蒼の国-TS Version/First Impact-
緊張した面持ちで社長室のソファーに腰掛けていた3人がいきなり立ち上がった。

紫月の下で事実上のプロモートの手伝いをしながら現在は帝斗の護衛役も兼ねているビルが

ライブハウスを回りながらスカウトしてきた まだ若い3人を連れてやってきたのであった。

「やあ、いらっしゃい。僕が社長の粟津帝斗です。こちらは専務でプロデューサーの一之宮紫月。

君たちのデビューにあたって曲作りから全て面倒を見てくれる人ですよ。」

やさしくそう言ってドアを開けた2人を見た瞬間にまだ幼さの残る3人の若者は息を呑んだ。


何て格好いいんだ・・・


これが粟津帝斗と一之宮紫月?ミュージシャンを目指す者ならば誰しもが憧れる、この2人に

プロデュースされてデビューしたいと願う、そんな人が目の前にいるなんて・・・!信じられない!

といった表情で3人はぼうっと立ち尽くした。

そんな様子が可笑しかったのかビルが豪快に笑いながら3人の肩を叩いた。

「ほらっ、何を突っ立っているんだ?ちゃんと挨拶しなサーイ!」

慌てて3人は頭を下げた。

北沢の小さなライブハウスでビルがほれ込んだ妖精のような歌声の持ち主、

ボーカルを担当させようとしている来生信一19歳と。

別のライブハウスのガラを見てそのルックスと雰囲気に引き込まれてスカウトしたベースの

鐘崎遼二17歳とドラムスの柊倫周18歳だった。帝斗と紫月はこの可愛らしい若者の様子に

互いの顔を見合わせて微笑むとやさしく言った。



「皆さんのデモテープは拝聴させていただきましたよ。とてもいいものをお持ちですね。後はこちら

でギターとキーボードのメンバーを用意致しますので仲良くやって下さるとうれしいですよ。」

こんな若者にさえ丁寧な帝斗に3人は頬を紅潮させると こくこくと大きく首を振った。

こうして思いがけなくデビューに向けて一歩がスタートしたのである。ビルがスカウトして帝斗と紫月が

プロデュースするのだからデビューすれば一躍スターダムに乗ることは確実であった。

3人も又、ビルの目に留まっただけのことはあって、まだ若かったが常人離れしたものを持っていた。



ボーカルの来生信一は大きな瞳に甘いマスク、何よりも唄が命のバンドにとってその甘い声は

とても魅力があったし、ベースの鐘崎遼二は黒曜石のような瞳と黒髪が印象的な、とても17歳

には見えない程の男前であった。ドラムスの柊倫周は細身でこんなのでドラムが叩けるのかと

一瞬思ってしまう感じだったがデモテープを聴く限りではとてもセンスのいいものがあったし、

何よりも人形のように整った顔立ちが目を引いて近くで見ると目を奪われる程美しかった。

美しいという表現が男子には適当でないにしろこの倫周の場合、他に形容しがたい程本当に

美しかったのである。

柊倫周、彼が後に帝斗と紫月に避けられない運命をもたらすことになるなどとは誰も想像がつくはずもなかった。

本人達でさえ、気付かずに。



帝斗と紫月の頭上に、そして又倫周本人にとっても暗雲が広がるのはそんなに遠い話ではなかった。