CRIMSON Vol.77
俺はなんて浅はかだったろう?

帝斗のやさしさに甘えてそれが当たり前になっていて、、、時にはやさしく寄り添うあいつを抱いてやってる

なんて気になっていたこともあった

あいつが俺を想ってくれるのは当然のことで、あいつは俺を必要としてるのも当たり前で、、、

なんておごりだろう?

紅月のことにしたってそうだ、、、、

紅月が俺のことを好きだから仕方なく側にいてやるんだとか

あいつが求めるから自分も反応するんだなんて、そんなふうに思ってたんだ

俺はいつでも他人の思惑に応えてやってるんだなんて自分の我がままを摩り替えようとしていた

本当は自分が欲しくて仕方なかっただけなのに都合よく見せかけて、

結果的に誰をも傷つけてきたというのに



真実が見えなくて

心が定まらないのを他人のせいにしてた、、、、

面倒くさいことから目を背けて逃げまわっているだけ、、、

一番浅はかでどうしようもないのはこの俺だってこと、本当は解ってたんだ

でも向き合えなかった

怖くて、、、

勇気がなくて、、、

壊れてしまうのが嫌で、、、

誰からも相手にされず取り残されてしまいそうで、、、

いつも誰かの側で安心していたくて、、、

そんな俺のろくでもない感情がどれ程他人を傷つけてきたことだろう

謝ったって謝りきれない

許されるなんて思ってないけれど

それでも もう一度向き合ってみたいと思うのは我が侭だろうか?

資格がないのは解ってる、充分過ぎる程わかってる

でも最後に一度だけでも素直になってみたい、、、、

帝斗が俺を想ってくれるからではなく、紅月が俺から離れていったからではなく

今このときに俺自身がどうしたいのかということを、どうされたいのかということを

はっきりと伝えてみたい

自分の言葉で、伝えてみたい

こう言ったらどう思われるかなんてそんなことはどうでもいいから自分のすべてをぶつけてみたい

うまく云えないかも知れない

思っている通りに伝えられないかも知れない

いや、もし思い通りに気持ちを伝えられたとしても受け入れてもらえないかも知れない

今更なんて拒否されて、又孤独に戻ってしまうかも知れない

それでもいいから、、、

伝えてみたい

謝りたい

今までお前を苦しめてしまったこと精一杯謝って

そうしたら、、、伝えたい

俺の今の気持ち

お前の側にいたいっていう俺の気持ち

俺は弱くて根性もねえしずるいし汚ねえ奴だけど、帝斗のことが好きなんだ

お前にずっと側にいてもらいたいってことを

お前の側で甘えさせて欲しいってことを、、、

素直になって云ってみたい

拒否されたら傷つくんだってことも一緒に云ってしまいたい

この上ない我がままを受け止めてくれなきゃ嫌なんだってことも、、、何もかもをお前に、、、、





帝斗、、、、、っ!





こみ上げた気持ちはまるで収拾などつかずに只頭に血がのぼるように頬だけが紅潮を増してゆく。

到着ロビーの扉の向こうに見慣れた麻色のスーツ姿を瞳に映した瞬間にどうしようもない程に

全身が揺らいだ。

まるで脳天から電流で貫かれたかのようにビリビリと身体中が震えを増して、、、、

それは痛みともつかぬ程の感覚で。

にっこりと扉口の警備員に会釈をしながらふとこちらを振り向いた瞳がほんの一瞬驚きの色に染まった。





「紫・・・・月さ・・・ん・・・・・・・?」





クリクリとあどけないような瞳で不思議そうに見つめ、だがすぐに穏やかに暗褐色の瞳を長い睫毛で

覆うようにゆるりと微笑んだ。

「迎えに来てくれたの?」

麻色のスーツに身を包み、手には大きな荷物が二つ分−−−−−

紫月はそっとその荷物に手を添えると思わず恥かしそうに瞳を逸らせた。

「お帰り、、、、お疲れ、、、さん、、、」

もじもじと、そしてようやくの思いでそれだけ言って。

情けない程の小さな声でそれだけ言って。

俯き加減の瞳に入るのは手を添えたばかりの荷物と、、、

そして色白の彼の掌、長い指先、見慣れた腕時計、、、、

そしてやはり見慣れた爪の形までが瞳に飛び込んできて紫月はハッとしたように我に返ると

ほんの一瞬唇を噛み締めて、、、、

そして覚悟を決めたように俯いていた顔をそっと持ち上げた。



暗褐色の瞳が自分を見つめている

穏やかに、何事もなかったかのように見つめてくれている

懐かしい日々をそのままに、見つめてくれている

ほんの少しだけ不思議そうに微笑みながらも自分に向けられた真っ直ぐな瞳に弛みのない強さと

優しさを感じて紫月は気の遠くなりそうな感覚に駆られていった。





ああ、、、この瞳だ、、、、

いつのときも俺はこの瞳に甘えてきたんだ、、、

俺を包み込む心地好いこの存在に甘えて、、、





「帝斗、、、俺、、、、、」

紫月は意を決したようにくいと帝斗を見つめ返した。