CRIMSON Vol.33 |
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信じ難い言葉の後に長い指先が軽く肌を伝う感覚に紅月は気の遠くなる思いがしていた。
白夜が、
やさしくて忠実だったこの秘書がこれ程までに自分に執着していただなんて今までは微塵も気付かずにいた。
思い起こせばこの白夜のこと以外でも、紅月にとって興味のあったことは殆んど無く、仕事のことも
普段の生活のことも、すべては紫月を中心に、紫月のことのみを想って過ごして来たのだということが
ぼんやりと頭の中を掠めていた。
紫月以外のことはすべてがどうでもよくて最低限の必要なことは仕事のことくらいで、
その仕事でさえ軌道上のことだけを格別な思い入れもないままに淡々とうわべだけをこなして来た。
そんな自分をいつも側で支え、見守ってくれていた絶対的信頼のあった白夜が、まさか自分に
想いを寄せていたなどとは思いも寄らないまま、忠実で間違いのなかった彼に甘えて来たのだ。
知らないうちにどれ程この白夜を頼って来たのだろう・・・・
自分の我がままをぶつけられる都合のよい存在−−−−−
いつの頃からかこの白夜が紅月にとって安心して寄り掛かっていられる唯一のものとして
存在していたものだったのに。
では自分は甘え過ぎて来たのだろうか?
確かに、白夜になら何を言っても許されると思っていた。
多少の我がままも、感情の起伏もすべて思うがままにぶつけることができたのだから・・・・
そんな自分をいつのときでも受け止めて、支え続けて文句のひとつも言わずに従って来てくれたのは
自分を愛していたからだというのであろうか?
仕事だからではなく、秘書だからではなく、ただ単に自分に好意を抱いていたからだというのだろうか?
そして自分はそんなことに気付きもせずにどっぷりとそのやさしさに身を預けてきたというわけか。
紅月は遠くなる意識の中でぼんやりとそんなことを考えていた。
ここ2日間で奪いつくされた身体は最早痛みなどは感じられず、全身が痺れで覆いつくしているかのようだった。
何も感じられないという感覚、それはまさに痺れというに他ならず、痛いことも辛いことも格別には
感じられない。
だがしかし、愛撫を施されると瞬時に湧き上がってくる性の欲望だけは取り払われてくれることはなかった。
逆にほんの少しの肌の触れ合いからも電流が走るように欲望に全身を貫かれるようで・・・・
望まないのに反応してしまう自身の甘い感覚に溺れてみたいとさえ思う。
疲れているのもあった。
何も考えられないくらい疲れ切っているから、抵抗する気力も浮かばないから。
だから身を任せてしまったとて何の不思議もないんだから・・・・
僕は間違ってなんかいないのだから・・・・
悪いのは・・・・
目の前のこの男−−−−
我が物顔で自分を好きにしているこの白夜のせい・・・・・
すべては白夜のせいなのだから・・・・・
だから止め処ないこの欲望に溺れてしまっても・・・・いいのではないか・・・・
きゅっと顰められた眉にほんのりと紅潮した頬の色、
欲望に呑まれたいという感情を示唆するかのような首筋の動きと、枕に投げ出された黒髪が
目の前の獣を導き入れているようで・・・・
「そんなにいいのか、、、、?
本当に、、、、
あなたっていやらしいヒトだな。
綺麗な俺のディレクトール、、、、
そう、、、そうだよ、、、
何も考えずに溺れてしまえばいいんだ。
俺を感じて、もっと感じて、俺のすべてをあなたの中に刻み付けてっ、、、
そして、、、、
忘れるんだ、、、紫月を、、、
二度と思い出せないように、、、ありったけを持って愛してあげるからっ、、、
二度と紫月のことなんか考えるなっ、、、、!
もう二度とっ
思い出せないくらい愛してあげるよ、、、、紅月っ、、、、!」
「あっ・・・・・うっ・・・・んんっ・・・・・うっ・・・・・・」
「いいだろう、、、ほらー、、、、
言ってごらん紅月、、、気持ちいいって。
何処を触って欲しいかって。思ったままを言ってごらん、、、
あなたが言う通りに、望む通りに愛してあげるから、、、、
ほら、、、どこ?どこが気持ちいい?どこを触って欲しい?」
「んっ・・・・・・あぁっ・・・・・・白・・・夜っ・・・・・」
「どこ?、、、、?」
「あ・・・・・そ・・そこ・・・・そこ・・・・・
ああっ・・・・・・いや・・・・いや・・・なのに・・・・・・・っ・・」
どうしてっ・・・・・・?
嫌なのに、こんなことしたくなんかないのに・・・・
身体が・・・
言うことをきかない・・・っ・・・・・・・・・
「ああ・・・・・あ・・・っ・・・・白夜っ・・・・・・もう・・・・」
ほとばしる汗と熱い吐息と乱れた呼吸。
素肌に纏わり付いたシーツの感覚が、快楽を感じる度に揺れ動く自身の黒髪が、
すべてが欲望を煽りたてて。
ぎゅっと力の込められた脚先が、もうすぐそこまで来つつある至福の瞬間を探り求める。
逆らえない絶頂の瞬間に自らの意思で手を伸ばしている自分に気付いても、もう抗えず、気付けば
紅月は何度も訪れる自我解放への瞬間に呑み込まれたくて目の前の逞しい腕に手を伸ばしていた。
「ああっ・・・・・白夜っ・・・・イク・・・・・もう1回・・・・・・っ・・・・
またっ・・・・・・くる・・・・あぁっ・・・・・・・」
「いいよ、、、いけよ、、、、何度でも、、、、
思うままに、、、、
乱れろっ、、、、!」
乳白色の欲望が飛び散り、肌の上を滑る感覚を・・・・
何度も何度も望んで迎えた。
二度と戻れなくても、
目の前の獣に魂を売り渡してしまっても、
引き返すことなどもう許されない・・・・!
それでも・・・・
この感覚を追い求めることをやめられないんだ・・・っ・・・・・・・!
顰められた眉は今や苦しみを表すものではない。
自らが望んで、
愛する紫月を忘れてでも手に入れたいもの。快楽という残酷な存在に紅月は逆らうことが出来なかった。
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