蒼の国-TS Version/Missing-
次の日、帝斗はFairyのデビューに向けての雑誌の取材で夕方から留守にしていた。

レッスンが終わると紫月は部屋を出て行く倫周に声を掛けた。

「柊、倫、、この後時間があるか?」

誰にもわからないようにそう尋ねると、明るい声が「はい」と返ってきた。

「そう、それならちょっと俺の部屋に寄ってくれないか?ちょっと頼みたいことがあるんだ。」

にっこりと微笑んでそう言うと、無垢な若者は快く返事をした。それでは後で伺いますと明るい声で

そう言った倫周の後ろ姿を見送りながら紫月はぎゅっと拳を握りしめた。



大きな扉をノックする音が聞こえて、倫周が言われた通りに訪ねて来た。

きょろきょろと大きな瞳を見開いて部屋を珍しそうに見渡している。その顔は初めて見た日その

ままに人形のように美しかった。

「よく来たね。」

やさしく声を掛けると紫月は倫周を隣の自室に通した。ここからは紫月の住居として使っている

全くのプライベートルームであった。

紫月は倫周にワインを勧めるとやさしく微笑みながら言った。

「まだ未成年だからね、一応内緒だよ。」

大きなソファーに腰掛けると紫月は絹のスーツの上着を脱いでネクタイを緩めた。

そんな仕草のひとつひとつを不思議そうにしてきょろきょろと眺めている倫周に目をやるとくすっと

微笑んで紫月は言った。

「今日はもう仕事終わりだから。ああ疲れた。」

そんなふうに言ってリラックスしたように伸びをして見せた。

少したわいのない話をしてから何故ここに呼ばれたのか不思議そうな顔をしている倫周を自分の

側へ呼んだ。従順に倫周が近付いてくる、何も知らずに近付いてくる。そう、何も知らない幸せ

そうな顔をして。

倫周がすぐ側まで来た時、とっさにその身体を抱き寄せて細い首にネクタイを括りつけた。

きゅっと少しの力を込めてやる。驚いたように倫周は紫月を見つめた。

「びっくりした?ごめんごめん、ほんの冗談だよ、、」

そう言ってネクタイをはずしてやるとほっとしたような表情をした、その表情が紫月の心に憎しみの

炎を点けて。

次の瞬間、紫月は倫周の両腕を取ると手に持ったネクタイで縛り上げて勢いよくソファーに

突き飛ばした。


わっ、、、


倫周の綺麗な顔が驚きの色を増して、その瞳は何が起こったか、つかめていない様子だった。

ゆっくりと倫周の身体を覆うように近付くと紫月は更に縛り上げた腕の紐をソファーの肘掛に

括りつけて動けないように固定した。突然の出来事にわけのわからないといった倫周の瞳は

只々驚いているだけのようだった。

こうして見ていると何も知らない純真な子供に見えるのに。

紫月の頭に先日からの光景が浮かんでくる、帝斗の腕を肩に廻されてうれしそうに歩いていた

この倫周の姿が浮かんできて、憎悪の感情が湧きあがる。楽しかった頃の帝斗の笑顔と

昨夜腕の中からするりと抜けてしまった時の顔が思い出されて、紫月はぎゅっと唇を噛み締めた。

何の前触れも無しに驚いた表情で自分を見つめる倫周の唇を乱暴に奪うと肌触りのよさそうな

生成り色のシャツのボタンを外した。

えっ、、?どうして、、何なんだ一体、、、突然のことに倫周は驚いて。

「なっ、、?一之宮さんっ、、?やめてくださいっ、、、」

慌てたように言う倫周の瞳を冷酷な褐色の瞳が見下ろす。感情の無い言葉がついて出た。

「紫月って呼べよ、一之宮さんじゃなくってさ。帝斗のことはそう呼んでるんだろ?」

抵抗の声を聞いて更に増した憎悪の感情が紫月の指先を乱暴に動かして、無防備な胸元を

露にしてゆく。

「何でこんなことされるかって思ってんだろ?教えて欲しい?俺はね、お前にものすごく頭に

来てるんだ、お前が悪いんだぜ?」

冷たい言葉に倫周の顔が強張って。僅かに震える声で訊いた。

「何で、、?俺何か、、しました、、か?」

倫周にしてみれば紫月が何を怒っているのか何でこんなことをするのかがまるでわかるはずもなく

恐る恐る震える声で訊いた。

何かしたかだって?お前はとんでもないことをしたんだよ倫。そう、お前がここに来たこと自体が、

お前の存在自体が俺は気に入らないんだっ、、、

紫月は倫周のシャツを開くとその白い肌を見つめた。綺麗な薄桃色の花びらが咲くのを待ち

焦がれんばかりに綻んでいるようで、それだけで又憎しみが込上げてくる。

紫月はその白い胸元に感情のない冷たい瞳を近付けた。

綻んだ花びらに生暖かいものが触れられて、花弁が濡れて光る。

身体中を突き上げられるような強い刺激に倫周は悲鳴をあげた。

「やっ、、、やめてっ、、、」

左右に激しく頭を振りながら必死でもがく倫周の頬に衝撃の涙が濡れて光る。紫月はそんな

様子を目にしながら心の底から湧き上がってくるどうしようもない怒りと、不思議とうれしい感覚

とが入り混じった感情に気が付いた。

倫周の綺麗な顔が苦渋に歪む様子がうれしくて、もっともっと不幸に突き落としてやりたくなって。

ふふっ、、、倫、お前のその顔、辛そうに涙に汚れてる。そう、もう二度と笑えないようにもっと

もっと汚してやろうか?二度とあんな幸せそうな顔が出来ないように、二度と帝斗の前で微笑え

ないように。

そんなことを思いながら楽しそうにくすりと笑うと紫月は恐怖に震えている下肢を覆うものを

取り除いた。苦渋に歪んでいた瞳に衝撃の色が差して驚愕の表情に変わった。

「やあっ、、やめてっ、、一之宮さんっ、、!やだ、嫌だああっ、、」

何でっ、、?何でこんなことするんだ、、、どうして急に一之宮さんが俺を、、、

帝斗でさえこんなことしたことないのに、、、どうして、、、

いくら男同士だといってもまるで強姦するように自分の衣服を取り除いては身体中を弄られて

倫周はとっさには頭の整理が付かなかった。只呆然とする倫周に紫月は容赦なく手を伸ばすと

信じられないところに触れてきた。まるで当たり前のように弄られてたまらずに倫周は叫んだ。



「嫌あっ、、、やだ、やだ、、、やめてください、、っ、、放してっ、、、一之宮さんっ、、」

声を裏返して泣き叫ぶ、そんな様子も可笑しくて、紫月の表情は益々うれしそうに輝きを増した。

「紫月って呼べって言ったろ?覚えの悪い子だな?」

身を捩りながら必死に逃れようとする細い身体を押さえ込んで紫月は言った。

一番言いたかった言葉を。何でこんな目に遭うのかってことを教えてやるよ、、、!






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「帝斗はね、俺のものなんだよ。」



涙に滲んだ瞳が大きく見開いて衝撃の表情をした。

「う、、うそ、、そんなこと、、、」

信じられないというようにかたかたと震えながら言われた言葉に。


「うそじゃないさ、お前が来るずっと前から、帝斗は俺のものだったんだよ。俺と帝斗は愛し合って

て、、ずっとずっと俺の大切なものだったのに、お前はそれを盗ったんだ、、、」

余程ショックだったのか先程までの激しい抵抗がぴたりと止んでしまったようで、それらを否定する

かのように倫周は言った。

「うそ、、だって帝斗は、、、」

「ほら、やっぱり帝斗って呼び捨てにしてんだろ?帝斗もこんなことしてくれたのか?こんなふうに

お前を愛してくれたってか?」

紫月の瞳が又冷たく凍り付いて。

「お前はとんでもないことをしてくれたんだ、だから俺に何されたって文句なんか言えないよな?

こんなもんじゃ全然足りないぜ、もっともっと償ってもらわなきゃな、、、」

細い身体を追い詰めるだけじゃ飽き足らない、その心をもずたずたに引き裂いてやりたくて、

だってお前のせいで帝斗は俺から去ってしまったんだから、、、!

「なあ倫、帝斗はどう思うかな?俺にこんなことされてるお前見たらさ、いっそ見せてあげようか?

お前のこの姿、きっと悲しそうな顔してくれるんじゃない?ふふふっ、、、」

言葉でもその精神を傷付け、追い込みながら紫月は倫周の若い蕾を奪い取った。

「は、、、っ、、、や、、、やだ、、、」

突然の刺激に言葉にならない驚愕の声が裏返る。そのままどん底へ突き落としてやるはずだった。

もうこれくらいで許してやるつもりだったのに。紫月は自分の頭上に信じられない声を聞いた。



やめて、、、一之宮さん、、そんなこと、、しないで、、、

そんなことされたら、、、俺は逆らえない、、、だって、、、あなたのその瞳、、、

その瞳が、、、同じ、、、、

遠い昔に俺を愛したひとと同じだか、、、ら、、、



「やだっ、、やめて、、いや、あぁ、、、」

倫周の脳裏に浮かび上がる遠い記憶が紫月の愛撫によって目を覚ます、遙か遠い昔に自分を

同じように愛したひとの記憶が、鮮やかに蘇って、、、

瞬時に身体が熱を帯びる、次はどうされるのかすべては身体が覚えていて、、、、

「あ、、、うん、、、っ、、、んっ、、、」

恐怖に震える抵抗の声が次第に甘ったるさを含んできて叫び声が掠れた声に変わる。

紫月は驚いた。予期しない出来事に呆れたように笑い声がついて出る。

「はっ、、、何だよお前、ひょっとして気持ちよくなっちゃったの?ふふっ、、、

帝斗じゃなくてもいいんだ?いやらしいなあ倫は、、、くくくっ、、、」

何だかものすごく怒っていたことが馬鹿らしく思えてきて紫月は一瞬表情が緩んだが。

違う、、嫌だ、、やめて、、い、や、、

言葉とはうらはらにどうしようもなく甘い声が響いて。

「嫌だ?やめてって?こんなになっちゃてるくせに?こんなになるくらい、、、」

こんなになる位、帝斗はお前を抱いたっていうのか?ちょっと愛撫してやっただけなのに、

もうこんな瞳をして、こんなに反応じる位帝斗はお前を愛してくれたってわけか?

どうして倫周の身体がこのような愛欲の行為に慣れているのか、当然の如く何も知らない

紫月の中に再び冷たい炎が燃え上がって、どうしようもない怒りに駆られる。



許せないっ、、!どうすれば?どうすればお前を不幸に突き落としてやれる?一体何をしたら?

こんなことをされても甘く漂う表情をする、、、これを苦渋で汚してやるにはどうすれば?



一瞬、何を思いついたのか紫月はにやりと笑うとやさしい声で倫周に呼びかけた。

「なあ倫、お前はさ、帝斗と俺とどっちが好き?」

やだ、、言えない、そんなこと、、、

ふるふると横に振られた首筋でさえ迫り来る波に耐えられないというように淫らな色を濃く映し

出していて、紫月はその様子に半ば呆れてしまった。

何なんだ?こいつは、、、一体?

そんな紫月の思いなどおかまいなしに倫周はその波に深く身を任せているようで。甘ったるい

声が紫月を求める。

「お願い、、一之宮、さ、、ん、、もう、、、」

虚ろな瞳が甘えて寄りかかってくる様子にさすがの紫月も呆れ果てたといった感じだった。

それでも何かを決心したように紫月は言った、やさしい甘い声で囁いた。



「紫月って呼ばなきゃしてあげないよ。それと、お前の好きなのはどっちか言わないと。

お前の一番好きな人は誰?俺?それとも帝斗かな、、?」

紫月は倫周を自在にコントロールするように揺り動かした。耐え切れずに倫周が叫ぶ。

「し、紫月が好きっ、、紫月が好きだから、お願いっ、、、」

「いい子だな倫、やればできるじゃない?ほら、じゃあご褒美だな、、、」

一瞬で倫周の至福に開放された表情が浮かぶ、綺麗な顔立ちに紅が差して益々輝きを増す。

18歳の若い頬は言いようも無いくらい美しく輝いて。

「気持ちよかった?倫、明日もレッスンが終わったらここへ来なさい。もっとよくしてあげるから。

そうもっともっと愛してあげるから。忘れずに来なさい。もしも約束をやぶったら、、、

このことを帝斗に言っちゃうよ?俺はお前が可愛いんだからそんなことはしたくないな?

ねえ、倫君、、、ふふっ、、」

紫月はうれしそうに微笑んだ。その腕の中で倫周も又悦びの表情を浮かべて、、、。






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、、、、、、

紫月によって呼び起こされた遠い記憶が倫周の頭の中で交叉する。遠い日に、まだ幼い日に

さっきの紫月と同じように自分の身体を抱いた人、、、

あ、ああ、、、パパ、、、

パパが昔俺を愛してくれた、、あの感覚、、、あれは本当に愛だったの、、、?

「愛してるよ倫君、パパはお前だけ、お前だけだよ。いいかい?このことは誰にも内緒だよ。

2人だけの秘密、ママにも言っちゃいけないよ。わかったね?いい子だ倫くん、、、」

脳裏に蘇る遠い記憶。まだ幼い時分に繰り返されたすべての記憶が蘇る、ずっと忘れていた

ことなのに、どうして今頃急に思い出したんだろう?

さっき紫月さんが俺にあんなことをして、そうして、、、

同じ、、、瞳、、、

紫月さんが俺を見つめたあの瞳は、、、パパと同じ、、、

、、、、!

まさか、そんな、、、

だってパパは俺を愛してるって言ってくれた。でも、、でも、、、あの瞳は、、、

倫周には自分を見つめる幼い日の父親の瞳が紫月のそれと同じもののように感じられた。

そう、それは自分を見つめているのではない、まるで自分の身体だけを見つめているような欲望の瞳、、、



幼少の頃に刻みつけらたもの、それは愛などでは決してなくて、、、

まだ幼かった倫周にはそれが悪いことだなどとは思う術も無いままに実の父親によってもたらされた

愛欲の行為。時が経っても身体はそれを覚えていた。

衝撃の疑惑が心に浮かぶ、だが今このときに、父親は既に他界していた。

孤独な倫周の心を揺るがしたものはあまりに大きすぎて、反面、自分を包み込んでくれる温かい

もの、帝斗への想いはますます募るばかりで、、、

だが、、、



帝斗は俺のものなんだよ、、、!

そう言われた紫月の言葉が倫周の心に深く突き刺って。

倫周は揺れた、心がぐらぐらと揺らいでどうしていいかわからなくなって。

帝斗にも本当のことを訊けないまま紫月の視線は自分を追い詰めるように寄せられていた。