CRIMSON Vol.36 |
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朝のやわらかい光が包み込む紫月の専務室で、大きなソファーに浅く身体を浮かせながら腰掛けて、
紅月はただ黙って下を向いていた。儚げな肩先を支えるように紫月が側に座り、帝斗が温かい飲み物を
勧めても何かを話せるような状態ではなくて。
僅かに肩を震わせながらそっと頬を紫月に預けて俯いているだけであった。
そんな様子に帝斗と紫月もろくに言葉にならずにお互いを見合わせては、戸惑いで表情は浮かなかった。
「ね、紫月さん。ちょっと着替えを持って来ますから。パウダールームを使って着替えをさせてあげた方が
いい、、、、そのままじゃよくない、、、
ちょっと待ってて下さいね?」
そんなふうに気を利かせて帝斗が部屋を出て行ったが、2人きりになっても紅月の様子に
特に変化はなく、ぼうっとしたまま紫月に寄り掛かっている。
「な・・・紅?こっち来いよ。シャワーでも浴びて着替えをしよう?」
声を掛けても瞳が僅かに動くくらいで反応は無く、その様はまるで放心状態といったようだった。
そんな彼を抱えるようにしてパウダールームに連れて行き、引き裂かれたようなシャツを目の当たりにすると、
さすがに紫月は怒りの気持ちが込み上げずにはいられなかった。
「誰が・・・・・・?
いったい・・・誰にこんなことされた?
紅っ・・・・・・・何があったのか・・・・・・言えよっ・・・・・」
シャツを掴んだ手が怒りに震え、思い切ったようにそれらを取り払えば、露になった肌の様子に紫月は
再び絶句させられてしまった。
色白の肌のところどころに紅く飛び散った痕が無数に広がっている。
首筋、鎖骨、肩先、更には背中から腰元にまで付けられたその痕が何を表しているのかなど想像するに
たやすくて、その様子に驚き呆然となっていたが、しばらくすると言い知れぬ怒りが込み上げてきて、
我慢が出来ずに紫月は目の前の傷付いた身体を引き寄せた。
「誰がっ・・・・・こんなことしやがった・・・・・・っ
紅っ・・・・・・黙ってねえでっ・・・・・
絶対に許さねえー・・・・・・・」
え、、、、、、、?
自分を抱き締めながら、その腕を震わせながら、噛み締めるように囁かれた言葉に紅月の意識が
ひくりと反応して・・・・・
「畜生っ・・・・・紅っ・・・・・・・俺はっ・・・・・・・
どうしたらいいんだよっ・・・・・こんなっ・・・・・・お前こんな目に遭わせてっ・・・・・・」
「紫、、、、月、、、、、?」
「紅っ!?解るのかっ!?俺がっ・・・・・解るんだなっ・・・・・・?」
「紫、、月、、、、、、俺、、、、、どうして、、、、」
「紅っ・・・・・!」
紫月はぎゅっと紅月を抱き締めなおすとしばらくはそのまま縋りつくようにその胸元に頬を埋めて
震えていた。
そんな様子に紅月の瞳からは無意識に涙が零れて落ちた。
「僕のせいだ、、、、、」
「へ・・・・・?」
「僕が、、、、いけないんだ、、、、、、」
「何で!?お前こんな酷え目に遭って・・・・・何言ってんだよっ・・・・・・
何でこんなことになった?誰がっ・・・・・・」
「僕が、、、、何も考えなかったから、、、、
僕がお前を好きになったりしたから、、、、、、だ、、から、、、、、」
「何言ってんだよ・・・・?ワケ解んねーこと言ってんじゃねえよ・・・・
俺、許さねえからっ・・・・お前をこんな目に遭わせた奴っ・・・・・・
誰なんだ紅っ?言えよっ・・・・・ちゃんと・・・・・俺に言えよっ・・・・・!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
きつくきつく抱き締めて、思いの丈を搾り出すようにそう言って、
なのに紅月はただ黙ったまま涙を流しているだけで、その視点は定まってはいなかった。
ぼうっと立ち尽くし、まるで感情のない人形のようで。
「紅・・・・・・?」
「悪いのは、、、僕だ、、、、、
お前のことも、、、、粟津くんのことも、、、、それに、、、、
お前の大事にしてたFairyの子(倫周)のことだって、、、、みんな僕がっ、、、、
だから、、、、いいんだ、、、
これは罰なんだよ、、、、、散々に悪いことしてきた僕への罰、、、、」
「紅・・・・?
何言ってんだ、紅・・・・お前・・・・しっかりしろよっ・・・」
「でも紫月、、、だめなんだ、、、、」
「何・・・・・?」
「だめなんだよ、、、、っ、、、、
自分が悪いことしてっ、、、散々他人を酷い目に遭わせてきたのにっ、、、、
悪いのは僕だって解っててもっ、、、、だめなんだ、、、僕はっ、、、
お前を忘れられない、、、、お前がいなきゃ僕はっ、、、、」
「紅・・・・・・」
視点の合わないまま泣き崩れ、床に座り込んでしまった傷付いた身体の側で、どうすることも出来なくて。
紫月も又呆然とそこに立ち尽くし、差し伸べようとした手も途中で空に浮いたまま、時がとまったように
しばらくは身動きさえ出来ないでいた。
そんな様子を扉の陰から見詰めていた帝斗の心中も又複雑だった。着替えを手にしたまま、同じように
立ち尽くして・・・・
だが硬直しているその空間を砕くかのように打ち破ったのは、帝斗の意外なひとことだった。
「行って下さい紫月さん。紅月さんと一緒に・・・・・・」
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