CRIMSON Vol.78
「ごめん、、、帝斗、、、、、その、、、俺、、、、、、」

思い切って話し出せど言葉は詰まってしまう。目線を合わせたり外したりと忙しい様子の紫月に、

帝斗はにっこりと微笑みながらそんな彼を見つめていた。

「あの、、、だから、、、、つまりごめんって、、、、今まで悪かった、、、、、

俺、、、お前に散々迷惑かけて、、、、それ謝りてえって思って、、、許して、、くれるか、、、、?」

しどろもどろに取り留めのないようなことを繰り返している紫月の言うことを、帝斗は瞳を細めながら静かに

聞いていた。その様はまるですべてのものを包み込むように穏やかで慈愛にさえ満ちているようで。

そんな雰囲気を感じ取ったのだろう、紫月はたまらなくなって帝斗の正面で姿勢を正すと、勢いよくぺこりと

頭を下げた。



「ごめんっ、帝斗、、、悪かった今まで、、、、俺、、、、、

許されるなんて思ってねえけど、、、、謝りたくて、、、、本当にごめん、、、、」



墨色と、麻色のスーツに身を包み、大の男が正面から向き合って微動だにせずに・・・・

ひとりは深々と頭を下げている。そんな様で空港ロビーに佇めば、次第に辺りにはヒソヒソ声が

飛び交うようになっていったのは必然的であった。

興味ありげに寄り添いながらヒソヒソと様子を伺う女性たちも心なしか楽しそうで。

「ねぇねぇ、見てよアレ・・・・何してんだろ?」

「え?どれどれー?あ〜、なんかちょっとイケテないー?2人ともすっごい好みかも〜・・・

ってか何かあの人たちヘンな雰囲気だよね〜?」

「なんか黒スーツさん謝ってない?もしか仕事ミスって上司に怒られてるとか?」

「きゃははは〜、ヤッダ〜〜〜!ほんとだ、白スーツの方、何か満足げじゃな〜い?笑ってるし〜!」

「ホント!黒スーツ、ちょっとマジ顔だもんね〜・・・何したんだろ?」

「でもマジでかっこいいじゃん2人!アタシ黒スーツ好みぃ〜♪」

「え〜〜〜、アタシは白かなぁ・・・」

「やっだぁ〜〜〜!」

きゃははと声を上げてじゃれ合うような人だかりが次の人だかりを呼び、帝斗と紫月の周りにはぐるりと

楕円形の輪が遠巻きに出来ていた。

だが自分のことで精一杯の紫月にはそんな様子も目に入らずといった感じで、ひたすらに帝斗の前で

頭を下げているのであった。



「紫月さん・・・もう頭を上げてください・・・・・

こんなところで何ですし・・・それにあなたの気持ちはもう充分解りましたから・・・

ね?ほら・・・他人も見てる・・・・・」

次第にガヤガヤと人が集まりだした様子に帝斗は紫月の肩に軽く手を寄せながらそう促すと

にっこりと覗き込むように微笑んだ。

「帝斗、、、本当に、、、、、俺、、、、、

ごめん、、、

俺、、、お前に云わなきゃならないことが、、、あって、、、、、

だから、、、、」

「わかりましたから・・・話なら後で聞きますし。とりあえず此処を出ましょう・・・?」

だんだん大袈裟なくらいに膨れ上がってきた人だかりを気に掛けてか帝斗は少し急かすようにそう言った。

だがそんな態度を違う意味でとってしまった紫月は焦りも高潮といった様子で、今までよりも更に大きく

腰をかがめると、

「帝斗っ、、、俺、、、お前が怒ってるの分かってるし、、、

今更こんなこと言えた義理じゃねえってことも勿論解ってるっ、、、、けど、、、

だけど、、、どうしても聞いて欲しいんだっ、、、、、

俺の気持ち、、、、

迷惑かも知れねえけど、、、どうしても云わなきゃって、、、俺、、、、」

あまりに懸命に真っ直ぐに、まるで訴えるように見つめてくる褐色の瞳に抗えずにさすがに帝斗は

困ったような顔をした。

「ごめん、、、帝斗、、、迷惑だろうが聞いてくれ、、、、

嫌だったら聞いた後ですぐ忘れちまってもいいから、、、、聞いて欲しいんだ、、、、

俺、、、すげえ勝手だけど、、、

散々今までお前に迷惑掛けて来たんだけど、、、、でも俺、、、、」





お前のことが、、、、





そう言い掛けて、だがやはりすんなりとは言葉にならずに紫月は口篭ってしまった。





「畜生、、、何て云ったらいいんだよ、、、、

やっぱり俺って、、、どうしょうもねえ野郎だよな、、、、こんな、、、、」





簡単なひと言が云えないなんて、、、、

だってどうしたら、、、この心のままを伝えられるのかなんて解らねえよ、、、、

上手く思ってるままに言うなんて、、、一番難しいじゃねえかよ、、、





しどろもどろになりながらも上手く言葉が出てこない紫月はしばらくは取り留めのないような独り言を

ブツブツと呟くようにしながら俯いていた。



「紫月さん・・・・もう解りましたから。あなたの云いたいこと・・・・」



ほとほと困り果てた様子の自分に助け舟を出すが如くに頭上に穏やかな声を聞いて、紫月はハッと

我に返った。

そこには優しげに微笑みながらクスクスと自分を見つめてくる帝斗の顔があって・・・・





「あ、、、、、、、!」





自分を覗き込む穏やかな瞳

やさしい性質そのもののたおやかな微笑み





それらが瞳に飛び込んで来た瞬間に紫月は帝斗がパソコンの画面上に残したメッセージを思い出し、

瞬時に心にかかったベールが取り除かれるような心持ちがしたのだった。