CRIMSON Vol.42
独りになって自室へ戻ると重苦しかった心が急激に楽になるようで、だがそれは又違った意味で

紅月の心を苦しめた。



紫月と離れていることがこんなにも楽に感じられるなんて・・・・・・

僕は一体どうしてしまったんだろう・・・・・・?

あんなに求めて止まなかった愛する弟とこれ以上ない程の幸せなときを共にしているというのに・・・・・



ふと思い起こしてみればそれらの苦しい感情は性の欲望を感じられなくなったことに原因があるのだと

いうことに気付き、更なる不安に煽られるように美しい頬は次第に蒼白く翳っていった。



そうだ・・・・・・紫月に愛されていてもどうして反応じられないんだろう・・・・・・?

以前はこんなことなかったのに・・・・・・



とはいっても紫月と愛し合った日々はもう随分前のことなので、その若かりし頃にどうであったかなど

そんなに鮮明に覚えているはずもなかったが、それでも紅月はこの短い独りの時間に

何とかその原因を探ろうと必死になっていた。



紫月が帰って来る前に何とかしなきゃ・・・・・・・・

今晩・・・・又一緒に眠りにつく前に・・・・・・・・

どうして・・・・・・どうしてなんだ?

どうして僕は反応じられない・・・・・・・・・!



焦る思いに、

苛立つ気持ちに、

その不安な暗雲を取り払うかのようにもがいて・・・・・

気が付けば紅月の指先は無意識に自身の性器へと伸ばされていた。







衣服をゆるめ、下着の中に冷んやりとした指先を忍び込ませて、辿り着いた感覚に瞬間びくりと

肩を竦めた。





・・・・・・・はっ・・・・・・・・・・・!





差し込む午後の陽に透ける褐色の瞳をくしゃりと歪ませて、瞬時におとずれたその感覚に

心臓の一部がもぎとられるような気配を覚えた。

ぎゅっと指先で握り込み、ゆっくりと上下させてみる。

怖る怖る先端の割れ目に親指を這わせれば、ぬるりと漏れている僅かな蜜液の感覚に言いようのない

気持ちが込み上げた。

それは複雑な感覚・・・・・・

不感症になってしまったのではないかという不安が一気に払拭された安堵のような気持ちが

ほうっと胸を撫で下ろしたのも束の間、それでは何故紫月と愛し合うときにだけ反応じられないのだろう

という不安な気持ちが一度に押し寄せてしばらくは何をも考えられなくなってしまった。

だが身体の方はしばらくぶりだった悦びの感覚にまるで潤った泉のようで、無情な程に大きくなって来る

性の欲望に握り込まれた指先は次第に激しさを増していった。





あ・・・・・・っ・・・・・・・・はぁ・・・・・・っ・・・・・・気持ち・・・いい・・・・・・





んっ・・・・・・・・んっ・・・・・・・・・





じれったい思いに下着をくいと引き摺り下ろし、ソファーに深く身を沈めながらしばらくは我を忘れたように

溢れ出す欲望に身を投じていた。

親指で性器の先端をくるりと撫でながら激しく手元を上下させて・・・・・・

だが次の瞬間、、、、、、

到達を迎えたくて無意識に開いた瞳の先に衝撃を映し出し、欲望に塗れていた褐色の瞳が

瞬時に凍りついてしまった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!





そこには何かの書類のようなものを抱えた秘書の白夜が佇んでいて、見慣れた切れ長の瞳は

驚きで大きく見開かれ、彼も又衝撃のその光景に瞬時にその場に硬直してしまったといった様子だった。





「びゃ・・・・白夜っ・・・・・・・・・」





恥ずかしさで頬は真っ赤に腫れ上がり、激しく動かしていた指先もそのままに停止し、身動ぎひとつ

出来ないでいた。

もうすぐ到達を迎えるはずだった性器は天をめざしてそそり立ち、その様はこれ以上ないくらいの

恥辱の姿に他ならずに・・・・・

それは白夜に犯し尽くされたつい先日までの出来事よりも何倍もの恥ずかしさとなって紅月を包み込み、

言い訳さえもとっさには出て来なかった。

部屋の扉は白夜が入って来たときのまま開かれっ放しになっており、彼の片手はまだドアノブに

掛けられたまましばらくはときが止まったように2人はその場を動けずにいた。



だがはっと我に返った白夜が慌てて扉を閉める音で紅月も又びくりと意識を取り戻した。







「びゃ、白夜・・・・・・あの・・・・・・・・」

当然言葉など出て来る筈もなく。

真っ赤に頬を染めて俯いている紅月に白夜はふいと瞳を顰めると、それでもわざと落ち着いた振りで

紅月に歩み寄った。



「明日からのご予定をお持ちしました、、、、、、、ここに・・・・置いて行きますから、、、、、

紫月さまにもお渡ししてください、、、、、、」

そう言ってくるりと背を背けると扉に向かって一歩を踏み出そうとした。

そのとき・・・・・・





「うっ・・・・・・・・・・」





潰れるような呻き声にはっと振り返れば紅月が肩を震わせて俯いていた。

ガタガタと打ち震えるように頭を垂れて、その姿からは恥辱の思いに苦しんでいる様子が痛い程に

伝わって来て。



「紅月さま、、、、、っ!」



こらえ切れずに側へ寄り、白夜は紅月の元へ屈むように膝を付いた。

無意識に手を伸ばし触れた紅月の腕は一瞬びくりと竦んだが、酷い震えを伴っていて、下から覗き込んだ

頬には真っ赤に熟れながらも涙でびっしょりに濡れていた。



「紅月さま、、、、、」

「・・・っ・・・・・・・・見・・・ないで・・・・・・・こ・・んなの・・・・・・見ないで・・・・・」

震えながら僅かに開かれた唇からやっとの思いで言葉が漏れ出して・・・・・

「紅月さまっ、、、、、、」

白夜は掴んでいた紅月の腕をぐいと開くと強引に回り込むようにして濡れている彼の瞳を覗き込んだ。





「どうして、、、、、、?

どうしてですか、、、、、こんなことなさって、、、、、、、

あなたには、、、、紫月さんが帰って来たというのに、、、、、、、、」





「・・・・・・・・・・・・・・」





「どうして独りでこんなこと、、、、、、しかも紫月さんがお出掛けのこんなときに、、、、、

まるで彼の目を盗むようにして、、、、、、こんな、、、ことを、、、、、」





「・・・・・・・・や・・・めて・・・・・・もう・・・・・・・・・・白夜・・・・・・」





「紅月さま、、、、」