CRIMSON prologue.3
「お待たせ・・・・・・おや、もうおたのしみかい?随分と気が早いこと・・・・」

やはり湯上がりのいい香りと共に、帝斗は部屋へ入って来るなり薄暗い闇の中で絡み合っている2人を

見つけてそう言った。

そして逸る吐息の漏れ出すベッド脇へとぎっしりと腰を下ろすと、

「ふふふ・・・いいね倫?もう可愛がってもらってるのかいお前?

でも今日の紫月は少し乱暴だねぇ・・・・辛かったらもう少しやさしくしてって、遠慮せずに言うんだよ?」

そんなふうに少し荒がっている紫月を制御するように言った。

倫周の方はそんな帝斗に助けを求めるように手を伸ばしてくる。不安な瞳を揺らしながら縋るように

見つめていて・・・・



「酷え言い草だな帝斗、、、、俺そんなに乱暴?」

既に噴き出した汗を拭いながらようやくのことで紫月は倫周を解放すると少しの苦笑いをこぼしてみせた。

「乱暴だよねぇ、倫?こっちへおいで。お前、大丈夫だったかい?」

「ん・・・平気・・・・・慣れてる・・・えへへ・・・紫月・・・たまにすごいときあるから・・・・・」

「ふ、、、ん、、、悪かったな、、、、今日はちょっと激しくお前を愛してやりてえって、、、そう思っただけ。

ごめん、、、悪気はねえんだ、、、、倫、、、、」

強がっていたかと思うと急激に済まなさそうに瞳を翳らせる・・・・

紫月はそっと倫周の腕を取ると、まるで愛おしそうにくちづけをしたりするのだった。

「ごめんな倫、、、悪かったよ、、、乱暴にして、、、、痛く、、、なかったか、、、、?

どっか、、、具合悪いとか、、、ねえか?」

「紫月ぃー・・・・平気だってば・・・・」

チュッ、チュッと何度も手のひらにくちづけられて倫周は困ったように紫月を見つめ返した。

だがそんなことがさしてめずらしくもないのか、倫周の方も格別に紫月のそんな様子を気に留める

素振りはなかった。もともと素直過ぎるくらいで性質のいい彼のこと、だからこそ帝斗が紫月の気持ちを

やわらげる為にこの若き青年を側に呼んではこんな秘密のひとときを重ねていたのかも知れない。

帝斗は2人のベッドへと潜り込むと抱きかかえるようにして倫周を自分の腹の上に乗せ、

そしてやさしい言葉を投げかけるのだった。

「ほら倫・・・・今度は僕の番だよ?こっちへおいで。お前の好きなように僕を愛しておくれ?」

「やだ・・・帝斗ったら・・・・・今紫月としたばっかなのに・・・・俺もたないよ・・・・」

「つれないことをお言いでないよ?休みながらでいいから。ほら倫・・・・・」

「ん・・・・うん・・・・・帝斗・・・・・・やさしいね・・・・・大好きだよ・・・・帝斗も・・・紫月も・・・・・大好き・・・・」

「ふふふ・・・いい子だね倫は。後で豪華にメシ連れてってやるからね。」

「ほんと?レストラン行くの?」

「そうだよ。だから・・・ほら倫・・・・」

「帝斗ー・・・・・大好き!」

甘えるように胸元に縋りつき、そして色白の帝斗の胸元に舌先を這わす・・・・

次第にとろけるような瞳で行為に没頭していく倫周の姿を横目に見ながら、紫月はくったりと枕に

寄り掛かっていた。















ごめんな帝斗、、、、

本当はお前だってこんなことを心から望んでなどないのだろう?

倫だって、、、、

こいつは素直だからこんなふうに俺たちの言いなりになってるだけで、、、、

本当はこんなことしたくねえってのも分ってる、、、、、

こんな、、、、3人でセックスだなんて、、、、

こんなことになったのも全部俺のせいなのに、、、、

酔っ払って倫を自分のものにしちまったあの日から、、、帝斗にも、そして勿論のこと倫にも、、、

きっと辛い思いをさせてるんだろう?

俺の為に2人は何ひとつ愚痴を言わずに付き合ってくれてるけど、、、、

本当はこんなことよくねえって思ってるんだろう、、、

俺だってそうだ、、、、

俺が一番よく分かってるんだ、、、

本当は、、、、



帝斗と2人で心のままに愛し合いてえって思ってる

倫のことだってこんなふうに強要したりしちゃいけねえって解ってるけど、、、、

でもダメなんだ、、、、



なあ帝斗、、、

俺はお前に言ってないことがある

お前に隠してることが、、、、ある、、、、

どうしても云えないことがあるんだ、、、、

俺のすべてを知ったらそれでもお前は側にいてくれるか?

俺のすべて、、、、

汚い過去、、、、

誰にも言えない俺の、、、、、、





側でもぞもぞとシーツが揺らめき、そして僅かに逸った吐息が耳を掠めてくる。

ふと無意識に目をやれば額にうっすらと汗を滲ませて虚ろな表情の帝斗の顔が視界をよぎり・・・・・

その脇でやはり同じように瞳をしかめながら天を仰ぐ倫周の紅潮した頬が瞳に映った瞬間に、

紫月はきゅっと胸を締め付けられたようになり耐え切れずに2人のことを抱き寄せた。





「わっ・・・・紫月っ!?」

「2人で盛り上がってんなよ、、、俺ひとりで寂しいじゃねえ?」

「あははは・・・・やだな紫月さんったら・・・・」

そして絡み合う2人になだれ込むようにすっぽりと2つの肩を抱き竦めて。

この上なくやさしく理解の深い帝斗と、

この上なく素直で可愛い倫周の肩を抱き竦めて・・・・

紫月はほんの僅かの安堵の中にいた。

何もかも忘れて温かい2人の側にいることがただうれしくて安心で。

こんな僅かな時間が自分にとって最も安息のひとときになっているだろうことを理解しているのであろう、

だから帝斗はいつも倫周を呼んでは3人で過ごすことを潔しとしているのだろうか?

そんな思いに心を乱されながら、だが紫月には他にどうすることも出来ずにただ差し出された思いやりに

甘えて過ごすしかなかったのである。

それ程までに彼を包んで止まない過去とは何なのか?

そして心に深く抱え込んだそれを帝斗に告げる日は訪れるのであろうか?

怒涛の運命の渦が自身を包み込むのはそう遠くない未来だということを、このときの紫月は知る由も

なかった。

ただ心に重たい不安を抱えたまま虚偽の甘やかさに巻かれてうずくまっているしかなかったのである。





そんな思いを払拭したいかのように目の前の2人を夢中で抱いた。

心の中で謝罪の言葉を繰り返しながら、流されるように紫月は帝斗と倫周を抱いたのだった。





ごめんな帝斗、、、、、

ごめんな倫、、、、、

どうか俺を許してくれ、、、、、

こんな俺を、、、、、どうか、、、、!