蒼の国-TS Version/Last Gate- |
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Fairyがデビューして2年が過ぎた頃、初の海外レコーディングということで帝斗はじめ、紫月、
そしてマネージャーのビルとボディーガードの京を含めた9人で成田空港を離陸した。
帝斗や紫月の関係は相変わらず良くも悪くも動きはなかった。ただ表面は穏やかに時が経過
していた。Fairyも又相変わらずで以前よりも絆が増しただけで取り立てて変わった様子はなかった。
未だに続けられている紫月と倫周の関係も遼二には知る由もなく、あれ以来倫周は約束通り
自分とだけそういった行為のあるものと信じて疑わなかった。遼二にとってこのときはまだ
倫周に対する特別の気持ちがあったわけではないが、やはり大切に思う気持ちは幼い頃から
何ら変わっていなかったようでそういった意味で倫周が他所の誰かとむやみに関係を持つことを
嫌った感があった。
それでも倫周の大よそのことには無関心といった風潮は遼二が受け止めてからもそう変わる
ことはなかった。特に明るくなったわけでもなく、ただやはり以前よりはふっと微笑むことが多く
なってはいた。それはひたすらに続けられている紫月との隠密の行為のせいなのか直接の
原因はわからないにせよ、それでも倫周は帝斗を想う気持ちだけは捨てられないでいた。
紫月に自分と同じような孤独感を感じそれに深く同情することはあったし、何より絶え間なく
続けられてきた紫月との快楽の行為の中でどれ程身体が紫月の手によって流されようとも、
そして又、どんなに遼二にやさしく心使ってもらっても心は帝斗を追うことをためらわなかった。
幼い頃から孤独と衝撃の中にあった倫周の心が初めて触れた温かいもの、帝斗の存在は
それ程までに倫周を捉えて放さなかった。
<Fairy初の海外レコーディングへ!今日出発>
そんな見出しのスポーツ紙を眺めながら一人の若者が公衆電話の前にいきり立っていた。
いつかのアルバイトの彼、、Fairyを潰してやると意気込んでいた彼である。その手に受話器を
握りしめ、Fairyが日本を留守にする、この機会にあることをマスコミに垂れ込む為に。
遼二に脅されたあの日から狂気のように考えたあるシナリオを週刊誌に流す為に今、まさに
ダイアルが回されようとしているところだった。
「ふっふ、、、これで終わりだな、、Fairy、、、今度日本に帰って来る時がお前たちの最期だ、、!」
パタンとカードが落ちる音がして、回線がつながった瞬間、彼の瞳が不気味に輝いた。
・・・・同じ頃・・・・
ふわふわと漂うように空港のロビーを歩く倫周の姿は艶やかでそこに存在するだけで人々の
目を引いて止まなかった。当然の如く、ファンやらやじ馬やらに囲まれて身動きが取れなくなって
しまい、丁度すぐ側を歩いていた遼二もそのとばっちりを受けることとなり、2人の存在に一時
広い空港のロビーは騒然となっていた。
突然に倫周の細い指先をぐいと引っ張る者がいて黒山の人だかりから半ば強引に抜け出すことに
成功したとほっと息をついたとき。つないだ手を放すと利発そうなよく通る声が小言を言った。
「まったく!少しは気をつけて下さいよ!ぼくたちはまがりなりにも芸能人なんですからっ!
そんなサングラスも帽子もしないで歩くのは追いかけて下さいって言ってるようなもんですよっ、
聞いてるんですか?倫周さんっ!」
ついこの春に医大にストレート合格したばかりの潤の相変わらずの小言に遼二はくすり、と微笑ったが。
倫周のまるで響いていないような態度にぶつぶつと小言を言いながらボーディングゲートへの
道のりを歩く。その様子を微笑ましそうに見つめながら帝斗と紫月は隣りを歩いていた。
ぱたぱたと潤らが通り過ぎていく様子を帝斗は目を細めてやさしげに見つめていた。
「うっ、、、」
隣りを歩く紫月が急に立ち止まって苦しそうに胸を押さえた。顔色はみるみる蒼白くなっていき
胸を押さえる手元ががたがたと震えてきて。
「紫月さんっ!?大丈夫ですか?」
慌てて帝斗は紫月の顔を覗き込んだ。真っ青な顔が苦しそうに歪んでいる。紫月はポケットから
なにか錠剤のようなものを取り出すと急いで口に含んだ。出発ゲート近くの廊下の隅に座り込んで
しばらくじっとしている紫月の側に心配そうに帝斗は寄り添っていた。
帝斗の気配を感じる、帝斗の息使いを感じる、帝斗の香りを感じる、、、
胸に熱いものが込み上げながらも紫月は身体の苦しさと戦っていた。既にもう手放せなくなった
覚醒剤の力に翻弄されて最近は苦しみが伴うまでになっていた。
はっ、、自業自得だな、、、俺が今までしてきたことの、俺が倫や帝斗に味わわせてきたことの、
こんなになっちまうまで気がつけなかったなんて、、、
紫月は帝斗の顔を横目に見上げると溢れ出る思いを必死に抑えようとした。
そんな瞳で俺を見るな、帝斗、そんな心配そうな顔をして。まるで倫のような瞳、倫と同じやさしさ
溢れる瞳で俺を見ないでくれ、、、!
ようやく治まった震えと痛みに紫月は帝斗と共にゲートをくぐった。
そのままもう二度とここに帰ることはないなどと誰が想像できただろう。
その日、帝斗や紫月らそれぞれの思いを乗せた新型ジャンボ機は海上で爆発炎上し、還らぬ姿となった。 |
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