蒼の国-TS Version/Distortion- |
|
遼二はあれから益々倫周のことをまともに見られないようになっていた。近頃では遼二も無口に
なりいつも蒼白い顔をして皆はそちらの方も心配だった。一体、遼二と倫周はどうなってしまった
のかと皆が気を揉んでいた頃だった。
日帰りの地方ロケでFairyのメンバーはビルのワゴン車で高速道路を走っていた。
この日は遼二と倫周は隣りの席に座っていた。このところ様子のおかしい2人を気使って他の
メンバーがわざわざ2人を隣同士にさせたのだった。いつも仲のいい2人を一緒にいさせることで
何とかよい方向へ向かえばいいと願った仲間を思うやさしい心使いだった。ビルはもとより他の
メンバーとて2人の様子が変な原因がまさかこの2人の間にあるなどとは夢にも思っていなかった
ので、2人を一緒に座らせればきっと会話も弾んで少しは楽しく過ごせるだろうと信じて疑わなかった。
蒼白い顔をして遼二は恐る恐る隣りの倫周の方を見た。それでもやっぱり顔までは目が向けられず
視界に入ってきたのは倫周の色白の細い指先だった。
この指があいつらを求めて、あいつにも、あいつにも、いろんな奴に平気で自分を任せて、、、
汚い、、っ、、この手が限りなく汚いものに見えて、、、ああもう倫を見たくない、倫の指も倫の手も、
何もかも、、!倫をこうして側に感じるのさえ嫌だ、、、
車が揺れ動く度に触れ合う肩から倫周の体温を感じて遼二は更に顔色が悪くなっていくようだった。
ふっ、、、と視線を外した瞬間に突然込み上げてきた言いようも無い悪寒に遼二は自分の口元を
押さえた。真っ青な顔をして屈みこんでしまった遼二に気付いて倫周はその肩に手を掛けた。
「大丈夫か?遼二、、?どうした、、、」
そこまで言ったとたんに遼二は肩に触れた倫周の手を跳ね除けるようにして席を立った。
その顔は真っ青で今にも倒れそうだった。遼二の様子に驚いた剛がその身体を支えて、叫んだ。
「ビルさんっ、止めてっ!車とめてくれ早くっ、、、!」
剛の勢いに驚いてビルは車を路側帯に入れた。急いでドアを開けると剛は遼二を支えながら
車の外へ連れ出した。
「我慢するな、出しちまえよ」
そう言って遼二の背中をさすってやった。遼二はその場で嘔吐した。
嘔吐しながら涙が零れて、止まらなかった。剛はそんな遼二にぴったりと寄り添って介抱していた。
きっと何か辛いことがあるのだろう、何も言わなかったが剛には何となくわかっていた。このところ
遼二が悩みを抱えているらしいことに。Fairyの最年長者でリーダーの剛にはそんな感じが
読み取れたのだろう、無論直接の原因はわからないにせよ辛そうな気持ちだけは理解することが
出来たのだった。
心配する一同に、剛は車に戻ると明るい感じで皆に言った。
「なに、車酔いよ。ビルの運転が乱暴なんで酔っちまったって。珍しいよな遼二にしちゃあ。
なあ、ビルさんもっとソフトにしてよ、ここはSTAITSじゃねんだからよっ」
ウインクをしながらそう言うと皆一瞬顔が綻んで安心した様子だった。遼二はまだぼんやりと
した意識の中で剛のそんな気使いがとても温かく感じられて、すーっと気分が楽になっていくよう
だった。結局遼二は後部座席に一人で横になりながら帰ることとなった。少しでも倫周から
離れることが出来て気持ちは大分楽になりながら、遼二は又違った不安をかかえてしまって
苦しかった。
このままだと倫周を嫌いになってしまうのではないか?倫周のことを汚く思い側にいることすら
耐えられなくなってしまうのではないか?そんなことは嫌だ、倫周だけは、、、
幼い頃からずっと一緒でいろいろなことを支えあってきた倫周だけは嫌いになりたくない、ずっと
大切に思っていきたい、でもそれもこのままじゃ、、、
遼二はどうしたらいいのかわからずに瞳を閉じた。
今は何も考えたくない、そうだ全て明日考えればいいじゃねえか、今は、、今だけは少し、、
休みたい、、、
後部座席で眠りについた様子に剛は安心したように軽く微笑んだ。 |
 |
|
|