CRIMSON Vol.10 |
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「紫月・・・ホントにいいの・・・・?なんかちょっと怖いよ・・・・」
ベッドの上でうつ伏せに横たわる紫月の背中を見詰めながら果物ナイフを手に僅かに震える
紅月の声に少々虚ろな瞳を向けながら紫月は言った。
「いいよ、マジで切ってみて。あ、でもそんなに深くやんなよ?」
「うん・・・・」
まだ戸惑いがちにそれでも愛しい者の望んだ通りに背中にすうーっと線を引く。
しばらくの後、僅かに滲み出てきた血はどんどんと広がりをみせるとやがて
背中いっぱいに溢れていった。
「痛い?紫月・・・・」
「ううん平気。ちょっと沁みる感じするだけ。ね、紅、、、そのまんま俺にくっ付いてみ?
なんかぬるぬる滑ってすげえ気持ち悪いぜ?」
「うん・・・・」
紅月は言われるままに紫月の背中に覆いかぶさるとそのままゆっくりと身体を上下させてみた。
・・・・・あっ・・・・・・
「どう、、、紅、、気持ち悪ぃだろ?それとも気持ちイイ?」
「ん・・・紫月・・・・なんかわかる・・お前がさっきどんな気分だったかって・・・・」
そう返事をした声は既に熱く蕩けるような感じで心なしか吐息も乱れを増している。
ふと瞳を開けると真っ白なシーツに鮮血が流れ滲み込んでいて薄暗い闇の中にそれらは
異常な世界を作り出しているかのようで。
「・・・ぁっ・・・ああっ・・・・紫月っ・・・ほんとだ・・・・ほんとに・・気持ちイイ・・・・
すごい感じる・・・・これだけでもうイキそうだよ・・・・紫月・・・紫っ・・・・」
「紅、、、紅月っ、、、、もっとっ、、、もっと動いてっ、、、もっとぬるぬる、、、、ああっ、、俺もイキそう、、、」
「だめっ・・・紫月まだ・・イクなよ・・・・もっと・・・もっと感じたい・・・もっとっ・・もっっ・・・・」
・・・・ぁああっ・・・・・・
「イイっ・・・・紫月ぃ・・・気持ち・・いい・・・・・」
紅月はそのまま紫月のうなじに舌を這わせると激しく首を振りながら愛撫を深めていった。
のばされていた手を取り上げて、指と指を絡め合わせて、首筋に耳元に何度も何度もくちつ゛けを
繰り返して色白の紫月の肌に赤い花びらを散らしてゆく。
夢中で、むさぼり狂うようにお互いの性に溺れて・・・・・
「あっ、、紫月、、、、ホントに酷いことしていいのか?なあ、紫月、、、、ほんとにさっきのお返し、、、、
お前の気持ち解った、、、なんとなく、、、こういう気分だったんだ、、、、、!」
「紅っ・・・・・・!」
闇の中、白い身体がうねりを増して・・・
溢れ出る思いのままに、湧きあがる欲望のままに紅月と紫月はお互いの身体にのめり込んでいった。
たとえそれがどんな思いを抱えていたとしても。
好きだという感情なのか、或いは只の若さ故の激情なのか、このときの2人にはまだその真なる胸の
内など到底気付かないままに目の前の快楽に引き摺られるように手を伸ばし合っていた。
こうして些細なことをきっかけにこの日から異常な欲望に支配されていった若き兄弟の、やがて訪れる
悲劇のことなど終ぞ予想だにし得ないままにこの後2人は益々深みに嵌っていくこととなる。
この世に生れ落ちてどういう形にせよ惹かれ合った者たちの、その想いの深さはどうして同じじゃ
ないのだろう?
ずっと変わらず、ずっとこのままにいられたなら。
私が貴方を想う分だけ同じ想いを欲しいと思う。
貴方が私を求める分だけ同じ気持ちを返したいと思う。
ずっとこのまま・・・・何も変わらずにいられたなら。
流れ行くときの中ですべての想いが変わらずにいれたなら、こんな幸せなことはないのに。
「愛してるよ紫月っ・・・・・・!」
「気持ちイイ紅っ、、、、、、、!」
永遠にこのままでいられたなら

胸元に滲み出た紅い血の痕が僅かづつ広がりを増していた。
鋭利な切っ先を突き立てられたまま自分を睨み付けた褐色の瞳が僅かに潤んでいるように見えたのは
幻だったのか、帝斗は睨み据えられた視線を外すことなくしばらくは静かな対峙が続いていた。
「ずっとっ、、、俺のものだったっ、、、、今もっ、、、、
今だって俺のものだっ、、、、永遠に俺のっ、俺だけのものなのにっ、、、、」
瞬時に取り戻された歪んだ時の流れる中でぎりぎりと唇を噛み締めながら一之宮紅月は
搾り出すかのようにそう叫んだ。
「渡さない、紫月は絶対にっ、、、あいつは俺だけのもんだっ、、、、お前にもあの倫周って奴にもっ、、、
誰にもっ、、、、二度と紫月に近寄るなっ!」
そう言った瞬間にぐいと力がこもった鋭利な切っ先が僅かに滲んだ白いシャツを切り裂いた。
と同時に大量の鮮血も溢れ出て・・・・・
・・・・・・・・・!
一瞬驚いて握っていたナイフを落としそうになった紅月の瞳は瞬時に湧き上がった驚愕の色で揺れていた。
だらりとスーツにまで滲み出た紅い痕をそのままに帝斗はぎっと紅月を見据えると普段からは想像も
つかない程の低い声で呟いた。
「僕を傷付けてそれであなたの気が済むのなら、どうぞいくらでもおやりなさい。
その代わり紫月さんには今後一切近寄らないでいただきたい、その為だったら僕はどんなことも
厭いませんよ。」
静かに、穏やかに発せられたその声の、だがぞっとする程決意のある感じに紅月は一瞬たじろいだような
表情を浮かべた。
だがしかし、一瞬の後・・・・
「へえ?随分な言葉だな・・・・そんなに言うならホントに切ってやってもいいぜ?
それだけしても紫月を守りたいなんて、それがどんなにお前の勘違いかってことを証明してやるよ。
誰が何と言ったって紫月は俺のもんだ・・・・それを解らせてやるよっ・・・・何なら・・・・
殺してやってもいいんだぜ?あははっ・・・そうだね、それがいっか?
お前らみたいな連中ははっきり言って目障りなんだよ。だから・・・・いいぜ?ホントに殺してやろっか?
ねえ、粟津くん?」
にやりと微笑むその瞳は不思議と至福の色を映し出していて、帝斗は紅月が半ば錯乱状態にあるという
ことを本能で悟ったのだった。
ぐりぐりと再び突き立てられた鋭利な刃が食い込む度に真っ赤な滴が卓上に落ちていく。
だが帝斗は一歩も引くことなく大きな暗褐色の瞳を見開いたままじっと紅月を見詰めていた。
「ふっん、、、強情だな、、、それ程紫月が好きだってことか?
ふふふ、いいだろうお前の態度気に入った。この挑戦、受けて立つぜ?」
そう言って微笑むと紅月は帝斗に突き立てていたナイフを仕舞い不適に笑ってみせた。
「どっちが紫月を手に入れられるかさ、たのしみにしてるよ。」
そういい残して一之宮紅月はその場を後にした。
深く切り裂かれた胸元からは未だ鮮血が止め処ないままに帝斗はじっとその後ろ姿を見送ると
重い扉の閉じられた音にがっくりと椅子に倒れ込んだ。
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