CRIMSON Vol.6
アールデコの大きな扉が開かれて入って来た人物に暗褐色の瞳が一瞬強張る。

彼は真っ黒な髪を揺らしながら軽く笑みを讃えて歩を進めると大きな社長席の前でふいと立ち止まった。

「久し振りですね、お元気ですか粟津さん。」

そう言ったと同時に見慣れたいつもの愛しいそれとそっくりの褐色の瞳がぴりりと帝斗を射抜いた。

「今日は紫月はいないのですか?ちょっとそこまで来たから寄ったんだけど・・・」

くすり、と少しの笑みをこぼしながら一之宮紅月は自信有り気にそんな言葉を口にした。



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「何で黙ってるの?紫月、いないの?」



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「粟津くん?」



まるで悪気の無さそうにそんなことを繰り返し聞いてくる、帝斗は僅かに蒼みを映し出した顔色を

取り戻さんとでもいった感じでぎゅっと拳を握り締めた。



「紫月さんはいませんよ。今日は打ち合わせでお出掛けになられています。」

きっぱりとした口調からほんの少しの怒りの気持ちと嫌悪感が窺えるようで紅月は又もふっと

笑みを漏らした。

「なあに、粟津くん?君、僕のことが嫌いなわけ?」



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「ね、そうでしょ?何で?何を怒ってんの?」



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いつまでたっても黙ったままで大きな瞳には怒りの色を映し出しながら立ち尽くしている帝斗の様子に

くるりと後ろを振り返ると又も自身有り気に紅月は言った。

「そう、紫月いないの・・・なら、いいや。又来るから。よろしく言っといてね。」

そんな言葉に少々冷めたような感情が見え隠れしている、紅月は明らかに帝斗を挑発するような

態度を残してその場を去ろうとした。



「待って下さい・・・!」



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「なに?ナ・ニ・カ用?」

じっと見つめる褐色の瞳が挑戦の色を濃くしている、帝斗はぎゅっと唇を噛み締めると

意を決したように 話し始めた。



「紅月さん、、でしたよね?

もうここには来ないで頂きたい、、、紫月さんに会うのもやめてください。」  



「なに?何言ってんの?何で君がそんなこと言うわけ?」

紅月はドアのところまで歩き掛けてくるりと後ろを振り返った。



「紫月と会うなってどういうこと?僕は紫月の兄だよ?弟に会って何が悪いんだ。

君、何様のつもり?」

「あなたこそどういうおつもりなのか窺いたいですよ。先日のこと忘れたとは言わせませんよ。」

「先日・・・?ああ、あれね!あれは僕が悪かったよ、Fairyの子のことでしょ?

あんまり可愛いからつい・・・ね。ごめんなさい。」



素直に頭まで下げて謝ってくる紅月の態度に帝斗はむっとしたように睨みを利かせると敵意を

剥き出しといった感じで責めたてた。



「そのこともですけどっ・・・紫月さんにあんな酷いことをなさっておいてよくノコノコとお出でになれる

もんですね!?あんなことっ・・・僕は絶対に許しませんよっ!」



「あんなことー?何のこと言ってんだか知らないけどさあ、君ホント口悪いね?

紫月と僕が何しようと君には関係ないじゃない?いちいち口出さないでよ。」

ゆっくりとまるで弧を描くように向けられた褐色の瞳がぎろりと帝斗を射抜いた。

と同時に紅月は帝斗の立ち竦んでいた社長席の大きな机の前まで来ると机越しに

ぐいと顔を近付けながら低い声で囁いた。





「あんなことってどんなことさ?言ってみ?もしかして僕が紫月と寝たことを言ってんの?

だったら甚だ余計な詮索だよ。紫月はさあ、僕のモノなんだから・・・何しようと僕の勝手なんだよ。

例えばー・・・・

紫月の背中をナイフで切ったこととかあー・・・後ろから挿れてあいつをイカせたこととかー・・・

他に何?紫月のモノを舐めて愛してやったこととかを言ってんだろ?

ふははっ・・・・オトコ同士なのに気色悪いとか思ってんの?君ってそういうのに否定的なんだー?」

今にも唇が触れるか触れないくらいの位置を保ったまま当たり前のようにべらべらとしゃべり続ける。

少々得意気に軽く笑みまで見せながら話していた表情が一瞬凍りついたようになったと同時に

更に低い声が地を這った。



「それとも何?君、ひょっとして紫月のことが好きなわけ・・・・?で、僕に妬いてるの?」



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「どうなのよ、ねえ?さっきからずっとダンマリしちゃってさあ・・・・

まさか図星ってか?」

そう言うと紅月は又も可笑しそうに高笑いをして見せた。



「くっ、、ふふふふっ、、、、

じゃあひょっとして君も紫月とセックスしたりしてんの?それで紫月にイカれちゃってるんだあ?

ふふふ、、、でもダメだよ。紫月は僕のモノなんだから。可哀想だけど諦めた方が身の為だよ、

じゃなきゃ君も”あの子”みたいに酷い目見ることになるよ、、、、?」

「あの子ってっ・・・・いい加減にして下さいよっ!あなたのしたことは犯罪ですよ!?

彼が訴えればあなたは間違いなく逮捕される・・・・よくも堂々とそんな態度がしていられますね?」

「あはははっ、、、逮捕ぉ〜?君、頭大丈夫?そんなコトしたらマスコミが大騒ぎしてバンドなんて

終わりじゃない、稼ぎ処を失ってお陀仏だね〜?」

「・・・・・!ふざけるのもいい加減にっ・・」



なっ・・・・・!!?



「何をするんですっ・・・!?」

紅月はぐいと帝斗のスーツの襟元を掴むと自身の胸ポケットから簡易ナイフを取り出してそれを帝斗の

頬に押し当てた。



「あの子・・・何で僕があの子を犯したと思う?

紫月と寝てたからさ。あの倫周って子さ、確かにすごく綺麗な子だったけどさあ、ひと目見てすぐ

わかったんだよ。彼は紫月に抱かれたことがあるんだってね。

で、それを確かめる為にちょっとイタズラしてやったらすぐに俺に身体を預けてきたよ。

俺を紫月だと思ってたみたいでさあ・・・・顔なんか真っ赤にしちゃってさあ、ホントいやらしい子だったなあ・・・

ああいうのを”淫乱”っていうんだよねえ?あんな感じで毎日紫月を誘惑してんだと思ったら何だか

急に腹立ってね、それで犯ってやったってわけ!二度と紫月を誘惑するなってよーく教えてやったの。

でもさ・・・

お前もそうなんだろ?紫月と寝てんだろ?粟津くん・・・」



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「だからお前にも教えてやってもいいぜ?紫月は俺のモンなんだってことをさ?

その身体にしっかり刻み付けてやろっか?」





しゃっ、と音と共に鋭利なナイフが鞘から姿を現すとそのまま胸元に押し付けられた。

ほんの少しの力と共に真っ白なワイシャツの上から突き立てられて僅かな痛みが全神経を尖らせる、

重苦しい沈黙の後に紅く浮き出した点がじわじわと広がっていく様子に紅月はうれしそうに瞳を細めた。



「紫月は俺のものなの。ずっと前から、俺と紫月は愛し合ってたんだよ。お前なんかが想像も出来ない

程ね、、、強く、、、激しく愛してたのに、、、っ、、、、、」



きゅっと瞳を歪ませながら紅月は唇を噛み締めるとぎりぎりと帝斗を睨み付けた。