CRIMSON Vol.50
「紅っ、、、ばかっ、、、、よせっ、、、、やめろーっ、、、、、!」

紫月は差し出された紅月の腕を振り払うように叩きつけた。まるでもがくようにベッドの上で身を捩り暴れて。

「何で・・・・・・な・・・なんでみんな・・・・・そうなんだ・・・・・・」

「え、、、、、?」

「な・・・んで・・・・皆んなそうやって・・・・僕を避けるんだよ・・・・・・・?

なん・・・で・・・・・・・・っ・・・・そうやって・・・っ我が侭ばっかり言うんだっ!」

「紅っ!?」

「僕は何もしてないのに・・・・・・・っ・・・・・・何も悪いことなんか・・・・・・・・なのになんで僕ばっかり・・・」

「紅、、、、、、?どうしたんだお前、、、、何かあったのか、、、、?俺が留守の間に何か、、、、、」

「気持ちいいって言ったじゃない・・・・こうして血が肌の上で滑る感じがいいって・・・・・

紫月こうするの好きだったじゃない・・・・・・だから・・・・切ったんだ・・・・・

紫月の為に・・・・・

そして僕の為にも・・・・・・

こうすれば・・・・いつもよりも感じられるから・・・・・何もかも忘れるくらい・・・・・感じたいからっー・・・・」

次第に癪に障っているかのように声を荒げ興奮し、かと思えばまるで無垢の子供のように情けない

ような声を出す。

「痛くなんかないよ?全然平気さ・・・・・・

ああっ・・・紫月っ・・・・・あっ・・・・・・あはっ・・・・・・・気持ちいいっ・・・・

あ・・・・・・ほら・・・・・もう・・・・勃ってきた・・・・・もう・・・・限界・・・・・」

自分の上にまたがったままくねくねと身体を動かして、虚ろな瞳はどこを見ているともつかない感じで。

そんな様子はまるで気が違っているかのようにも思えて紫月は硬直し、しばらくは状況もつかめないまま

呆然とされるがままになっているしかなかった。

滴る血の痕−−−−−

次第にしっとりと汗ばんでくる身体−−−−−

肌と肌が摩擦して、逸る心をそのままに吐息までもが熱くなる−−−−−

真っ暗な闇の中でときがさかのぼったように紫月も又その異様な雰囲気に頭の中がクラクラとし出すのを

感じていた。

無意識に手が伸ばされて。





「紅っ、、、、、!」

紫月は自分を組み敷いて座っている紅月の身体を引っくり返すように突き飛ばし、逆に上乗りになると

異様な雰囲気に呑まれるように乱暴に腕を掴み上げ、動けないように拘束し、噛み付くようなキスをした。

まるで強姦するかのように弄って、、、、、、

「あっ・・・ああっ・・・・・紫っ・・・・月・・・・・・・っ」



うっ・・・・・・あ・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・・・ぁ・・・・



漏れ出す嬌声も紫月の心に火を点けて。

血で濡れた紅月の胸元の突起物をぬるりと指で撫で回せばまるで感電してしまったかのように

2人は互いにビクリと身体を仰け反らせた。

「ああっ・・・・紫月ー・・・・紫っ・・・・・・・・・」

くねる身体に興奮の渦が押し寄せる、、、、

闇の中、僅かに浮かび上がる淫らな表情が紫月の思考能力を完全に奪い去ろうとしていた。

「そんなにいいのかよ?紅、、、、、

こんないやらしい顔しやがって、、、、、そんな顔見たら、、、、俺も歯止めがきかなくなりそうだぜ?」

「あ・・・・・はっ・・・・・・紫月ぃ・・・・・・・・」

「ダメだ紅っ、、、、、俺やばい、、、、、お前のこと、、、、、めちゃめちゃにしちまいそう、、、、、

お前がヘンなことするからー、、、、昔に、、、、、戻っちまいそうだぜ、、、、、、!」

「はぁ・・・・・あっ・・・・いいよ・・・・いい・・・・・・

めちゃめちゃにして・・・・・」

「ばかっ、、、、、ンなこと言ったら知らねえぜ、、、、?マジで壊しちまうかもよ?」

「いいよ・・・・・・壊して・・・・・・・・」







めちゃめちゃに掻き雑ぜてよ・・・・・・それで・・・・・何もかも忘れられればいい・・・・・・

何も解らなくなっちまえばいい・・・・・・何も・・・・・・・・っ今までのことなんかっ・・・・・・

みんな壊れちまうくらいめちゃめちゃにしてくれよっ・・・・・・・・

紫月ー・・・・・紫月っ・・・・・・・もっと・・・・

もっと、

もっと、

もっとー、

もっとーーーーっ!















そう・・・・・・・そしてみんなめちゃめちゃに壊れてしまえばいいっ・・・・・

何もかもわからなくなってしまえばいい・・・・・・

この身体も・・・・・・紫月も・・・・・・・そして僕を酷い目に遭わせたあの男もっ・・・・・・

みんな失くなってしまえばいいんだ・・・・・・・

すべて失くしてしまえばいい・・・・・・

何も・・・・・いらない・・・・・・・・僕はもう・・・・何も・・・・・・・

何をも思い出したくなんかないんだ・・・・・・・

紫月を想って苦しんだことも・・・・・・白夜に酷い目に遭わされたことも・・・・・

そしてそんな目に遭わせておきながら僕を捨てて出て行った男のことも・・・・・・・

みんなわすれてしまえばいい・・・・・

考えるのはもう嫌だ・・・・・

誰かを想って苦しむのももう・・・・・

この一瞬の快楽でさえ僕にはもうどうでもいいことだから・・・・・・















紫月は紅月に誘われた排他的な世界に引き摺り込まれるように差し出された快楽に没頭し、

ほんの一瞬でそれは昔の背徳のときにさかのぼるかのようであった。

想い合い、愛し合っていると確信した上での安堵感が生み出したろう一瞬の好奇心は今このときに

2人を包んで止まずに。

何も知らずに紫月はスリリングな遊戯を楽しむが如く溺れていく。逆にすべてがどうでもいいとさえ

感じる紅月はまるで玩具の人形のように紫月に弄ばれることで無意識に自己を救おうとする哀れな

本能が働いて、又してもすれ違ったまま瓜二つの瞳が闇の中に交叉していた。

この後、ほんの戯れだと軽んじていた紫月が紅月の真の異変に気付くまでにさして時間は掛からない。

若き日に穢し合い、溺れ合った背徳の双子の歯車は、僅かにずれた方向に向かって軋み出そうとしていた。