蒼の国-TS Version/Jealousy-
そうしてしばらくは都に滞在しながらビルと紫月が密かに高宮から指示されていた下見の仕事に

粗方めどが立ったところで4人は久し振りに蒼国へ戻ることとなった。

あれ以来、相変わらず紫月と倫周はビルと信一の目を盗んでは身体を重ねる日々を送っていたが

そんな中で紫月の体調は嘘のように落ち着きを取り戻して平穏な状態を保っていた。

何故あれ程までに激しかった症状が突然に良くなったのか、それはやはり倫周の存在が大きく

影響を与えたと言えるだろう。

紫月は以前から倫周に対して酷いことをしてしまったという罪悪感を持ち続けていた。

そういった思いを素直に認めて倫周に縋ることが出来たことで胸のつかえが一気に取れたように

楽になっていった。自然と体調も戻ってきたし、此処に帰って帝斗と顔を合わせても今までよりは

大分楽な気持ちで接することが出来たのだった。

倫周も又、初めてのその日から永きに渡って自分を抱いた慣れた腕の中でその心を存分に開放

したことで、心に一杯に抱えていた不安や嫌な思い出を一気に押し流してしまうことが出来たようで

その表情は久し振りに晴れやかだった。まるで本当にデビュー当時のプロダクションの紫月の部屋で

毎日その腕に身体を預けながら甘い快楽に漂った、そんな穏やかな日々が戻って来たようで

2人はしばし幸せの中にいた。



だが蒼国に戻って来ると同時に現実は確実にそんな2人の安定を揺るがしていった。

紫月にとって一番辛かったのは遼二の存在だった。ビルにそう忠告されていたから、というわけでは

無かったがそれを見た途端に紫月の中に今までは考えもしなかった不安が一気に湧き上がっては

再びその心に翳りをもたらすこととなった。

そう、倫周の肩を抱えながらやさし気に微笑んで歩く、そんな遼二の姿を映したときに、予期もしなかった

感情に紫月の褐色の瞳は色を失くした。



ひと月振りの再開に当然の如く遼二は倫周をその腕に抱き締めた。初め、そんなことには気付きも

しなかった紫月の心が次第に不安に陥っていったのは平安の時代から戻って一週間もした頃だった。

シュミレーションルームの方に向かって肩を並べる2人を目にして、紫月は引き寄せられるように

声を掛けた。



「倫っ・・・」



その声に遼二が最初に振り向いて。

「あ・・・ああ、ごめん・・・忙しいか・・?」

そう声を掛けたが言葉を詰まらせて・・・

「どうしたんですか?何か用でも・・?もし何でしたら俺らは別に急ぎじゃないんでいいですよ?」

遼二が明るい感じで微笑んだ。

「あ、ああ、そう・・・?じゃ、じゃあちょっといいかな・・・いや今ね、この前行ったところのレポートを

まとめてるんだけれど、ちょっとわからないところがあってね・・・倫に聞こうかと思って・・さ・・・・」

とっさについて出た、そんな紫月の嘘にも遼二は格別疑う様子も無く、明るく微笑むと

「おう、じゃあ手伝って来いや。なっ、倫!」

そう言って倫周の肩をぽん、と叩いた。

紫月の部屋の前で、遼二は明るく手を振ると自室に向かって歩き出しながら言った。

「おう、倫。終わったら部屋で待ってっから、じゃなっ!」

倫周は特に何も言わずに立っていたが、遼二が部屋へ入ったのを確認する頃には紫月も又、

倫周を自室に招き入れていた。

「紫月、レポートって?どんなの?大変なんだ、ごめんね。俺そんなこと全然気が付かなくて・・・」

何も知らずに倫周の言葉は相変わらず素直なやさしい気持ちをそのままに物語っていた。

大きな瞳をくりくりとさせながら後を付いて居間に入って来た姿を振り返ると、突然に強い力で

抱き締めた。

「紫月・・・・?」

あまりの力に倫周は驚いたような声をあげたけれど・・・・

紫月は溢れ出る想いをそのままに腕の中の細い身体を抱き締めた。



「倫・・・倫・・倫っ・・・・」



半分狂ったように抱き締められて、くちつ゛けをされて・・・・

「ど、どうしたの紫月・・・?何が・・・・」

確かに平安時代から戻って以来、紫月とは一緒に過ごしていなかったが久し振りの

遼二の抱擁によって倫周はそんなことは特に気になってはいなかったのだった。

だが紫月の方は違っていて。



倫、倫・・・お前は俺のもんだ、俺の、俺だけの・・・側にいてくれよ、頼むから。遼二のところには

行かないでくれよっ・・・

辛いんだ、遼二に抱かれてるお前を想像したら、辛くて苦しくて・・・・・

俺の側にいてくれよ、倫、・・・俺だけの側にっ・・・・・



「倫、好きだ・・好きなんだ、愛してる・・・愛してるよ・・・・・」



熱い吐息と共に何かにとり憑かれたように囁きながら紫月は有無を言わさずに倫周を

ソファーの上に押し倒した。

「紫っ・・紫月っ・・・待って、待ってよ・・・・」

「何で・・?嫌?嫌なのか・・・倫、何で・・・愛してるんだ、好きなんだお前が・・・・

お前も俺を好きだって言ってくれたじゃないか、そうだろう?ねえ、倫・・・・・

もう一度言ってよ、俺を好きだって。もう一度言ってくれよ・・・・」



倫、倫、ああ・・・・倫っ・・!



縋るように、奪うように求められて・・・

「・・・っん・・・う・・んっ・・・・」

倫周も又、高められて身体が熱く反応して、その微かに漏れ出した声を聞いたとき。

紫月はまるで至福といったようにうれしそうな表情を浮かべると倫周の耳元に熱い唇を押し当て

ながら囁いた。

「倫、感じる?ねえ、気持ちいいの・・・?ほんとに感じてくれてるの・・・?ああ、うれしいよ倫・・・・・

もっともっとよくしてあげるよ・・・もっともっと愛させてくれ・・・・!」

紫月は自らもく、っと刹那そうに繭を顰めると抱き締めた倫周の身体にのめり込んでいった。







そのまま眠ってしまったのか、気が付くと既に月が高くなっていた。

「何時・・・?」

そう言ってきょろきょろと時計を探す、そんな倫周の仕草が心に突き刺さって・・・

「ああ、もうこんな時間だ!帰らなきゃっ。紫月、レポートは又明日一緒に・・・」

そう言って立ち上がろうとした瞬間。

紫月の手が倫周の細い指先をつかんで・・・・



「行かないでくれ・・・今日はここに泊まって・・・ね?帰らないでくれよ・・・・」



切なそうに見つめてくる褐色の瞳が潤んでいるようで、倫周は驚きと同時に少々戸惑った。

紫月、どうしたんだ・・・・?

何の返事もせずにぼうっと立ち尽くしている倫周に、紫月は急に立ち上がると又も強い抱擁を

しながら縋るように言った。



「行かないでっ倫・・・ひとりにしないでくれ・・・・頼むからここにいてくれ・・・・

好きなんだよ倫、愛してるんだ・・だからっ・・・・・!」



これから帰ってお前が遼二に抱かれることを想像しただけで俺は気が違いそうだよ・・・・

だから行かないで、そしてもう遼二には抱かれるなよっ・・・・

あまりに強く抱き締められて、その腕が僅かに震えているようで、褐色の大きな瞳はほんの少しだけ

潤んでいるようで、倫周は頷くと小さな声で言った。

「うん、わかった、じゃあ泊まってく・・・」

そう言った瞬間・・・・



「ああ、ありがとう・・うれしいよ倫、倫、倫・・・俺の倫っ・・・・」



そして又高められて。

だが倫周にはこのとき紫月が遼二のもとに自分をやらない為に引き止めた、などとは夢にも

考え付かなかった。只、倫周はついこの間まで紫月が体調が悪くて苦しんでいたことを知っていたので

又、何か苦しいのだろうかと思ったのと、やはり倫周にとっても紫月の慣れた愛撫は心地よかったのか、

そうして紫月に抱かれることに特に悪気もないまま、身を任せていた。

これより後、倫周は又しても蒼国に来る以前と何ら変わりなく、紫月と遼二に交互に抱かれながら

過ごす日々を再開していった。それを特に悪いことだと自覚出来なかったのも倫周の純粋さだったのか

只、純粋というにはあまりにも歳をとり過ぎていたと言えるだろうか。まだ物事の良し悪しの判断が

つかない少年のように何の疑問も持たないままに求められるままに倫周は2人にその身を預けていった。

無論、遼二はそんなことを知る由もなくて・・・

再び訪れる嵐の前の、ほんの僅かの穏やかなこのときを、倫周は幸せに漂りながら過ごしていた。