CRIMSON Vol.28 |
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紫月・・・・ここは・・・・何処?
お前は何処?何処にいるの・・・・・?
ねえ・・・お前の言う通り紅く染めたよ・・・・・
ほら、こんなに綺麗な滴が流れ出て、こんなにたくさん・・・・
だから・・・来て・・・・
早く来て紫月・・僕は・・・・・・ここだよ・・・・

遠くに光が差したような気がして。
自分を迎えに来てくれた紫月が見慣れた部屋の扉を開けたような気がして。
一瞬の温かく幸せな気持ちは大きな褐色の瞳を開いた瞬間に恐怖の色にとって代わった。
「ひぃっ・・・・・・!」
開かれた瞳の先に、射る程の強い視線で自身を見詰める部下の姿を映し出し、
「びゃっ・・・白夜っ・・・・・・」
嫌な記憶がフラッシュバックしたと同時に昨日からの事柄が次々と蘇ってきて、紅月は褐色の瞳を硬直させた。
「気がつきましたか?」
だが穏やかに発せられたその声は昨夜からの出来事がまるで夢であったかのように、
すっかりと元の忠実な部下に戻っているようにも感じられて、紅月は言い知れぬ感覚に陥ったのだった。
「此処は・・・・?僕は・・・どうして・・・・・」
きちんと正された清潔な感じのベッドに丁寧に寝かし付けられている感覚に、紅月は不思議そうな表情で
あたりをきょろきょろと見回した。
「此処は一之宮様のアパートメントです。何も心配はいりません。」
「うちの?・・・・・アパート・・・・
何で・・・・確か僕はパークアベニューにホテルを取っていたはず・・・・」
そう言い掛けて、一瞬蘇った嫌な記憶は現実のものだったのだと悟った瞬間に、
又しても身体を硬直させた。
「あなたのせいですよ。」
「え・・・・!?」
「追い出されたのです。今朝方にホテルの方は引き払って来ました。」
「追い出された・・・・って・・・・?なん・・で・・?」
「大騒動だったのですよ。あなたが、、、、自殺を図ったと勘違いされて、警察までが押し寄せて来て
大変だったんです。
何も、、、、覚えていらっしゃらないのですか?」
「・・・・・・・・・・・・・!??」
「ほら、、、これをご覧下さい。」
そう言って取り上げられた手首に目をやれば、ぐるぐると真っ白に巻かれた包帯が先刻の嫌な記憶を
裏付けるかのようにきつく何重にも巻き付けられていた。
「これっ・・・・・!?」
「そう、、、あなたがなさったのです。
ホテルのベッドは血だらけで、、、、あなたがその上に横たわっておられて。
側には果物ナイフが落ちていて、、、、賠償だの何だのという大騒ぎになりましてね。
仕方なく引き上げてきたのです。こちらには来たくなかったのでしょうが、、、、」
まだ腕を取ったまま、白夜は力無くそう言うとふいと視線を落とした。
「あんなことをなさって、、、どうするつもりだった、、、、?
あんな、、、自殺未遂のようなこと、、、、」
まだ射るような、だがとても切ない視線を向けられて、たまらずに紅月は寝返りを打つと
「白夜・・・・もう帰れ・・・・
先に日本に帰っていい。僕はもう少しこっちで用を足したいから・・・・・」
、、、、、、、、、、、、、、
そう言った。
だが返事はなく、仕方なく振り返ったと同時に又も腕を取り上げられて蒼白となった。
掴まれた力は強く、びくともしない程で、そんな感覚は不安な気持ちにより一層拍車をかけていくようで。
「帰っていいって言ったんだ・・先にっ・・・日本に・・・・」
「日本に帰って、、、?私一人で、、、先に?」
「そ、そう・・・・だからっ・・・・」
「だから?」
ひと言毎に発せられる声がだんだん低くなっていくようで、微妙な感覚が全身を強張らせる。
瞳は歪み、僅かに伴い出した震えを煽るかのように白夜は掴んでいた手首をつうーっと指先でなぞった。
「白夜っ・・・・!!?
やめろっ・・・・」
そう叫んだときにはもう全身を押さえ込まれるように覆い被さられていて・・・・
「ふざけるなっ・・・いい加減にしないとっ・・・・」
「、、、、クビですか?」
「なっ・・・・・」
「いいですよ。クビにして下さい。全然構わない、、、、、
それに、、、、
クビになったんならあなたはもう社長でも何でもない。あなたの言うことに従う必要も、、、ない、、、
俺の好きなようにしたって、、、いいってわけだ、、、、」
「なに言ってっ・・・・・白夜っよせっ・・・・・!」
やっ・・・・・
瞬時に唇を塞がれて、有無を言わさず首筋を噛まれて、生温かい舌先が鎖骨の溝に触れた瞬間に
紅月は気が違ったかのように泣き出してしまった。
「やめてっ・・・・・白夜っ・・・・・嫌っ・・・・嫌だっ・・・」
昨日からの信じられないような事態に既に神経は耐え切れず、紅月に残されたのは
目の前の獣のような男を押し退けることも出来ずに只子供のように泣きじゃくるだけであった。
「ふふ、、、、大の男が、それもいい大人がそんなに泣いて、、、、まるで子供だな。
そのくせ嫌だ嫌だと言うわりには身体は熱く反応させてる、、、、ほらここ、、、もう硬く尖らせて、、、、
いやらしいなヒトだな、、、、、」
「や・・・だ・・・・・・嫌・・・・・助けて・・・・助けて紫っ・・・・」
無意識に、縋るように飛び出したそのひと言に、白夜は はっとなったように切れ長の瞳を見開いた。
「彼ともしたのか、、、、こんなこと、、、、」
「・・・・え・・・・・・・・?」
「こんなふうに、、、、寝たのかって聞いたんだ、、、、、」
「なっ・・・何のことを・・・・」
「寝たんだろ?あいつと、、、、、紫月と、、、、っ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
「兄弟のくせにっ、、、、好きなんだろ?紫月のことが。此処に来たのだってあいつが原因なんだろ?」
「何言ってんだっ・・・・そんなことっ・・・・お前には関係ないっ・・・」
「関係ない、、、?突然にこんなトコまで連れて来られて?
なあ、、、、言えよ。何したのか、、さ?
紫月と、自分の弟と何してたのかさ?言ってみろよっ、、、、」
「なっ・・・・何急にっ・・・・・白夜っ・・・・」
紅月は身を捩ったが、瞬時に又仰向けに組み敷かれて、戸惑い見上げた先には切ない瞳が
まっすぐに見下ろしていて・・・・
「顔、、、赤いぜ、、、、
そんなに、、、あいつがいいんだ?
ちょっと名前を聞いただけでそんなに真っ赤になるくらいっ、、、、惚れてるんだ?
ふふ、、、、ヘンタイ、、、、
あんたたちのやってること、何ていうか教えてやろうか?」
「・・・・・・・・・・・・・?」
「近親相姦っていうんだよ。」
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