CRIMSON prologue.2 |
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「ね、今夜あたり又 倫を呼ぶかい? 久し振りだし・・・・ちょっと楽しむのもいいんじゃないか?」
にっこりと微笑みながらそんなことを言った帝斗の言葉に少々辛そうに瞳を歪めると紫月は言った。
「倫?どして?だってお前、、、」
先の言葉が出ずに、まるで言いづらそうにポツリポツリと言葉を選んでいる紫月の様子に
「いいんだ。僕も久し振りに倫と寝たいよ・・・・少し・・・思いっきりセックスしたくて・・・・」
明るめに、そんなふうに帝斗は答えた。
「帝斗、、、、、、、悪ィ、、、、」
「構わないよ。それにたまには倫にだっていい思いさせてやりたい・・・・
いつもみたいにおたのしみが済んだらちょっとは豪華なレストランでも連れてってやろうと思ってさ?
まあ、あの子も決して嫌いな方じゃないし・・・・えっちが・・・さ?」
クスリとおどけたように微笑みながら帝斗はソファを立つと軽く身支度を整えて部屋を出て行った。
「じゃあ・・・夕方になったら又僕が倫をお風呂に入れて来ますから・・・・
紫月さんはいつものように地下の部屋で待っててくださいね?」
「ああ、、、、わかった、、、、、」
パタリと扉の閉まる音を横目に、僅かに翳りかけた午後の街並みを見下ろしていた。
此処は自分と帝斗が経営する音楽プロダクションの最上階の自室だ。
そう、、、自分と帝斗とで築き上げた城、、、、
誰にも邪魔されないはずの自分の、、、、存在できる場所、、、、

「紫月・・・・?いるの?入るよ・・・・・?」
ひっそりと静まり返り、ひと気のないような部屋の扉が恐る恐る開かれて・・・・・
「ねえ・・・紫月・・・・・?」
昼間 帝斗が話していた通り、風呂上りのいい香りと共にひとりの青年が部屋を訪ねて来たのだ。
彼は名前を倫周といい、現在は帝斗と紫月の経営する音楽プロダクションでロックユニットを組んでいる。
デビューして間もなかったが既に全国区でブレイク中の、いわば若くして天才プロデューサーと
讃えられている紫月のプロモートの秘蔵っ子であった。
そして、ときおり ひと回り程も年の離れた若き彼をこうして呼びつけては抱いている・・・・・
いつだったか、酔った挙句に雰囲気に流されて彼に手を出してしまった日からずるずると奇妙な形で
続けてきた関係だ。
プロダクション中の公認の恋人である帝斗もそんな自分に見て見ぬ振りを続けていたが、これが原因で
罪悪感を抱え込んではいけないという深い理解と愛情の下である提案を差し出したのだった。
これからは一緒にたのしまないかという帝斗の提案に紫月は酷く面食らった思いでいたが、紫月にとっては
複雑な心中から逃れるように目を背けて帝斗の言うなりに従っているつもりでいる自分に非常に嫌悪感を
抱えているのも又事実であった。
真っ暗な闇の中、自分を呼ぶ倫周の声を半ば呆然と聞きながら、紫月は力なく低い声で彼の名を呼んだ。
「こっち、、、ここだよ倫、、、、もたもたしてねえで早く来いよ、、、、、」
なんて心無い言い草だろう?
紫月はそんな自分が非常に嫌でもあったが、いつもそんな態度をしてしまう自分に抗えないでいるのも
確かであった。
「紫月・・・・ねぇ電気付けても・・いい・・・・?真っ暗で何も分らないよ・・・・・ねえ・・・どこにいるの?」
「うるせー、、、此処だって、、、、」
「ああっ・・・・・」
「いちいち電気がついてねえくらいでわめくなよ倫、、、、そんなことより、、、、
相変わらずいい匂いしやがって、、、
帝斗と風呂しっかり楽しんで来たってわけ?」
「ち・・・違うよっ・・・・・たのしんで・・・なんか・・・っ・・・・・」
あっ・・・・・・・・・・・・・・
「やだっ・・・・待ってっ・・・待っ・・・・・・紫月ぃー・・・・・・・!」
強引にねじ伏せるように彼を組み敷いて・・・・
ベッド脇の僅かな灯りを点ければほんの少し驚愕に揺れているような美しい頬が瞳に飛び込んできた。
そんな瞬間が又、最も深く傷つくときでもあるのだ。
強引な自分、
弱き者に威張っている自分、
心無い暴言を平気で投げつけている自分がこの上なく嫌で仕方なくて・・・・
本当はこんなことをしたいわけじゃない、、、
すべてのことが投げやりで、そんな嫌な部分に目を背けたいが為に何の罪もない大事な部下を
粗末に扱ってしまうなんて、、、
けれども紫月にはそんな自身をコントロールすることさえ不可能に近かった。
いつも精神が不安定で定まらず、常に自身を圧迫して止まない要因を抱え込んでいて・・・・
それは誰にも言えないことだった。
唯一心から愛し慕っているはずの帝斗にさえ告げられぬひとつの悩み・・・・
遠い日に、
若き日に自らが犯してしまったある出来事が罪の意識となって今も紫月を押し包んでいた。
不安な思いに苦しみながら、重苦しい日々から逃げるように心は虚ろになっていった。
誰にも告げられず、、、、
紫月はたった独りで言い知れぬ孤独感と戦っていたのだ。
それらがより不安定に精神を乱していて。
帝斗もそんな紫月の様子に不安を抱えながらも何も出来ずに苦しんでいたのだろうか?
だがやさしく穏やかな彼特有の性質ゆえ、問い詰めることもせずに、ただ黙って見守るしか
出来得なかったのである。
若き倫周を側に呼んで、まるで紫月を慰めるようにそんな行為を繰り返していたのも、帝斗にとっては
心苦しかったに他ならないだろう。
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