CRIMSON Vol.25 |
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どうして・・・っ・・
どうして紫月・・・・・
僕たちはこの間あんなに愛し合ったじゃないかっ・・・・
あんなに通じ合えたじゃないか・・・・
お前が楽しかった日々を思い出してくれて・・・・僕たちは昔に返れてわかり合えて・・っ・・・・・
やっと、やっと取り戻せたと思っていたのにっ・・・・
幸せそうだった・・・・・
粟津くんと話すお前の姿・・・・
あんな穏やかな顔をして・・・・・
僕と愛し合った瞬間なんか無かったことのように・・・・
本当に・・・・微笑んでた・・・・・・
心から・・・・微笑んでた・・・・・・・・
それは強制でも何でもない、心からの笑顔・・・・・
粟津くんはあんなことのあったお前を受け入れたというのか・・・・?
僕と散々に身体を重ね合って、愛し合ったお前のことを許したとでもいうのか?
きっと、もう終わりだと思っていた。
お前は僕と愛し合ってしまった罪悪感から二度と粟津くんと向き合えないものだと思っていた。
そしてどんな形にせよ、お前はじきに僕の腕の中へと戻ってくるものだと・・・・思っていたのに・・・・
そして恐らくは粟津くんの方も・・・・
二度とお前を受け入れられないものだと思っていたのに・・・・・・!
幸せそうだった・・・・
身体の奪い合いなんかじゃなく、魂が触れ合うような穏やかな
そこには信頼という厚い絆があるようで
それは深い・・・・・
欲望を奪い合うだけの浅はかなものとは全然別のもの・・・・・
僕とお前の間にはどこを探してもあんなものは存在し得ない・・・っ・・・・・
それは・・・・・・
愛という名の・・・・・
きっと・・・・
あれこそを愛というのだろう・・・・・
紫月・・・・っ
お前はやっぱり粟津くんを愛しているんだ・・・・
僕ではなく・・・
激しく求め合ったつい先日の交わりなど何の絆にもなり得はしない・・・っ・・
本物の愛という名の下には吹けば飛ぶようなちっぽけな存在で・・・・・
お前を手に入れたつもりでいた
戻って来ると信じてた
だけど・・っ・・・・・・
不安がなかったわけじゃない・・・んだ・・・・・
もしかして粟津くんはあんなことにも動揺のひとつも見せずに深い愛でお前を包み込んでしまうんじゃ
ないかって、心のどこかで思ってた
でもまさかそれが現実であったなど、どうして信じられようか?
あれ程の大きな愛情の前では僕などちっぱけな塵に過ぎない・・・・っ
彼はお前を愛し・・・・そしてお前も・・・・・・・
あのときウィンドー越しに見たお前の笑顔が、闇の中に差す一筋の光に照らされているように
感じられて
激しさこそ無いものの、けれどもそんなものではとって代われぬ程の大いなるものを感じさせて。
もう・・・・・届かない・・・・・・・
僕にはお前を取り戻すことは出来得ない・・・・・っ
声をあげて泣きながら悲痛の思いも止め処ない、といった腕の中の紅月が、とても小さく
儚く見えて、触れ合っているこの腕を離しでもしたらふいと消えて失くなってしまいそうで、
白夜は辛い感情に翻弄されそうになっていた。
「、、、、、、、、、、、」
無言のまま、僅かに震える腕で腰元にしがみ付いている儚い肩先を抱いてみる、ぱさりとうごめいた
黒い髪が肌に触れた感覚に白夜はしっかりとその肩を抱き締めた。
「うっ・・・・・・・え・・・・えっ・・・・・・・・・」
未だぎゅうとしがみ付いたまま子供のように泣きじゃくっている腕の中の身体をと引き上げると
涙で真っ赤に潤んだ褐色の瞳が自身を捉えた。
ふいと顔を寄せ、切なさでいっぱいの潤んだ瞳を見詰めた後、紅に染まった唇にくちづけて・・・・
「びゃ・・・・白夜・・っ・・・・・」
驚いて一瞬瞳を大きく見開いた紅月の熟れた頬を両の掌で包み込み再度唇を重ね合わせて。
白夜は無言のまま、そうして息も詰まる程の永いくちづけをした。
「白夜・・・・・僕は・・・っ」
苦しそうに、でも恥ずかしそうにふいと俯いた紅月の真っ黒な髪を愛しむように撫でて抱き締めて、
何も言葉にすることなどない、どうしたらこの人の哀しみを軽減させてあげられるのかも
わからない、けれども何もせずに放っておくことなど出来るわけもなくて。
自分に出来ることはこうしてこの人を抱き締めてやることだけ。
叶えられない想いの身代わりに、せめて今このときだけでもなってあげられたなら。
そんな思いで、強く強く抱き締めた。

どうすればあなたの哀しみを軽くしてあげられるのだろう・・・・・
私に出来ることは何ひとつ・・・・・無い・・・・・・・
ただこうして偽善者のようにあなたを抱き締めて、まるで人のよい男を演じてみせながら
心の奥底では心配などしていない自分がこの上なく醜く思えて・・・・
最高に心配している”いい人”を演じながらあなたを抱き締めて唇を奪うのは・・・・・
私があなたを欲しいから・・・・・
ただそれだけだから・・・・・・
本当は壊れてしまえばいいと思っている
紫月さんなどあなたの前からいなくなってしまえばいいと思っている
今、このときに・・・・・・
私は自分の、あなたに対する自分の想いに気付いてしまったから
もう・・・誰のもとへもいかせたくはないのだと
もう・・・誰かを想って焦がれて欲しくなどないのだと
ずっと、このまま・・・・
あなたを俺ひとりのものにしておけたなら・・・・・・
どんなにか

「白夜・・・・・?」
強く、きついくらいの抱擁に戸惑いながら見上げた先には真っ直ぐに自分を見詰める
切ない程の切れ長の瞳が揺らめいていた。
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