CRIMSON Vol.39
自分から腰を振って、、、、、求めてたんだ、、、、、





「逆らえないどころか自分で求めて、、、、もっともっと酷いことして欲しくって、、、、

何度でもイキたくなって、、、、、

気持ちよくて、、、、、

なのにっ、、、、

なのに僕はお前を諦め切れないでいる、、、、そんなことをしたのに僕は、、、、

此処に帰って来れば、、、、

お前を連想させるいろんなものが溢れているこの屋敷に帰って来ればっ、、、、

もうお前が欲しくてたまらなくなって、、、、

この部屋もっ、、、地下の図書室もっ、、、、、みんなみんなお前を思い起こさせる、、、、

身体が満足しても心は空っぽなんだってことに気が付いてしまう、、、、

結局僕はお前を求めることをやめられないで苦しむんだ、、、、、

又、、、苦しい毎日が始まると思ったら、、、、、」

「紅・・・・・・・・?

お前・・・何処かへ行ってたのか?此処へ帰って来たらって・・・・・

じゃあ・・・・出掛けている間中ずっとその男と一緒にいたってわけか?

2人だけで暮らしてたとでもいうのか・・・・・・?」

まるで状況がつかめずに不安そうに、探るようにそう訊いた紫月に、紅月は弱々しく首を振ると

ほうっと深く溜息をついては涙を零した。







「ニューヨークへ行ってた、、、、、」

「ニューヨーク?」

「覚えてないか?まだ小さい頃、、、、お前と行ったあの公園、、、、、

父さんたちに連れられて初めて行ったニューヨークの街で、、、、

お前と、、、、

初めてキスをしたあの公園が見たくって、、、、、

あそこに行けば何かが見つかるような気がして、、、、僕は、、、

白夜を連れて行ったんだ、、、、」

「白夜っ!?

白夜って・・・・・・誰だよ・・・・・?」

「僕の、、、、秘書、、、、、」

「秘書?」

「そう、、、、3年前に僕が父さんの後を継いだとき専属の護衛を兼ねて秘書になった僕の、、、、、」











そう聞いて紫月は不安そうに繭を顰めた。

「そいつとずっとニューヨークにいたってわけか・・・・・?ずっと2人で?

その間・・・・・ずっとそいつに・・・・・・・」

逸るように、問い詰めるようにそこまで言い掛けて。

その先の言葉を、紫月はどうしても言えずにためらってしまった。

紅月が自分の知らない男と2人だけでニューヨークへ行って、しかも少しの間一緒に暮らしていただなんて。

そして恐らくは何度も何度も重ねられたであろう愛欲のときは想像するにたやすくて・・・・

2人だけで一体どんなときを過ごしていたのだろう?

こんなふうに身体中を傷だらけにする程激しく、その白夜という男に抱かれ続けていたというのだろうか?

見たこともない男と紅月が・・・・・・

そんなことを想像しただけで悪寒が走った。

苛々と癪に障ったように自制がきかなくなりそうな感情に駆られて・・・・・



「お前・・・・そいつが好きなわけ・・・・!?」

「え、、、、、?」

「だってそうだろっ?2人だけで・・・・・暮らしてたって・・・・・仕事も放っぽって?

ニューヨークなんかでっ・・・・・親父の目も届かないような所に行って?

毎日っ・・・・・・そいつに抱かれてたっていうのかよっ!?

なあ・・・・紅っ!どうなんだよっ!?」

紫月はカッとなり、紅月の破れたままのシャツの襟元を掴み上げると感情を持て余すようにそう怒鳴った。

額を僅かに紅に染めて、その様子からは相当な怒りの感情が読み取れるようで・・・・

「紫、、、、月、、、、?」

紅月は驚いて、だが自分と白夜のことを聞いて紫月がそんなに怒るなどとは微塵にも

思っていなかったので、不思議そうに瞳を見開いたまま呆然となってしまっていた。



何を紫月は怒っているのだろう?



だが紫月の方もそんな自身の感情に戸惑い困惑しているようで、しばらくの沈黙の後に

辛そうに繭を顰めると、掴んでいた襟元から静かに手を放した。





「何を・・・・俺は苛々しているんだ・・・・・・・・

自分だって・・・・・・

俺だって・・・・・・卑怯この上ない人間のくせしてっ・・・・・・・・

畜生っ・・・・・・・・!」

紫月は乱されたベッドのシーツを掴み上げると苛々とした感情で当り散らすように手にしたそれを

投げつけた。

一体何をそんなに苛立つ必要があるというのだろう?

自分は紅月の気持ちを知っていながらそれを受け入れずに帝斗に想いを寄せていたのだ。

自分が避けて冷たくしてきた紅月が誰と何をしようが関係のないことなのに・・・・・

それどころかむしろ誰かとどうかなってくれた方が都合がいいはずなのに・・・・・

ではこの苛々とした感情は何なのだろう?

紅月が自分の知らない誰かに傷付けられる程酷い抱かれ方をしたから?

そんな乱暴さが許せないから?

ではその男がやさしく抱いたなら喜ばしいことだというわけか?



そうではない・・・・・・



これはきっと嫉妬なのだと、既に気付いている・・・・・

先程からの身の捩れるような嫌悪感が、自分の知らない誰かに抱かれて悦んでいただろう

紅月に対する怒りの気持ちと・・・・

自分の知らないところで紅月を抱いた見も知らぬ男に対する嫉妬心に他ならなくて。

そして紫月はそれらの感情の内に、つい先日に紅月と溺れ合った自身の欲望を思い起こすと、

迫り来る脅迫にも似た感情に心臓がもぎ取られそうになるのを感じていた。

若き日に求め合い、溺れ合い、そして穢し合って。

すべて自分たちが望んでしてきたことだ。誰に強要されたわけではない。

自分たちが、、、、いや、どちらかといえば自分が望んで何度紅月の肌を求めたのだろうと思い返すと

紫月は自身に対する嫌悪感で身を引き裂かれそうだった。



溺れ過ぎて怖くなった、、、、

紅月を側に感じると何時どんな場所ででも瞬時に湧き上がってしまう自らの欲望が恐ろしかった、、、、

彼を瞳に映せば何を差し置いても触れ合いたくなる、、、、

触れ合い、重ね合い、奪い合ってしまいたくなる、、、、

肌と肌を重ね合わせたまま他には何もしたくなくなる、、、、

誰かと話すことさえ、うっとうしくて、、、、

2人だけの世界へ行ってしまいたくなる、、、

誰の邪魔も入らない場所へ行ってしまいたくなるのが恐ろしかった。





紫月は耐え切れずに紅月にしがみ付くと声を上げて泣き出してしまった。



「紫、、、、月?どうした、、、、の?」

「紅っ・・・・・・ごめんな・・・紅っ・・・・・・・」

「なっ、、、、にを、、、、、?」

突然に自分に縋るように泣き崩れてしまった紫月の様子に驚いて、それはまるで先程までの状況とは

逆転してしまったような現実に、紅月は戸惑いの中にいた。





「紫月?どうした、、、、、?」

「紅っ・・・・聞いて・・・・・・

俺、この前此処でお前と寝たとき・・・・・あの後お前のこと想像して事務所(プロダクションの専務室)で

ひとりで抜いたんだ・・・・・・・

ひとりで・・・・・・マスターベーション・・・・・した・・・・・・・

お前とセックスしたくってどうしようもなくなって・・・・・

昔からそうなんだ・・・・・俺はお前を見るとヤリたくなって自分が抑えられなくなって・・・・・

家を出たのだって・・・・・そんな自分が怖くなったからなのにっ・・・・・

帝斗には・・・・お前のせいみたいに嘘をついたんだ・・・・・

お前が俺のことしつこく追い回すからそれが嫌になって、なんて言い訳した・・・・・」

「紫、、、、月、、、、?」

「お前が初めて俺の事務所に来たときさ・・・・地下室でお前と寝たのを帝斗に何て言い訳しようとか

思って・・・・とっさに嘘言っちまったんだ・・・・・

俺たちが人に言えないような関係になったのはみんなお前のせいみたいに言って・・・・

本当はっ・・・・

俺がお前とヤリたくて仕方ねえだけなのにっ・・・・・

俺はお前を見るといつでもどこでも自制がきかなくなるんだよ・・・・他のことすべて面倒くさくなって

お前とヤることしか考えられなくなって・・・・・

そんな自分が嫌で家を出たのに・・・・・

このまえだって・・・・・

お前が帝斗を傷付けたんじゃねえかって、だったら抗議してやらなきゃとか都合のいい理由を作って・・・・

・・・・本当はお前に会いたかっただけなんだ・・・・・

きっと・・・・そうだ・・・・・

実際に傷付いて入院までした帝斗のことを放っておいてお前に抗議しに来るなんてよ?

本当はお前に会う為の都合のいい理由が欲しかっただけなのに真っ当な振りして綺麗事言って・・・・・・

汚い・・・・俺はっ・・・・・」

「え、、、、、、、?」

「その白夜って奴に抱かれて現実を忘れたかったお前と、俺は・・・・・・一緒だ・・・・

結局は他人を巻き込んで、だけど本当はお互いを求め合ってるんだ・・・・

近親相姦なんて悪いことだって解ってるのにやめられないから・・・・・

そんなことを他の誰かのせいにしちまいたくて嘘ばっかりついてしまう・・・・

本当に欲しいものに手を伸ばすのが怖いから・・・・・」



そして紫月は紅月を食い入るように見詰めると、何かを覚悟するかのように言った。



「俺たちは・・・・・・こういう運命なんだ・・・・・紅・・・・・

互いに求め合うのをやめられない、離れることは許されない・・・・・

生まれる前からずっと一緒で・・・・

だから・・・・・・」





もう誰にも迷惑をかけない為にも俺たちは・・・・一緒にいるべきなのかも・・・・・





紫月は紅月の手を取って、じっと見つめ合った瞳は未だ食い入るように動かずに。

紅月にとっては永い間望んでいたことなのにあまりに望み通りになりそうな現実が信じられなかった。

紫月が自分を想っていたなんて。

避けられているとばかり思っていたのに・・・・・

本当に?

本来喜ぶべき現実を目の前にして、だが素直にそれを受け入れられないのも現実で。

素直に信じて喜べない何かがあるような気がして・・・・

だが紫月は自分の手を取ったまま、自分のことを見つめたまま動かない。

それどころか、ともすれば次の瞬間にもその腕の中に抱き竦められそうな雰囲気が信じられずに

硬直していた。

が、次の瞬間。

そんな予感通りに自分を引き寄せてはその胸の中に抱き締められて、

突然の出来事に驚き戸惑う紅月の瞳は、迫り来る嵐の前兆を恐れるかのように不安げに揺れていた。