CRIMSON Vol.12
「好き・・・好きだよ・・・・・帝斗・・愛してる・・・・・・愛してるよ・・・・お前が・・欲しいよ・・・・・・」





欲しくて・・・欲しくてたまらねえよ・・・・・お前を・・・めちゃめちゃにしてみてえよ・・・・

ああ・・・帝斗ぉ・・・・・・















嫌だって、言ってみ?なあ、、、やめて、って叫んでみ?なあ、、、、早く、、、

そしたらお前に酷いことしてるみたいな気分になれる、、、すげえ感じて、、、、普段よりすげえヨカッタ、、、、

ヨカッタ、、、、よ、、、、

だから言って、、、、嫌だって、、、なあ、、紅、、紅月、、、、















「紫月っ!おい紫月っ!!」

耳元で怒鳴る声と共にがくがくと肩を揺り動かされて紫月は はっと我に返った。

「何してんだ!? 大丈夫か、おいっ、、、しっかりしろよっ!」

自分が何をしていたのか一瞬、状況のつかめないまま、ふと見上げた先にはマネージャーのビルが

何かを怒鳴りながら立っていた。

紫月は定まらない褐色の瞳を大きく見開いたまま微動だに出来ずに・・・

そんな様子はまるで魂を抜かれた、とでもいうような、或いは気がふれてしまったのではないかと

いうような感じでビルは帝斗のことも勿論ながら紫月のことも心配でならないといった表情をした。

「おいしっかりしろよ!お前がそんなんでどうすんだっ、大丈夫、傷自体はそんなに深くねえし

命に関わるって程のモンじゃねえからっ、、、大丈夫だから、、

な?紫月?お前がしっかりしなくてどうすんだよ?」

ビルは帝斗の傷口に手早く応急処置を施しながら側でぼうっと視線の定まらない紫月のことを

懸命に励ます言葉を口にしていた。



「おい紫月!じゃあこれから病院連れてくからっ、、、お前も一緒に、、、」

だがそう言い掛けたものの、ショックが酷かったのか未だすべての言葉が耳に入っていないかのような

紫月の様子に繭を顰めると携帯を取り出して何処かに電話をかけ始めた。



「おい紫月、今遼二たちに連絡したから。奴らがすぐ来てくれっからちょっとここで待ってろよ?

ヘンな気、おこすんじゃねえぜ?しっかりしろよ!」



それだけ言うとビルは急いで帝斗を抱えて出て行った。



慌しい雰囲気が、大きな声が、急に止んでしまった社長室は闇が降り始めた窓の外とはうらはらに

煌々と灯りが点されていて。

急激に静かになった環境がまるで自分だけが取り残されてしまったかのような錯覚に陥らせて。

定まらない視線の先にぼうっと映り込んできたもの・・・・

紅い血の痕が紫月の神経を益々狂気に誘うかのように駆り立てた。





「やっ・・・・やだ・・・やだ・・・やめろ・・・やめ・・て・・・・

怖い・・・・・怖いよ・・・・っ・・・お願いだからもうこんなこと・・・・やめっ・・・・っ」





遠い日の記憶が蘇る------

若き日に本能の赴くままに乱れ、溺れた日々・・・・・

紅月との愛欲の日々が残酷に蘇って--------





本能の赴くままに溺れた快楽の先にあったもの、それは後に酷い後悔と呵責の念を生み出した、

紫月にとって思い出したくない最悪の記憶であった。

好奇心だけで互いの肌を切り合った、そうしてその傷口を舐め合うように触れ合わせると

瞬時に湧き上がってくる快楽に何度溺れたことだろう・・・・

それは特別な・・・・・

普段からは想像もつかない程の至福の感覚。

欲しい・溺れる・堕ちる・穢れる・到達するといったようなすべての言葉がスリルに感じられて

ゾクゾクしながら探り合った若き過ちの日々が紫月に与えた罰は大人になった今尚、

記憶の中から消え去ってくれることは無かった。

血を見ると湧き上がる性の欲望が身体中を翻弄する。

溢れ出した欲望が全身を這いずり回っては止め処なく、逆らいたい意思など焼け石に水のようなものだった。

それが不埒な行為を繰り返してきた紫月と紅月への罰だったかどうかは知れないが、

いずれにせよ紫月にとっては好奇心だけで溺れた自らの若き日は未だに酷い後悔の念となって

自身を苦しめていたことに違いはなかった。

紅月と重ねた罪と罰の日々--------

たとえ相手が愛する帝斗であっても抑え切れなかった欲望に気付いたとき、それは正に自らに対する

天罰とでもいうべきか、紫月は抱えきれない程の呵責の念に囚われていったのだった。





とめられなかった・・・・

傷付いた帝斗が急に欲しくてたまらくなって・・・・

もっともっと傷付けてみたくなって・・・・

めちゃめちゃになった帝斗の姿を見たくなって・・・・

そんなことっ・・・望んでなんかいないのに・・・っ・・・

どうしてっ・・・俺はっ・・・・・



罰だというのか・・・

兄弟でありながら互いに溺れ合ったあの日々の・・・望んだままの欲望をすべて手に入れてきたあの若き日の、

これが神の与えし罰だというのか・・・・っ・・





紫月は泣き崩れ、何かから逃れるように頭を抱えるとずるずると床に座り込んでしまった。







助けて・・・・助けてよ・・・・

何でもするよ・・・・

この苦しみから逃れられるのであれば・・・・っ・・・

俺たちの犯した罪を許してくれるのであれば何をも厭わない・・・っ

だから・・・・許して・・・・

もう・・・許してよ・・・・

怖いんだ・・・怖い・・・・・・

助けて・・・・

助けて、誰・・・・・か・・・・・・







「一之宮さんっ!」



良心の呵責という残酷な代物に、追い詰められた神経が耐え切れなくなった瞬間に気を失ってしまった

紫月の身体を遼二や剛ら、ビルに呼ばれて飛んできたFairy(紫月のプロデュースするロックバンド)の

メンバーが受け止めた。