CRIMSON Vol.38
燦々と朝陽が降り注ぐ真冬の道路に、バックミラー越しに小さくなってゆく帝斗の姿を複雑な心境で

見詰めながら紫月は隣りの席でくったりと背を預けている紅月のことも気に掛かっていた。



「大丈夫か紅?そんなに道も混んでねえし、すぐに着くからな・・・・」

やさしく気使うように声を掛け、だが幸せなはずの紅月の表情もすっきりとは晴れてはいなかった。

心配そうに、気弱そうに、上目使いでぽつりと呟くその声にも張りはなく・・・・

「紫月、、、、ごめんね、、、、

本当によかったのかな、、、、俺、、、粟津くんに悪いことして、、、、」

今にも泣きそうに瞳を曇らせながらそんなことを言った紅月に紫月も又力なくではあったが、それでも

微笑みを交えて返事をするのだった。

「いいんだ・・・・もうそのことは言うなよ・・・・・それより・・・

お前の身体のことを一番に考えなきゃな。帝斗も心配してくれてたし。」

「うん、、、、、、、ごめん、、、、」

それから先は会話も何となく途絶えて、2人が一之宮の屋敷へ到着したのはしばらくの後のことだった。















紫月が帰ったというので父親をはじめ、執事の若林や古くからの面々はまるで祭りごとのような

賑やかさを讃えていて晩には皆が揃って食卓を囲む準備までもが着々と進められているようだった。

紫月は紅月の身体の傷を皆に知られないように気使いながら、人目をかわして彼の自室へと辿り着くと

懐かしさとも何とも言いようのない気持ちに胸が締め付けられるのを感じていた。

ほんの少し前に久し振りに帰ったその部屋で、不本意にも流されるように溺れ陥った紅月との

蜜月のときが思い起こされる。その度に帝斗の顔が浮かんでは心臓を掴まれるような思いに駆られた。

だが部屋の中央へと進み、ひとまず紅月をソファーに落ち着けようとして瞳に飛び込んで来た光景に

身も凍る程の衝撃を受けて絶句してしまった。

そこには乱れたベッドに紅月の身体中の傷を示唆する痕跡がありありと残されていて・・・・・

紫月はその光景に硬直したように動けなくなり、だがしばらくの後震える声と共に込み上げた

どうしようもない気持ちに翻弄されそうになってしまったのだった。







「紅・・・・・・?

お前・・・・・・まさかここで・・・・・・?

ここで何か・・・・・されたのか・・・・・・・?じゃあ・・・・お前をそんなふうにしたのはっ・・・・

この家の連中ってわけかっ!!?」

側に寄れば寄る程にその凄まじさを見せ付けられるようで耐え切れない感情が喉を焦がすような

感覚に掻き雑ぜられる。

乱れたシーツのところどころに滲み付いた液体の乾いたような痕と、それらに血痕のような薄い痕が混じり

飛び散っていて、信じ難いような事実にすべてのことを瞬時に忘れ去ってしまう程の衝撃に駆られた。

もはや帝斗のことも思い浮かばずといった感じで。

そんな紫月の様子に未だに虚ろだった紅月の瞳がカッと見開かれ、、、、、

慌ててそれらを隠すようにベッド脇へと駆け寄った。

「見ないでっ、、、、、、」





「見ないで紫月、、、、、お願いだ、、、、、、」

まるで恐怖に震えるように必死に隠そうとしている紅月の姿が哀れで儚くてどうしようもなくなる・・・・

紫月はシーツを抱えるようにしゃがみ込んでしまった紅月の背中を抱き締めるように

後ろからそっと包み込んだ。

「どうして紅?

何されたんだお前・・・・・誰に・・・・っ・・・・何をっ・・・・・・・???」

そう問う声は怒りに震え、心なしか涙にくぐもっているようで、、、、

既に大きな瞳に涙をいっぱいに溜めた紅月はぽつりぽつりとその事実を告げようとしていた。







「僕が悪いんだ、、、、誰のせいでもない、、、、僕が、、、、

自分で望んだことなんだから、、、、」

「え・・・・・・?」



自分で望んだこと−−−−−?



紫月は紅月の言っている言葉の意味が解らずに不可思議に彼の顔を覗き込んだ。







「紫月、、、僕は、、、、、、、

お前以外の人と、、、、、」



「紅・・・・・?どういう意味だ・・・・・・?」



「僕はお前を諦め切れなくて、、、、寂しくて寂しくて、、、、どうしようもなくて、、、、

だから、、、、悪いのは僕なんだ、、、、僕が彼に縋ったりしたから、、、、」



「縋った・・・・?

彼って・・・・・?彼って何だよっ・・・・・?紅・・・・ちゃんと解るように説明しろよっ・・・」







互いに瓜二つの瞳を探るようにぶつけ合い、食い入るように見詰め合って。

しばらくはそのままときがとまってしまったかのようだった。

未知の真実への疑惑と、既存の事実への恐怖に震える2つの瞳が重なり合って・・・・・





「寂しかったんだ、、、、、お前がいないことに我慢が出来なくて、、、、

お前が粟津くんと仲良くしている姿が痛くって、、、、耐え切れなくて、、、、、、だって、、、

僕はもう散々耐えて来たんだ、、、これ以上、、、、辛い思いをするのは嫌だった、、、、

ひとり取り残されるのが怖かった、、、、お前が僕を忘れて粟津くんのところへ行ってしまうのを

見るくらいなら、、、、、っ、、、、」





思いの丈を絞り出すかのようにそう叫び、恐怖を差し出すように紅月は覚悟の言葉を口にした。





「僕は自分からお前を離れてしまったんだ、、、、、

寂しくて、怖くて、、、、側に居た人に縋ってしまった、、、、、、っ

そんなことになるなんて考えもしなかったけど、、、、彼に抱かれて、、、、、しまったんだ、、、、、」

「紅・・・・・・・?」

「彼は僕を抱いて、、、、壊すくらいに激しくて、、、、

このまま死んでしまうかもって思ったくらいで、、、、、」





だけど・・・・・・





「そんなことをされながら僕はすべてを彼のせいにしようとしたんだ、、、、、

無理矢理犯されて酷いことされて、だからもう紫月を想い続ける資格も無いからって、、、

紫月と一緒にいられないのは僕がこの男に穢されてしまったからだって思いたくて、、、

僕は可哀そうな人間なんだって、、、、、

だから許されるだろうって、、、、このまま目の前の欲望に溺れてしまってもそれは僕のせいなんかじゃない、、、

悪いのはみんな目の前の男のせいなんだからって、、、



そうして僕は溺れて、、、、気がつきたときには自分から、、、、、

自分から、、、、、腰を振ってた、、、、、、」