CRIMSON Vol.43
「幸せだったんじゃないんですかっ、、、、、!?

紫月さんと一緒にいられてっ、、、、ようやくと永年の夢が叶って、、、、、、

やっと幸せをつかめたんじゃないのかっ!?

それなのにっ、、、、、何故こんなっ、、、、、、、

紅月さまっ!」

強い力で腕を掴み上げられたまま、声を荒げてそう問いただされた。

食い入るように見詰めてくる白夜の瞳は真剣そのもので、重なり合った瞳の奥には哀しみの感情が

立ち込めているかのように深く憂いているのが伝わって来る。

見詰め合い、探り合ったまましばらくはときがとまって・・・・・・





「何故だ、、、、、、?紅月さま、、、、、

今のあなたは全然幸せそうに見えない、、、、、、

紫月さんが此処に帰って来たとき、、、、あなたを抱えるようにして帰って来たとき、、、、、

俺と初めて対面したとき、、、、、

あなたは確かに幸せそうだった、、、、

俺に怯えながらも紫月さんの側にいられる、彼に守られているという安心感に包まれているみたいで

正直負けたと思ったのに、、、、、

あなたが、、、、そんなにも幸せなのだったら俺は諦めて紫月さんにあなたをお任せしようと、、、、、

そういうふうに思えたっていうのに、、、、、

今のあなたはまるで逆だっ、、、、、、辛そうで哀しそうで、、、、、

その上独りでマスターベーションだなんて、、、、いったいどういう、、、、、、」

「や・・・だ・・・・・やめて・・・・・そんなこと・・・・・どうでもいい・・・・・

お前には・・・・関係ない・・・・・・」

掴まれていた腕を振り払い、背を丸めてソファーにうずくまってしまった紅月の声は未だ涙にくぐもっていた。

「うっ・・・・・・・・・んっ・・・・・」

肩を震わせしゃくりあげるように泣き濡れて。





「紫月さんと喧嘩でもしたんですか?」

そんな問い掛けに思いっきり首を横に振った。その様はまるで幼い子供のようで。

「では何故、、、、、、、、」

「いいんだっ・・・・・・・何でもない・・・・・・・・それにっ・・・・・・

僕だって大人の男だ・・・・・マ、マスターベーションくらいっ・・・・・するときだってあるさ・・・・っ」



「、、、、、、、、、、、、、、」



「な・・・んだよ・・・・・・・ほらー・・・・もう行けよ・・・・・・・

僕の・・・・・快楽の最中なんだからっ・・・・・邪魔するなっ・・・・・・」

顔を真っ赤に染めながらわざと強気にそんなことを言っている紅月に、白夜はそんな様子にも

驚きを隠せないといった感じで眉を顰めた。

紅月はソファーの背にまるで追い詰められたように寄り掛かっていて、そしてその瞳だけは

敗けを覚悟した獣が最後の戦いを挑むかのように強く、哀しく揺れていた。

「な・・・んだよ・・・・それとも・・・・・・・

見たいわけ?僕の・・・・・・・オナニーしてるとこ・・・・・・・・

そんなに見たきゃ・・・・・・いいよ・・・・・・・・・見せてやる・・・・・・・

ほら・・・・・・よく見ろよ・・・・・・・・・ヘンタイ野郎っ!」

まるで挑発するようにそう言いながらにやりと微笑むと再度下着を引き摺り下ろして自身の性器を握り込んだ。

「う・・・ふふふ・・・・・・・・他人のオナニーなんか見て・・・・・・楽しいか?

それともいつかみたいに無理矢理僕を犯したいとか?」

言葉じりは強く挑戦的で、だがその心はズタズタに傷付いているというのが明らかだった。

無言のまま立ち竦んでいる白夜の前で微笑みながら、その裏で心を潰して自己解放の恥辱の行為を

して見せる紅月が哀れだった。

哀れだったのだが・・・・・・

だが同時にそんな紅月の姿が、白夜にはこの上なく誇り高く感じられたのも確かだった。

「紅、、、、月さま、、、、、、、」

驚愕の表情で蒼ざめている白夜をチラリと横目で見ながら紅月はふいと苦笑いを漏らした。

「ふっ・・・・・ん・・・・・・・いつまで見てるつもり?そろそろイキたいんだけど・・・・・

まさか最後まで観察し続けるつもりなわけ?」

その言葉と共にこらえ切れなくなった紅月の涙がぽとりと一筋頬を伝わった。

その瞬間、同じく我慢し切れずに白夜は跪くとぐいと強い力でソファーにもたれかかっている紅月を抱き締めた。

「びゃ、白夜っ・・・・・・・!?」

「もう、、、、、よせっ、、、、、、、」

「・・・・う・・・・うるさいっ・・・・・・・せっかくもうちょっとでイケそうだったのにっ・・・・・邪魔するなよっ・・・・」

「、、、、、、っ紅月さまっ、、、、、、、」

「は・・・・なせよ・・・・・・・放せって言ってるんだっ!」

「紅月さまっ!」

強く強く抱き締めて、身体中から湧き上がる震えを止めるようにきつくきつく抱き締めた。

「放せ・・・・よ・・・・・・・・これ以上・・・・・・惨めにさせないで・・・くれ・・・・・・・・」

「何故、、、、、、、?

こんなに傷付いて、、、、、、、

まるで変わらないじゃないか、、、、、、、こんな辛そうなあなた、、、、、、

昔と、、、、紫月さんを追い求めて苦しんでた頃と何ひとつ変わらないっ、、、、、

どうしてあなたはいつも苦しんでばかりいるっ!?どうして紫月さんが帰って来たのにっ、、、、」

白夜は紅月の腕を捻り上げると、問いただすようにその表情を覗き込んだ。

真剣な瞳と傷付いた瞳が重なり合って・・・・・・

2人はしばらくそのまま互いを見詰めたまま身動きひとつせずにいた。





どのくらいそうしていたのだろう?

刺すように真剣に見詰めてくる切れ長の瞳に耐え切れずに、紅月の褐色の瞳が戸惑い揺れた。

捉え合った視線を外すことなく、ゆっくりと白夜の顔が近付いて。

頬と頬とが触れるくらいまで近付いて・・・・・

引き寄せられるように唇を重ねられて紅月はびくりと肩を竦めた。





「や・・・っ・・・・・・・・・・」





「やめろっ・・・白夜ー・・・・・・・・」

熱い唇の重なり合う感覚からどうにかして逃げながら首を捻っては逃げ、を繰り返していた紅月であったが、

次第に身体の深い部分から湧き上がってくるような嫌な感覚に大きな瞳をくしゃりと歪めた。





やだ・・・・・・・この感覚・・・・・・・・何・・・・・・・





きゅんと腹の中心を掬われるように身体中が熱く感じられ、と同時にドキドキと高鳴り出す心臓の音が

はっきりと耳に届く程で、それらは無情にも急速に高まりを見せる。

激しく脈打ち血が逆流する程に、ともすれば意識を持っていかれそうな程それは残酷で、

そしてこの上なく淫らな性の欲望が全身に纏わり付いていた。



「っあ・・・・・・・・あっ・・・・・・・・・嫌・・・・・・白夜・・・・・・いや・・・・・・」



急激に押し寄せる性の欲望の波は巨大過ぎる程で、その大きさにも自身の身体の反応にさえ

戸惑い ついていけない程だった。





だめ・・・・・・・・・・・・怖いっ・・・・・・・・・・・・・・・





「や・・・だ・・・・・嫌・・・・・・・・・は、放して白夜・・・・・・・・・」





あ・・・っ・・・・・・・・・・・・・・・





「お・・・願い・・・・・・・・・やめ・・・・・て・・・・」





やめてくれっ・・・・頼むから・・・・・・このままだと・・・・・・

どうにかなってしまいそうっ・・・・・・・





「放して・・・・・・・・・・・あっ・・・・・・あっ・・・ああーっ・・・・・白夜っ・・・・・・!」

「放したくないっ、、、、、俺はっ、、、、、今でもあなたが、、、、、、、

それに、、、、あなただってこんなに素直に反応じてる、、、、やっぱり、、、、諦めるなんて、、、、

出来ないっ、、、、、」

「嫌ぁー・・・・・・っ・・・・やめて・・・・・・・やめて白夜っ・・・・・・・」





ああっ・・・・・本当にっ・・・・・・ヘンになってしまう・・・・・・・

誰か・・・・・・助けて・・・・・・誰か・・・・紫・・・月・・・・・・・・・・・!





「助けてっ・・・・助けて紫っ・・・・・・・・」

無意識に飛び出したそのひと言に、とろけ出していたやさしい瞳に剣が差し、白夜は切れ長の瞳を硬直させた。