CRIMSON Vol.18
「紫月、又おいで。お前が帰って来るのをたのしみに待ってるよ。忙しいだろうけど身体に気を付けるんだよ。

それから、、、会いたくなったときはプロダクションの方へ行ってもいいかい?」

激しく交わり合った翌朝の広大な中に足音が響き渡る駐車場で。

そっと頬を撫で軽くキスをしながらそんなことを言った紅月に見送られて紫月は車に乗ろうとしていた。

鍵を開け、ドアを開き・・・・

だが見送りに来た紅月の冷たい指先に頬を撫でられていた紫月の深い部分から無情な程の欲望が

顔を出し、それらは次第にめらめらと大きな炎となって全身を支配していったのである。





「じゃあ気を付けてお帰り。」

そう言われて頬を撫でていた指先がすっと放された瞬間に紫月はがっくりと紅月の胸元をめがけて

よろけてしまった。



「紫月、、、っ、、」

「・・・・・・・・」

紅月は自分の肩につかまりながら僅かに震えて俯いている紫月の顔を覗き込むと不思議な表情をした。

「どうした紫月?具合でも悪いのか、、、?」

少々心配そうにそう尋ねたが何の返事もないままに紫月は弱々しく首を振って見せるだけで。

無言のまま そうして首を振っては違うと言いたい様子だったが、しばらくすると震えは増し、つかまれていた

肩にも力が入ってくるのがわかった。

「どうしたんだ?紫月、、、、」

次の瞬間何かを振り払うかのように勢いよく掴んでいた肩を押し退けるとくるりと紅月に背を向けて

今度は車に寄り掛かってしまった。未だ震えは止まらずに・・・・

「紫月、、、?」

半ば本気で心配そうに覗き込んだ紅月の指先が再び頬を掠めて・・・・

湧き上がった欲望に、たまらずに紫月は紅月の胸元にすがり付いてしまった。

「紫月!?」

驚いたのは紅月の方である。今まで散々追い求めていたものが自らこうして自分の胸にしがみ付いて

きたのだから、あまりにも信じられなくて しばらくは言葉にならずにぼうっとその場に立ち尽くしてしまった。





「紅っ・・・・・」

搾り出すような声でひとこと名を呼んだ紫月の声が心なしか涙にくぐもっているように感じられた。

「紫月、、?どうした、、、」

薄暗い駐車場の、誰もいない空間で二人はしばらくじっとしていた。

「どうしてっ・・・・」

それだけ言って遂に紫月は泣き崩れてしまった。肩をならして泣きあげる、そんな弟の顔を持ち上げて

表情を見詰めると紅月はふいと唇を重ね合わせた。

その瞬間びくり、と紫月は肩をすくめて・・・

だが次の瞬間に自ら重ね合わせられたものを奪い取るように激しく紅月のくちづけを受け入れたのだった。



「紅っ・・・・紅っ・・・!」

「、、、、、、、、、!?」

紅月は紫月の激しさに非常に驚きながらも力強く腕を回して抱き締めて返した、、、

そして2人は車に寄り掛かりながら激しくお互いの唇を奪い合っていったのである。



とめられないっ・・・・どうして・・・こん・・な・・・っ

俺はこんなこと望んでんじゃないっ・・・だけどっ・・・・欲望が・・・・

身体の奥深くから湧き上がる欲望がっ・・・・・我慢できないっ・・・・・っ



昨夜、散々に弄ばれて身体がすべての記憶を取り戻してしまったかのように紫月の身体はその心とは

裏腹に紅月を求めてやまなかった。

「紫月っ、、、紫っ、、、、ああ、、、好きだよ紫月ぃ、、、、」

耳元で囁かれる熱い吐息は遥か昔と変わらない。お互いの性を求め合って穢し合った若き日と

何一つ変わることなく・・・・



「紅っ・・・我慢できねえ・・・・よ・・・・あ・・ぁ・・・」

漏れ出す吐息もとまらない。たとえ心が望まなくても身体という自分の内のもうひとつが目の前の

男を求めて留まらず・・・・





紅月が、、、紅月の愛撫が欲しくて欲しくてたまらないっ、、、、





紫月は身体というその本能の求めるままに紅月の性を求めることをやめられなかった。

たとえ心が涙を流していたとしても・・・・

「紅っ・・・欲しい・・・・欲し・・・・」

「紫月、、、?何が、、、、?何が欲しい?、、、、、、、、ん?」

紅月も又 荒い吐息と共に耳元でそう囁く。激しくくちづけあった2人の望むものは唯ひとつしかなかった。

「してえよ・・・お前と・・・・・・・紅・・・・・・っ・・・挿れ・・・・て・・・くれよ・・」

「紫月っ!」

せっかく着込んだプレスの効いたスーツもアイロンの掛かったワイシャツも高価なシルクのネクタイも、

すべてが既にぐずぐずに着崩れて、セットされた髪もぐちゃぐちゃに掻き乱されていった。



「あ・・あぁっ・・・・紅っ・・・こうっ・・・・」

「いい?紫月、、、、感じるかい、、、?どこ、、、?どこがいい?」

「う・・・んっ・・・・・んんっ・・・・」

気が付くと後ろから紅月に抱き竦められたまま紫月は自ら腰を使っていた。車のドアに両腕を突っ張って

髪が乱れるごとに、激しく揺れを増すごとに駐車場に漏れ出した声も激しさを増し・・・・・

「もっと・・・っ・・・紅っ・・・もっと・・・・もっ・・・・・・・と」

ああぁっ・・・・

背を仰け反らせ、至福のそのときはもう目前にまで迫り来ていた。















プロダクションの専務室にひとり机に腰掛けながら紫月はぼうっと暮れ行く街の風景を見下ろしていた。

何をするともなく視線は魂を抜かれたように定まらず、紅月との欲望の果てがつい昨日のことだったなどとは

考えもつかない程に遠く昔のことに思えたりもしていた。だが実際、紫月はそんなことを考えられる

精神状態ではなかったのである。

紅月によって引き摺り出された欲望に見事に流され抗えずに、あんな目に遭わされた帝斗のことを平気で

裏切ってしまった自分が信じられずに紫月はぼうっと心を持て余していた。

帝斗に会って、俺は何て言えばいいのだろう・・・・

紅月がお前を酷い目に遭わせたことを謝るよ、って言えばいいんだろうか・・・

それとも、その紅月と再び愛し合ってしまったことを告げるのだろうか・・・・

帝斗・・・・

お前はもう俺を見ない・・・きっと見ない・・・・

お前をあんな酷い目に遭わせた紅月と俺は寝てしまった・・・しかもあんなに激しく、わけもわからない程

溺れて・・・・

自分だけ快楽に塗れてしまった・・・

今だって・・・

今だってここに紅月がいれば俺はきっと逆らえないだろう、それどころかすぐにでも交わりたくて・・・・

仕方なくって・・・・



「はっ・・・・・っ・・・」



ゾクゾクと身体の奥深くから瞬時に沸きあがってきた欲望の感覚に紫月は両腕で自身の肩を抱き竦めた。

ああっ、、、紅っ、、紅っ、、、、、

だめだ、、、お前がっ、、欲しくて、、、欲しくて俺は、、、っ、、

「・・・っ・・・」

無意識に伸ばされた指先が自らの熱く存在を増したものに這わされて、気付くと紫月は自己解放への

道筋を、、、、マスターベーションという名の残酷な行為に翻弄されている自分を目の当たりにしてしまった。



溶け出した液体がぬるぬるとすべり、掌に絡み付く。

「うっ・・・・うっ・・・・ぁああっ・・・・」

声を上げて泣き崩れながらももう一度その瞬間を味わいたくて紫月はきゅっと瞳を閉じた。

「・・・・ぁっ・・・・あっ・・・・・はっ・・」

大きなソファーの影にもたれる背中にも力が入らない。夕闇に包まれた薄暗い部屋で、電気も点けずに

紫月は3度程、たて続けに自身の欲望を解放した。

如何に自分の部屋といえども誰かが入ってくるかもわからない専務室で、だが漏れ出す声も抑えきれずに。

熱い吐息と次第に激しさを増す自らの嬌声に紫月は抗うどころか益々その世界へ誘われてしまった。

「こう・・・・紅・・・紅っ・・・・・・」

来てくれよ、紅っ・・・・

そんで又いやらしいこと言って・・・耳元で・・・ここ、この耳元でお前の吐息を感じてえよ・・・・

あぁっ・・・紅っ・・・・・・

だめ・・だめだよ・・・・もう、我慢出来ねえ・・・・・お前の・・・・・・

お前のっ・・・・・



「うっ・・・ぁああぁっ・・っ・・・・挿れて・・・・挿れてくれよ紅っ!」

充分に満ち溢れたとろりとしたもの、自らの欲望のままに漏れ出した濃い蜜に導かれるように

紫月は自身の繁みを弄った。

明日には退院してくる帝斗のことも、自分を慕ってくる倫周のことも、尊敬の眼差しを向けてくれるバンドの

メンバーのことも、気のよい飲み仲間のビルのことも、、、、

何もかも振り捨ててしまってもいい。

たとえ彼らのすべてが俺に背を向けたとしても、たったひとり取り残されたとしても、構わない。

この欲望から逃れることなんて出来ないっ、、、、



哀しみの嬌声は未だ闇に包まれた専務室に溢れ出し、しばらく止むことはなかった。