CRIMSON Vol.21 |
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紅く揺らめく炎の如く焦がれる程の熱情を持ち合わせ、秀麗に君臨するその姿は正に王の如し。
見目麗しく艶やかで、憂う瞳は陽が差すごとに褐色に透き通る。
彼の人の名は”紅月”
端整で切れのよい、誰からも尊敬される我がディレクトール。御使えする我が唯一の御方。
だがひとたび仕事を離れたならばその名の如く熱く激しい感情を、持て余すとでもいうように
紅蓮の引き裂かれるような音を木魂させ・・・
まるで我がままで、子供のようで、こうだと言い出したら聞かなくて
透き通るような頬を僅かに染めて俯くたびに真っ黒に揺れる髪が印象的な・・・・
その人の腕にはいつも紫色の腕輪が輝いていた。

「社長っ、、、、お待ちください、社長、、っ、、」
西洋風の豪華な屋敷の、広いエントランスに天窓から午後の日差しが緩やかに差し込むその時分、
大理石の床をけたたましく鳴らしながら慌てたようにひとりの男が駆け寄った。
「何だ、白夜じゃない・・・どうしたんだ?そんなに慌てて。」
「い、、いえ、、、すみませんっ、、、」
未だ息せきを切らしながら白夜と呼ばれた男は ぜぃぜぃとしながら紅月の前に歩み寄ると腰を屈めた。
「ど、、っ、、どちらへ?」
「え・・・・・?」
「どちらかへお出掛けなのではありませんか?でしたら私もお供をさせて頂こうと思いまして、、」
「ああ、いいの、いいの。今日は仕事じゃないから。
それにお前は今日は休みのはずだろ?会社だって休業日だし。ゆっくりしてていいんだよ?」
にっこりと微笑みながらそう言った紅月に、その前を立ちふさがろうとでもいうように
もう一度白夜は彼を引き留めた。
「待ってくださいっ、、でもお出掛けになるのでしたらせめて運転くらいさせて下さいっ、、、
外出を知っていて社長に運転させるわけには参りませんし、、、、それにっ、、、」
「それに・・・何?」
白夜のあまりの慌てように紅月は少々不思議そうな顔をすると
「どちらへいらっしゃるのか言っておいて頂かないと困ります、、、、っ
何時なんどき急な仕事依頼があるかも分かりませんし。秘書と致しましてはそれくらいは
把握しておく必要がございます!」
まるで通せんぼでもするように大真面目な顔で自分の前に立ちはだかる逞しい男を見て、
紅月はあっけに取られたように褐色の瞳を見開いていたが、しばらくしてふいと瞳を細めると
くすくすと声をあげて微笑い出した。
「なっ、、、何ですか、、?何か可笑しいでしょうか、、、、」
少々たじたじとした感じで恥ずかしそうに視線を外した目の前の男の頬にくいと腕を伸ばすと、
僅かながらに染まっていた頬をふいと撫でた。
「なっ、、、、!??」
一瞬びくりとしたように大きな肩を震わせると、掌が添えられている頬が瞬時に真っ赤に染まった。
「うれしいよ白夜。じゃあ付き合ってもらおうかな?」
「ほっ、、本当ですか!?」
「ああ、お願いするよ。お前の運転が一番安心出来るものね。でもね・・・・」
「は、、?」
「でも・・ちょっと待たせてしまうかも知れないよ?向こうで・・・・ちょっと長居になるかも知れないんだ。」
うれしそうにそう言いながら歩き出したと同時に真っ黒な髪がさらさらと揺らめいて。

髪を掻き揚げる腕にはいつもの紫色の腕輪が変わらずに。
弾むように微笑みながら歩く彼の人の、、、、
もう片方の腕には紫色の薔薇の花束が大切そうに抱えられていた。
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