蒼の国-TS Version/Blue Pearl-
大都会の夜景を宝石箱のように映し出す大きな窓辺から2人はその景色を眺めていた。

今や業界トップを誇る音楽プロダクション、T-Sプロの自社ビルの最上階の窓辺に佇む2つの影。

若くしてこの景色をその手中に入れた社長の粟津帝斗と専務でプロデューサーの一之宮紫月である。

2人は大学時代に知り合い意気投合して独自の力でプロダクションを立ち上げて以来、

約10年足らずでここまでの地位にした。故にお互いに対する信頼と絆は何よりも固かった。



時間は既に午前1時を回ったところであった。

12時過ぎまでレコーディングに立ち会って戻ってきた紫月を帝斗が待っていて、それからずっと

こうして大都会の景色を眺めていたのだ。



「ああ、ごめんなさい紫月さん、ぼうっとしてしまって。何か飲みますか?今日は疲れたでしょう?」

社長らしくない丁寧な言葉使いにしなやかな立ち居振る舞い。

にっこりと微笑みながら帝斗がミニバーに向かおうとしたとき、紫月の視線が帝斗を捉えた。

大きな褐色の瞳が帝斗の同じように大きい暗褐色の瞳を見つめて。



「飲み物はいい・・・」               



そう言うと帝斗の腕をつかんだ。

「紫月さん・・・疲れてるんじゃないですか?」

そう言うか言わないうちに紫月は帝斗を引き寄せてその唇を塞いだ。

腕をしっかりとつかまれたままで永い永いくちつ゛けをされて。

ようやくお互いの表情を瞳に映したとき。

「こんなところじゃ見つかってしまいますよ?」

一面がパノラマの窓を見ながら帝斗は言った。

「見つかったら嫌なの?」

くすりと微笑むと紫月は言った。

「僕は構いませんけど。」

いたずらそうに微笑みながら帝斗は広い窓にブラインドを引いた。









「帝斗・・・」

艶のある声でそう呼ぶと紫月は帝斗を抱きしめた。

きちんと着こなされたスーツに手を掛けて慣れた手つきでそれを取り除いていく。

品のいいネクタイが解かれた頃、又もいたずらな目つきで帝斗は言った。

「だめですよ、紫月さんも外してくれなきゃ。」

流れるような仕草の指先が紫月のタイに運ばれて、2人はお互いを見つめてくすっと微笑った。

解かれたばかりのシルクのネクタイをするりと外すと紫月は突然に帝斗の瞳にそれを巻きつけた。

「紫月さん・・!?」

慌てる帝斗の腕をとって紫月は静かに囁いた。

「お前に・・・俺以外のものを見せてやらない為だよ、嫌?」

そう尋ねるとすかさずに反撃の言葉が飛んできた。くすくすと笑いながら帝斗は可笑しそうに言った。

「だって、これじゃあ紫月さんも見えませんよ?」

いたずらそうに微笑う帝斗をそのままにしておいて紫月は自身の絹のシャツをソファーの上に放った。

まるで青真珠のような肌がブラインド越しに僅かに差し込んだ街の煌りを弾いて光る。

そっと、視界を塞がれた帝斗の肩に腕を廻すとその首筋に顔を埋めた。すでに熱くなった唇を

押し当てる。それだけでもう身体の奥底から湧きあがる熱い感覚に紫月は褐色の瞳を細めた。

「帝斗・・・ああ・・・」

帝斗の背中に手を廻し、指先ですーっと一筋の線を描く、ぴったりと重なり合った肌と肌が

より一層熱を増して・・・



「帝斗・・・感じる・・・?」



耳元で低いハスキーボイスが囁く、沸きあがる高まりを我慢するかのように抑えられた声が逆に

言い知れない高揚を生み出して、青真珠のような胸元で帝斗は黄金色の髪を揺らした。

「紫・・月・・・」

先程までとは違う彩のある声が紫月を呼ぶ。不自由な視界を探るように帝斗は紫月の存在を

求めて手を伸ばした。

「何も見えない方が感じられるだろう?」

紫月は自分の胸元に寄り掛かった黄金色の髪をくしゃくしゃにしながら激しいくちつ゛けをした。

「う・・・ん・・っ・・・」

一生懸命に抑えていた息使いが漏れて、身体は力が抜けたように紫月に寄り掛かって。



「待って、紫月・・・紫月さん・・・・」

必死で自分を取り戻そうとする帝斗の熱い身体を紫月はソファーに沈めた。

こんなときでさえ無意識に普段の節度ある自分を保とうとする帝斗の高を外したくて紫月は

そっと、 じらすように身体を重ねていった。

ゆっくりと、じりじりと湧き上がってくる言いようのない熱い感覚にさすがに帝斗は逆らえなくなって

塞がれた視界がそれらを更に煽りたてるようで帝斗の腕が紫月を求めて空に伸ばされる。

帝斗は紫月の肌を探り当てるとぐいとその肌を自分に引き寄せた。



「ひどい・・な・・紫月・・・せっかく・・我慢してた・・のに・・・・」

そう言うと帝斗は引き寄せた青真珠のような肌を追い詰めるくらいに自分から激しく紫月を求めた。

普通に腰掛けるには十分過ぎる程だったがそれでも大の男が2人で横になるには不自由な

ソファーの狭さがより求め合う心を駆り立てて、思うようにならないのがじれったいというふうに

激しく2人は求め合った。

「紫月・・紫・・・・ぁあ・・っ・・・・っん・・・ん・・っ・・・・・・」

押さえ切れなくなった熱い吐息が微かな嬌声へと代わると、帝斗は自分から上体を引っくり返して

紫月の首筋につかまりながら、くっと繭を顰めて天を仰いだ。

こんなときの帝斗は普段からは想像もつかない程素直で激しくて、そんな豹変振りも又紫月の

心を熱くして。

欲望のままに自分の腕の中で乱れる帝斗を感じながら紫月は心臓をつかまれるような思いに駆られた。



帝斗 ああ帝斗・・お前は俺をどう想っているんだろう?お前とこんなことをするようになって

もう随分経つけれど、その心の内を聞いたことなんて一度もない・・・俺は・・・・

俺はこんなにお前が愛しくて仕方ないのに・・お前はどうなんだ、一度も口にしないから、、

ときどき不安になるんだ、お前の気持ちが、わかっているけれど言葉で聞かないと不安で・・・・

訊きたいけれど、勇気がない・・・・・・   





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「帝斗?大丈夫か、帝斗・・?」

微かな震えと共にがっくりと重くなった身体をソファーに預ける帝斗の瞳を開放してやりながら

紫月は尋ねた。

ゆっくりとうつろな瞳が開かれて、紫月の褐色の瞳を捉えた。

「紫月・・・さん・・?すみません・・起こしてください・・」

そう言って手を差し出した。

つい今しがたの激しさが嘘のようにもう丁寧な言葉使いに戻ってしまった帝斗に紫月は少々不服な

表情をしながらぐいっとその手を引っ張り上げた。

勢いよく引っ張り上げられて帝斗は紫月の胸元に頭をぶつけた。



・・わっ・・・



一瞬慌てた声をあげたけれど、目の前の広い胸を確認して帝斗は、しばしそのまま顔を埋めた。

黄金色の髪が素肌に心地よい。

その眩い色の髪を撫でながら紫月は呟くように尋ねた。

「帝斗は俺のことが好き?嫌い?」

突然の問いに一瞬きょとんとしながら紫月を見上げると、にっこりと微笑んで帝斗は言った。

「嫌いだったらこんなことしませんよ。」

いたずらっぽく微笑む表情を見て紫月も微笑った。こんな表情は恐らく紫月以外には見せない

だろう。帝斗は普段はその立場もあってか、至極穏やかな大人だった。

「敵わないな、お前には・・・」

半分呆れたように言いいながら脱ぎ捨てられたシャツを帝斗に放った。



「ほら、服着ろよ、誰か来ると困るだろ?」

そう言ったけれど、こんな時間に誰もいませんよと笑われて又も紫月はばつの悪そうな顔をした。

そんな紫月を尻目に無造作にシャツ一枚だけ羽織ると帝斗はミニバーに向かった。

「あっ・・ミルクが切れてますよ・・・」

そう言ってコーヒーカルーアの瓶だけを振って見せた。そんな様子を見ながら紫月は気に入りの

ジタンの煙草に火を点けると

「いいよ、今日はルシアンにするから」

少々残念そうに言う紫月の様子に微笑みながら帝斗はロックグラスを持って行った。

「本当に甘いものが好きなんだから、紫月さんは。」

大きなソファーに寄りかかりながら2人はしばらくグラスを傾けた。穏やかな瞳がお互いを見つめて。

夏の早い朝がもう当りを蒼く染めていた。