CRIMSON Vol.32 |
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「や・・・・・やだ・・・・こ・・んな・・・・・・・・・・こんなこと・・・・・・」
そこから先はもう言葉にならずに。
あまりの衝撃で溢れ出ていた涙も涸れて、ときがとまってしまったかのように紅月は呆然と驚愕の瞳を
漂わせていた。
昨夜からの放心状態が再び全身を侵蝕していくようで。
何も出来ずに、何も話せずに、強引に何度も貫かれた身体は動かすことも出来ずに、
そんな紅月にとって最早哀しみの涙を流して楽になることさえも許されなかった。
ふいと身体が宙に浮くような感覚に、硬直した視線で探るように辺りを見回すと、白夜に抱えられて
バスルームに連れて来られていることが確認出来た。
今度は何をされるのだろう・・・・
当然の如く一糸纏わぬ状態で恐怖と不安に心が縮むような思いに駆られていた。
びくびくと動かす視線も怯え切って、だが未だに何一つ言葉に出来ない程に神経は追い詰められて。
けれども白夜はやはり無口なままで丁寧に紅月の身体を支えると、ゆっくりとその全身をやわらかな泡で
包み込んだ。
たっぷりのボディーソープが放つ心地よい香りがほんの一瞬張り詰めた神経を鎮めてくれるようで、
紅月は気の遠くなるような思いがしていた。
「ゆっくり、、、気を付けてこちらへ。歩けますか?」
穏やかにそんな言葉が耳元を掠めたような気がして、だが紅月は自分を支えているであろう白夜の
存在にも、問い掛けられる言葉にも何一つ意思を伝えることが不可能で。
そんな状態のまま湯船に入れられて、身体が温まった頃合いにはバスルームから上げられていて、
気が付けばリビングのソファーの上に座らされていた。
鼻をくすぐるいい匂いは白夜が作ったであろう食事のようで、手取り足取り少々の消化のよさそうな
食事を与えられて。
まるで病人の世話をするように白夜は甲斐甲斐しく世話を施して、だがそんな間も当の紅月は
されるがままの人形のようであった。
「さ、、、こちらへ。」
そう言って再び抱き上げられて連れて行かれた先は清潔に正された寝室のベッド・・・・
まるで夢遊病のような状態のまま寝かし付けられほんの一瞬の安堵感を感じた。
ああ・・・これでゆっくり休める・・・・・
先程から遠い記憶の中でされていた白夜の自分に対する行動は穏やかで険は無く、
本心から自身を気使うようにも感じられて、そんな様からはここ2日間の獣のような男の面影はどこにも
見られずに以前のままの忠実で誠実な部下の雰囲気そのものだった。
散々に奪いつくされて、だからもうこれ以上のことはあろうはずもなく、又は想像さえも出来なかった。
だから紅月はようやく訪れた解放の瞬間をほっとした心持ちで迎えていて、しばらくは何も考えずに
ゆっくりと眠ってしまいたいと願っていたのだった。
すべてのことは目覚めたら考えればいい・・・・
急激に豹変した白夜のことも、
想い焦がれた紫月のことも、
この2日間に起こった信じ難い出来事も、
何もかも目覚めてから考えよう・・・・
今は・・・・
ただ休みたい、それだけ・・・・・
ほうっと深い溜息と共に半ば安心して閉じかけた褐色の瞳の・・・・・
その安堵感が砕け散るまでにさして時間は掛からなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!???
やわらかな羽の寝具の中から突然に足首が掴まれた感覚に、紅月はぼうっとしていた神経が
一気に覚めるといったようにびくりと全身を硬直させた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!??
なっ・・・・何っ!?白・・・・・夜っ!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!
「やっ・・・やめろっ・・ーっ・・・・・・嫌だっ・・・・・白夜っー・・・・・っ・・・」
ぎゅっと痣になる程に強い力で掴まれた足首が、瞬時に紐のようなもので縛り上げられた感覚に
紅月はありったけの声を上げて抵抗しようとした。
だが白夜の力は強く、行動は素早く、拘束された足首は既にがっちりとバスローブの紐で
括られていて、その先端がベッド端の突起にきつく結わえ付けられてしまっていた。
両脚を大きく開かされた状態で起き上がることさえ儘ならずに・・・・
瞬時に守ろうとした上半身と両の腕でさえ気付いたときにはしっかりと捉えられ、蒼白な紅月の視界に
入って来たのは獣のような瞳で射るように自身を見詰めている白夜の姿だった。
「な・・・・にを・・・・・・・
白夜・・・・・・・・・・ど、どうするつもり・・・・・・・」
だが白夜は無言のまま。
ふいと這わされた指先に既にシャツのボタンを外されかけていることにびくりと肩を震わせた。
「やだっ・・白夜っ・・・・・」
「黙って!」
「なっ・・・・・・」
「静かにして下さい紅月さま。これから、、、、、
あなたを楽にして差し上げるのですから。」
「ら・・・く・・・・・・?」
「そう、、、、
あなたの中から苦しみの根源を追い出して差し上げるんだ、、、」
「く・・・苦しみの根源・・・・・・?」
「そうです、、、、
ずっとあなたを苦しめてきたもの。
紫月さんを、、、、
あなたの中から追い出してしまえばいい。そうすればあなたは楽になれる、、、、
紫月さんを想って苦しむこともなくなるんだ。」
「だっ・・・・・・なんだ・・・って・・・・・・」
白夜から飛び出した信じ難いような言葉に硬直している紅月の耳に、更に信じられないような
言葉が飛び込んできて・・・・・
「あなたの苦しみの根源、紫月さんを追い出してしまえばいい。
俺の愛撫で、、、あいつのことなんか押し流してしまえばっ、、、、
あなたはもう苦しむこともないんだっ、、、、
紫月を、、、、忘れさせてやる、、、、
紫月なんか忘れるくらい愛してあげるよ、、、、、っ
紅月、、、、、、、、、」
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