しかったのか、ぷっと吹き出すと紫月は大笑いをした。
「あはははっ、何て顔してんだ倫?お前っ、、ほらクリームつけてっ、あ〜可笑しっ!」
そして頬についたクリームを手でとってくれながら真っ赤になった倫周を見つめてやさしく言った。
「なっ?旨いだろっ?」
そう言う瞳がやさしくて、、、大きな褐色の瞳が穏やかに微笑んで細められて、、、
紫月、、何で今日はこんなにやさしいの?
そう思いながら答えた。
「うん、美味しい、、、俺ケーキなんてあんまり食べたことないから。ふうん、こんな味するんだ。」
そんな姿が何だかとても切なくて、ケーキをあんまり食べたことがないのは倫周が幼い頃に
両親を亡くしてしまっていたことやその両親の仕事が普通のものではなかったこと、そしておよそ
普通の子供が当たり前のように経験していることが倫周にとっては珍しいことだということが一気に
感じられるようで紫月は褐色の瞳を切なそうに細めては、目の前で一生懸命にケーキをほおばる
白い頬を見つめていた。
店を出た頃にはもう午後の日差しが眩しい程に海を照らしていて、小高い丘の上まで歩いて来ると
紫月はふい、と後ろから倫周を抱き締めた。
「倫、、、」
肩に回された腕にぎゅうっと力が込められて。
「好きだよ倫、愛してる、、、俺はお前を愛してるよ、、、」
紫、、、月、、、?
「ね、今日このままどっか泊まろっか?まだ連休あるだろ?倫がよければ今日は帰りたくないな。」
そう言って軽く頬にくちつ゛けされて、、、
紫月、、、?どうしたんだ急に、、、こんなにやさしくて今日の紫月は変だよ、、、、
「う、、ん、、、いいよ。どっか泊まっても、、いい。」
「ほんと?じゃあ今夜は美味しいステーキのお店連れてってあげるよ。その後海の見えるホテルに
泊まろうか?うれしいよ倫、、、ずっと一緒にいられるんだね?このまま帰らなくていいって思うと
すごくうれしい、、、」
「紫月、、、」
紫月は倫周の頬を包み込むとそっと唇を重ねて、、、深く舌を絡めると甘いケーキの香りが漂った。
ほら倫、ここが外人墓地だよ。こっちが元町。そしてその隣りが中華街。それでね、俺たちが今日
泊まるのはあっちの海が見える、ほらあそこのホテルだよ。
紫月は日が暮れるまで、足が草臥れてしまう程、あっちこっちと回っては倫周に見せて歩いた。
それは帝斗とは行ったことのないところばっかりで、倫周は大きな瞳をくりくりと見開きながら
珍しい社会見学のようにして紫月にくっついてまわっていた。
「今日は疲れたろう?あっちこっち引っ張りまわしたから、、、足、痛くないか?」
ハーバービューを見下ろすホテルの窓辺に佇みながら紫月はそっと倫周の肩に手を回した。
「ん、平気。すごく楽しかったよ。いろんなもの見れて楽しかったし、、、うれしかった、、、
なんかすごく、、うれしかった、、、、紫月、、ありがと」
そう言い掛けて。
「倫」
大きな胸に抱き締められた。
紫月はまるで恋人を抱き締めるかのようにやさしく倫周の細い身体を包み込んでいった。
「好きだよ倫、、、」
そう言って言葉は少なかったけれど紫月は今までにないくらいやさしく倫周を抱き締めた。
大きなベッドの上で2人、やわらかに溶け合って、、、
ああ紫月、紫月、、何でこんなにやさしいの?こうしてるとまるで本当にあの頃に帰ったみたいだよ、、
あのプロダクションの頃へ、、、
「あっ、、、そうだっ、、、あのプロダクションってまだちゃんとあるのかな?ねえどうなってんだろう?」
突然にそんなことを言った倫周にくすり、と微笑むとその長い茶色の髪を撫でながら言った。
「じゃあ明日見に行ってみるか?多分俺たちのときと同じようなどっかの音楽プロダクションが
入ってるって聞いたけどな、ちゃんとあるかな?」
そのまま2人は眠りについて、、、 |
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