蒼の国-TS Version/白花の下で- |
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次の日も、その次の日も紫月は同じ場所で倫周を待ち伏せては同じように抱いた。
倫周にしたってその道を通らなければいいだけなのにどうしてもやめられなかった。
身体が勝手にその道を求める、意思とは反対に身体が紫月を求めてとまらない。
あんなことを言われて、一生帝斗の代わりだなんて言われて、嫌なのにやめなければいけないのに
身体はいうことを聞いてはくれなかった。自分の中の深い部分から沸きあがる欲望の渦に
巻き込まれて、逆らえなくて、どうしようもなくなる。全身が紫月の愛撫を求めてやまない、、、、
心を引き裂かれるような日々を送りながらも倫周は孫策に代わって自分の欲望を満たしてくれる
ものをどうやっても振り切れなかったのである。
それが幼い頃から植えつけられたあまりにも哀れな倫周の運命であった。
心は望まなくても身体が追い求めて止まない、至福のような快楽の瞬間と地獄のような後悔の念とが
常に入り混じっては次第にその心をずたずたに引き裂いていった。
倫周にとって性の欲望が満たされるのならそれをもたらす者が紫月でなくても誰でもいいから
それがないといられない、と気付いてしまうまでにさして時間は掛からなかった。
普段の生活の中で誰かと触れ合っただけでぞっとする、ぞわぞわと身体が震え始める、常に
欲望に支配され、常にそれを求めている自分に気付いたとき、それらは紛れも無く倫周を地獄に
突き落としていったのである。
そうして倫周は自分のそんな身体を呪うようになり、遂には始末してしまいたいとさえ思うように
なっていった。
春の月夜の綺麗な晩、初めて孫策に告白された想い出の白い花が舞い散る同じ時期だった、
倫周は虚ろな瞳で舞い落ちる白い花びらを見つめながら自分に与えられた朱雀の剣を握り締めると
決して聞き届けられぬとわかっていながらも願いを掛けた。
どうか孫策のもとへ、もう俺は嫌なんだ。どんなに望まなくても誰かに抱かれてしまうこの身体が。
誰でもいいから抱かれたくてうずうずしてるこの身体が嫌だ。孫策だけを想っていたい、この心の
ままにいたい。だからお願い、俺をあの人のもとへ連れて行ってくれ、、、
朱雀よ、お願いだからっ、、、、
真っ赤な鮮血が高い木の白い花々にまで届く程吹き上げては雨のように地面に降り注いだ。
倫周は首筋に当てて朱雀剣を引いたのだった。
「何をしているっ!?やめないかっ、、、!」
狂気のような叫び声の先には周瑜が驚いて立ち尽くしていた。
「お前、、、その、、、格好、、、」
真っ青になりながら近付いて来る周瑜に切っ先を差し出しながら白い頬には溢れ出る涙が止め処なくて、、
「来るなっ、それ以上近付いたらたとえあなたでも、、、俺はっ、、、」
そう言ってがたがたと震えた。
周瑜に向けられた朱雀剣からはぽたぽたと鮮血が滴り落ちて、衣は溢れ出た血で真っ赤に
染まっていた。綺麗な顔は血と涙でぐちゃぐちゃに汚れていて。
周瑜はあまりの光景に見ていられなくて、勢いよく倫周に走り寄るとぎゅっと強い力でその細い
身体を抱き締めた。
周瑜さま、、、、!?
倫周は驚いて朱雀剣を落としたが、その拍子に周瑜の腕をざっくりと切ってしまい、自分を抱き締めた
袖が見る見る真っ赤に染まっていく事態にはっとなったように我に返った、その瞬間。
「倫周っ、お前のすべてをわたしに預けろっ!孫策がいなくて寂しいのだろう?辛いのだろう?
だったらそういう気持ちをすべてわたしにぶつけろっ、皆みんな受け止めてやるから。ねっ、、、
みんなわたしが受け止めてあげるよ、だからもうそんな無茶はするなっ、、、
お願いだから死のう、などとは思わないでおくれ、、、、」
周瑜さま、、、、
「で、でもだめだよ、、、俺には孫策が、、、」
「孫策もっ、、、孫策もわたしなら解ってくれる、お前の相手がわたしならば許してくれるよ。
大丈夫だから、これからはわたしを伯符と思って安心して何でもわたしにぶつけろ。なっ?
わたしがお前を包んでやるから、もう二度とこんなことをしないでおくれ、、、」
そう言って俺を包んだ胸が温かくて、俺は涙が止まらなくて。
この人も俺を愛してくれる、孫策と同じように心から俺を愛しんでくれる、そう感じて、、、
預けてみたくなる、このままこの人の言うようにすべてを預けて、寄り掛かって。
愛されたい、心も身体もすべてをもって、全身で誰かに愛されたい。そして、、、
全身で誰かを愛してみたいっ、、、
ああ、孫策っ、あなたを愛したように。あなたに愛されたように、この人となら俺は、、、、、
「周瑜さま、、、周瑜さまぁ、、、、」
偶然この騒ぎを目にした潤に呼ばれて急いで駆けつけて来た帝斗ら蒼国の一同は様々な思いを
胸にそっとこの場を後にした。
帝斗はその去って行く後姿に僅かに寂しさを湛えて、安曇は大きな瞳に一杯の涙を溜めて。
遼二は少し切なそうではあったがそれでも倫周の幸せを祈るように瞳を閉じて、信一や剛、潤らも
又同じように周瑜と倫周の幸せを祈った。
だが紫月だけは、大きな褐色の瞳に衝撃の表情を映し出してそっと触っていた側の柱が傷付く位に
爪を立てるとぎゅっと唇を噛み締めていた。 |
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