CRIMSON Vol.14 |
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「・・・・・・・・・・・・・・・!?」
「だから帝斗を傷付けたのはお前じゃないよな?って訊きたいんだろ?」
その言葉に紫月の瞳は見開いたまま・・・・
「ま・・・さか・・・・・本当に・・・・本当にお前なのか・・・・?帝斗を・・あんな目に遭わせたの・・・・
おい紅月っ・・・まさかだろ!?冗談だよなあー・・・・!?」
紫月は荒がってとっさに紅月の胸倉を掴み上げた。
「何でっ!?何であんなことしたんだよっ!?お前・・・・どうかしてるっ・・・おかしいよっ・・・!」
そう叫び捨てながら勢いよく掴んでいた胸倉を離した。まるで叩き付けるかのように突き飛ばして。
紅月は突き飛ばされて床に倒れ込んだまま何も言わずに只じっと俯いていた。
「何で・・何であんなことしたんだよ・・・・帝斗はっ・・・関係ねえだろ?それにっ・・・・この前は倫にだって・・・
倫のことだってあんな酷え目に遭わせやがってっ・・・・お前いったい何考えてんだよっ!?
あいつらに嫌がらせしてっ・・・何か恨みでもあんのかっ!?おいっ紅っ・・・・黙ってねえでっ・・・・・
何とか言えよっ!!」
さらさらと髪を掻き揚げる音と共に床に座り込みながらぽつりぽつりと呟くような声が返事を返す。
「恨み、、、、?別に、、、、、」
「別に・・って・・・・じゃあ何なんだよっ!?何であんなことすんだっ」
「何でって、、、」
「おい紅っ、ふざけてねえでちゃんとっ・・・・」
俯いたまま気の無いような返事をしている紅月の肩を掴んで引き上げようとしたした瞬間に、ぎゅっと腰元に
しがみ付かれて紫月は蒼白となった。
「紅っ・・・何をっ・・・ふざけんのもいい加減にっ・・・」
「好きだからっ、、、、」
「え・・・・?」
「紫月が好きだからだよっ、、、紫月を盗られたくないからっ、、、、俺だけのものでいて欲しいからっ、、、
俺はっ、、、粟津くんが嫌いだからっ、、、倫周って奴も嫌いっ!大嫌っいっ!あんな奴らっ、、、
いなくなればいいんだっ!」
「紅っ・・・何言って・・・・」
驚愕で歪んだ紫月の瞳を食い入るように見詰める自らと同じ褐色の瞳が揺れ動く。
紅月はくいと立ち上がると紫月の肩先に抱き付きながら頬を摺り寄せた。
「好き、、好きなんだよ紫月、、、お前だけがすべてなんだ、、、俺にはお前だけが、、、、だから、、、
紫月が側にいてくれるんだったら俺、もう何もしないっ、、、粟津くんにもちゃんと謝るよ、、倫周って子にも。
二度と彼らにも近寄らないっ、、、だからっ、、、帰って来てよっ!帰って、、、俺の側にいてっ、、、
ずっとっ、、、ずっと、、、一緒にいてよ、、、、」
紫月っ・・・・・・・・・
そして又・・・吸い寄せられるように唇が重ねられて・・・・・・
「やめろってばっ・・・・!紅っ・・・俺はっ・・・俺はもうこんなことしたくねえんだよっ・・・俺はっ・・・
帝斗を愛してるんだっ・・・だから、今日はお前にはっきりそれを言おうと思ってっ・・・」
半ば勢いに乗ってすべてを振り捨てるかのように言葉を発した紫月の唇に、瓜二つの唇がみるみると震えを
伴って、気付くと紅月の顔は真っ青に歪み、相反して瞳は赤々と燃え尽くす業火のようであった。
「嘘だ、、、そんなの嘘だよ、、、、紫月は俺を愛してる、、、紫月の本当に好きなのは俺だろ、、、?
昔から、、ずっとそうだったろ、、、、?」
「紅っ・・・・もうこんなことやめなきゃいけねえんだよっ・・・俺たちは兄弟なんだぜ?だからっ・・・
こんなことしてちゃいけねえんだよっ・・・」
「嘘、、、うそ、、嘘、、、、そんなの嘘だ、、、、、紫月は俺を愛してるよ、、、絶対に俺を、、、そうだろう、、?」
「紅っ・・いい加減目を覚ませよ!俺たちはもう30(才)にもなるんだぜ?いつまでも若気の至りなんて言葉を
引き摺ってられねえんだよ。俺もお前も、ちゃんと自分の人生を歩いていかなきゃいけねえんだよ。
俺たちはっ・・・もう大人なんだよ・・・・・」
「紫、、月、、、、、?」
「な?わかってくれよ紅・・何も解らなかった若い頃とは違うんだよ。ちゃんとしなきゃいけないんだ。」
嗜めるようにそう言った紫月の言葉に紅月は思いっきり首を振ると突然に走り出し、がたがたと何かを
探すようにあっちこっちの机や物入れを引っくり返すと再び紫月の元へ走って来た。
その姿に紫月はギョッとしたように大きく瞳を見開いて。
紅月の手には見たことのある柄の鞘が、その昔2人で使っていたナイフが握られていた。
「紅っ・・・・!?」
「嘘だ、、紫月、、、、お前は忘れられない、、、俺を、、、そして”この”感覚を、、、、っ
忘れることなんて出来ないさっ!」
そう叫び声と共に鞘から抜かれた銀色の刃先が紅月の色白の腕を切り裂いて・・・・・・
「やめろ・・・ーっ・・・・・・」
一瞬にして床を真っ赤に染め上げた滴が紫月の脳裏に焼きついて、その昔何度も行った光景が
次々と蘇り、頭の中は掻き乱されていった。
「紫月、、、忘れるなんて出来っこないよ、、俺とお前の大切なものなんだ、、、お前は忘れられない、、
忘れるなんて、、許さないよ、、、、、」
ひたひたと滴の落ちる音と共にゆっくりと歩み寄って来る紅月の吐息が、
次第に濃く鮮明になってくる紅い液体が全神経を硬直させる。
脂汗が溢れ出し、身体は急速に冷えていくようで。
紫月はその場から一歩も動けないままに気付くと紅月の腕から溢れ出た鮮血はぐりぐりと胸元に
押し付けられていた。
「ほらぁ、、、気持ちいいだろ?紫月、、、それとも気持ち悪いか、、、?」
「や・・・・め・・・ろ紅・・・っ・・」
「ふふふ、、、紫月、、お前見たんだろ?傷付いた粟津くんの姿、、、、」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうだった?ねえ、紫月ぃ、、、血に染まった粟津くんを見てそそられただろ?
抱き締めて、酷い目に遭わせて、犯して、高めて、、欲望に耐え切れなくなって、、、イキたくてっ、、、
苦しむ粟津くんの姿を想像したろ?そういう彼の表情見たいって思ったろ?
そういう表情見ながらお前も高まってさ?そんときが一番カンジル。そうだろ?
普通のセックスなんかじゃ味わえない孤高の快楽の瞬間が、気が狂う程気持ちいい瞬間が味わえる。
だからやめられない、、、こうしてわざと血を出してさ?このまま抱き合うと天国にいけるんだったよな?
ふはははっ、、、で、どうだった?粟津くんを抱いたんだろ?傷付いて可哀想な彼を、もっと可哀想な目に
遭わせて、、、犯したんだろ?彼何て言ってた?粟津くんはお前のこと好きみたいだから許してくれたか?
一緒に気持ちイイって言ってくれたか?それでお前も最高にカンジられたのか?
ねえ紫月ぃ、、、教えてくれよ、、っ、、、どうだったのかさ?
俺とヤルのとどっちがよかった?、、、、言えよ紫月、、、気持ちよかったのかさ?言えよ、、っ」
ぐりぐりと鮮血の流れ出る腕を擦り付けながら紅月は息もつかずにべらべらとそんな言葉を並べ立てた。
その姿はまるで狂気のようで。
紫月は激しく首を振ると、すべてを振り切るかのように叫んだ。
「そんなことっ・・・してねえよっ・・・・・・!誰がっ・・・・」
「嘘、、、じゃあ何?そのまま医者にでも連れてってやったとでも言うの?」
「やめ・・ろ・・・紅っ・・・もうやめてくれよっ・・・」
「嘘つきっ、、、!想像したくせにっ!苦しみながらも抑え切れない欲望に翻弄される粟津くんのこと、、、
犯りたくて犯りたくて仕方なかったんだろうがっ!」
「・・・・・・・・っ・・・」
「で、どうしたって訊いてんだ?嫌がる彼を無理矢理犯して嫌われちまったか?
ふふふふ、、、それとも変態って罵声でも浴びせられた?もう紫月さんなんか嫌いっとかって言われたとか?」
次々と紅月は嘲るようにそんなことをしゃべり続ける。
紫月は耐え切れずに、気が付くと思いっきり紅月を殴り飛ばしていた。
床に倒れ込んだ紅月の、ふいと持ち上げられた頬は真っ赤に腫れ上がり唇からはうっすらと血が滲んでいた。
「紅・・・・っ大丈夫・・・・か・・ごめ・・ん・・俺・・・・」
「ふふ、、心配してくれんの?あはは、、、うれしいよ紫月、、、俺、、、
俺はいいよ、、、お前にだったら何されたっていいよ。、、、何されたって、、、、
そう、殴ったって、蹴飛ばしたっていいよ、、、血が見たいならいくらでも切ってくれていいよ、、、
何なら殺してくれたって、、っ、、お前にされるんだったらどんなことだってっ、、うれしいよ、、、、」
ぼろぼろと涙を零しながらそう言った。
腕からは真っ赤な血が流れ出したまま、床に伏せたまま、真っ黒な髪が揺れて・・・・
「紅・・・っ・・」
紫月はたまらなくなって・・・・
その昔、快楽に溺れたいが為に紅月の肌を、そして自身の肌を何度こうして切りつけたことだろう・・・
その度、紅月は何も言わず自分の好奇心に従ってくれていた。
そして・・・
そしてその紅月と抱き合うとき、決まって手中に出来得るその感覚が再び紫月の身体を覆い尽くして。
「ごめん・・・紅・・・悪かったよ・・」
そう言って手を差し伸べた瞬間にぐいと強い力で掴み返されて、
「紫月っ、、、好きなんだ紫月っ、、、、わかってっ、、、わかってくれよぉー、、、、」
そうして再び重ねられた唇を跳ね除けることは出来なかった。
帝斗を想いながらも身体は目の前の紅月を求めて うずうずしている欲望に、紫月はたまらない嫌悪感を
感じると共に神経が付いていけなくなってしまった瞬間に、とうとう意識を失ってしまった。
重ねられた唇がふいと離れてがっくりと後ろに仰け反ったとき、紅月は自身の腕の中にしっかりと
愛する者を受け止めた。
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