CRIMSON prologue.1
薄明かりの中、全身を気だるさが襲う

重い身体を懸命に動かして、それでも俺は目の前の肌を追うんだ、、、

触れ合うお前の肌はやさしく温かくて

けど時折感じるゾッとする程の冷たい感覚が自然と纏わり付いた俺の汗だと分かった途端

いつも現実に引き戻されるんだ、、、

我に返る嫌なひととき

冷たく重く俺を包んで放さない、、、

いつになったら解放されるんだろう

いつになったら俺は、、、

心からお前に没頭できるようになれるんだろう















「・・・・・・さん・・・・・・紫月さん・・・・・・?」

「えっ!?」

「どうしたの?その気になれない?」

「え、、、あぁ、、、、、違うよ、、、、何でもねえ、、、、、」

「今日はレコーディングだったから・・・・少し疲れたんだろう?何か冷たいものでも飲みますか?」

ベッド下に投げ捨てられたローブを手に取ると帝斗は僅かに微笑みながらそんなことを言った。

ミニバーへと向かう後ろ姿をぼんやりと追いながら全身に噴き出した冷たい汗を拭う・・・・

だるい身体を無理に起こしてベッドの背もたれへと寄り掛かりながら紫月はほうっと深く溜息をついた。



手元の時計は午前3時を回っている。

虚ろな瞳でそれだけ確認すると紫月は再び全身の力が抜けたように大きな枕の上へともたれ掛かった。

「お待たせ紫月さん、アイスレモネード」

ひんやりとした指先が肩先を叩き・・・・

「あ、、、ああ、、サンキュ、、、、」

差し出されたグラスを一気に飲み干すと又も深い溜息を漏らすのだった。



「どうかした?このところずっとこんな調子だ・・・・具合でも悪いのかい?」

少し心配そうな暗褐色の瞳が覗き込んでくる・・・・

やさしい穏やかな瞳が・・・自分の側にある・・・・

紫月はふいと手を伸ばすとまるで縋るように帝斗の胸元へと抱きついた。

「帝斗、、、、、帝っ、、、、、帝斗、、、、っ、、、、」

髪をくしゃくしゃに乱しながら放心したように繰り返し名を呼ぶ様はまるで子供のようで・・・・・・・・

だが帝斗の方は格別驚きもしないといった感じで自分の胸の中でうごめく彼を受け止めていた。

しっかりと肩を抱き、かかえるように頬を寄せ、、、、

まるで震える子供を守る親のようにしっかりとその腕に抱き締めていた。





それからどれくらい経ったのか、

酷く長く感じた時間も実はほんの僅かでしかなかった。

手元の時計の針は先刻からいくらも進んではいない・・・・

肩を並べながらベッドに横たわり、側には軽く寝息を立て始めた帝斗の色白の頬が目に入る。

だが意識がはっきりしてくるごとに急激に全身に広がり来る恐怖のような感覚に、紫月は眠りに落ちそうな

帝斗の腕にしがみ付くと、まるで揺り起こすように縋りついた。

「帝斗っ、、、なあ帝斗っ、、、、起きて、、、、、お願い、、、、起きてくれよー、、、、」

必死に、叫ぶようにそう訴える表情はうっすらと蒼白くて・・・・

「う・・ん・・・・紫月・・・・・・?どうした・・・・の?」

「帝斗っ、、、、、」

閉じられていた瞳が僅かに開き自分を捉えたのを確認すると少しは落ち着きを取り戻したのか、

それでも驚愕のような表情に帝斗は慌てて半身をベッドの上へと起こした。

「どうしたの紫月・・・・・?何かあった・・・・?嫌な夢でも見たのかい?」

やさしく髪を撫でながら自分に話し掛ける帝斗の声が聞こえる・・・・・

それを確認するとまるで気が抜けたように安心し、そして再び胸元へと縋りつく。

「帝斗っ、、、なあ帝斗、、、、側にいてくれ、、、、ずっとっ、、、側に、、、、、

どこにも行かねえでくれ、、、、、ずっと俺の側に、、、っ、、、、

な?帝斗、、、、頼むよ、、、、独りに、、、しないでくれ、、、、」

そして同じような言葉を繰り返す・・・・

そんなことが茶飯事なのか、帝斗は驚く様子もなく・・・・

だが僅かに哀しげに瞳を細めながら胸元に縋りついているヘーゼル色の髪を撫で続けるのだった。

「どこにもいかないよ紫月・・・僕はずっとあなたの側にいる・・・今までもこれからもずっと・・・・

ずっとあなたの側にいるよ?」

「ほんとに、、、?嘘じゃねえよな、、、?ずっと、、、側にいてくれるんだな?

ずっと、、、、」

「ああ・・・本当だよ紫月、あなただってずっと僕の側にいてくれるんだろう?」

「うん、、、うん、、、、、」

「だったら僕らはずっと一緒だ。何も心配することなんて無いんだよ?

怖いことなんて何も無いんだ。だから安心して?

もう少し眠ろう?

ね、紫月?」

「ん、、、、うん、、、眠る、、、、分った、、、、もう少し、、、、眠ろう、、、、、」

「うん、じゃあほら・・・僕も横になっていいかい?」

ぎゅっと掴まれた肩先の指にそっと手を添えて、そのまま包み込むように手をつなぐと帝斗は

ゆっくりと布団に入った。

「帝斗、、、、なあ、、、、帝斗、、、、抱いて、、、、、ちょっとの間でいいから、、、、、

俺が寝るまで、、、、見ててくれよ、、、、側で、、、、、なあお願い、、、、帝斗、、、

どこにもいかないでくれ、、、、、っ」





縋るように、祈るようにその姿は儚くもあるようで。



こんなことが時折だった。

何事にも反応出来ず呆然となったかと思うと、急激に、まるで怖いものに怯えるように縋りついては

肩を震わせる・・・・



いったい何に怯えているのだろう?

何がそんなに彼を呪縛して止まないのだろう?





そんな疑問を抱えながら、けれども帝斗は酷くやさしく腕の中で縋りつく身体を抱き締めた。

こんなことがあるたびに。

いつもいつも。

自身も又、紫月のそんな様子に少しの不安を抱えながらもまるで愛しそうに抱き締めていた。

心からの、

ありったけの愛情をもって、、、

抱き締めていた・・・・・