CRIMSON Vol.74
「そう・・・・・・・・・」

「ん、、、だから訊いたの。お前はどうなのかなって、、、、、あの氷川ってやつのこと、、、、

俺に対するのとどこが違うのかとか、、、、、何となく、、、、、」

紅月はそんな紫月の取りとめもないような問い掛けに、ふと何かを考えるように再び膝を抱え込んでは

ぽつりと呟いた。

「紫月はさ、粟津くんのこと好き?まだ・・・・好きなんだよね?」



「え、、、、、、、?」



「うん・・・だから今でも粟津くんに対する気持ちは変わらないのかなって・・・・」

「変わらないっていうか、、、、変わらないからって俺が許されるってもんでもねえし、、、、

どうにもならねえさ、、、、帝斗が俺のことをどう思ってるかなんて解んねえし、、、、

許してないかも知れねえし、大ッ嫌いかも、、、、知れねえし、、、、、」

「それは僕のせいだよ・・・僕がお前を訪ねて行ったりなんかしなければ2人はうまくいってたんだから・・・

全部僕がいけないんだ・・・・・僕が紫月を諦められなかったから・・・・・・・・

それなのに僕は白夜のことも好きになってしまって・・・・・・

全部僕の我が侭が・・・・・・・紫月と粟津くんの幸せをも裂いてしまったんだから・・・・・」

「紅、、、それは違うよ。俺解ってたんだ、、、、、

いつかは帝斗に言わなきゃならないっていつも心のどこかに引っ掛かってた、、、、

お前とのことを、、、ずっと帝斗に隠し続けてんのが辛かった、、、、

お前が訪ねて来なかったとしても、、、いつかはこんなふうになったのかも知れないって思ってる。

だから此処へ来たんだ、、、、

別に此処へ来たからって何か答えが出るってもんでもねえけどさ、、、、

何となく、、、、

何でお前とあんなことになっちまったのかとか、、、考えたくて、、、、、、」

「そう・・・・・・だね・・・・・・・・

何でだろう・・・・・・・・僕は紫月が好きだったから・・・・・ただうれしくて・・・・

高校の・・・・あの頃から僕は女の子とか苦手だったから・・・・・」

「へ?そうなの、、、、、?お前、女苦手だったんだ?」

「うん・・・・だって何となく・・・・・・・・・・」



「一之宮君と付き合ったら玉の輿に乗れるわよ〜とか、年中そんなこと言われてたら

嫌ンなっちまった、、、とか?」



「えっ!?」

紅月は驚いたように紫月を見上げた。まるでそれまでの切ない雰囲気が嘘のようになってしまう程だった。

「そう・・・よく解ったね。その通りだよ・・・・いっつもそんなことばっか言われてて・・・・

そのうち僕に寄って来る子は全部お金目当てみたいに思えて来ちゃってちょっと怖いなとか思った。

だって免許取ったらドライブ連れてってとか、それだけならいいんだけど車は何買うのーとか・・・

外車がいいなあーとかさ・・・・挙句は指輪欲しいとか言うんだぜ?付き合ってるわけでもないのに・・・

女って怖いって思った・・・・・結局僕のことなんかより僕を取り巻いてる飾りが目当てなんだろうって

思うようになった・・・・

オトコはそんなこと考えないさ。外車とか指輪とか・・・そんなものより僕はもっと違うこと考えてたから・・・

もっと・・・・ものなんかじゃなくてもっと通じ合える何かっていうの?そんなのがあるはずだって・・・

漠然とだけど・・・例えば辛いとき側に居て欲しいとかそういうのを・・・分かち合える存在が欲しいって・・・

だから・・・・僕は・・・・・・・・」



「結局俺たちは臆病だったんだ、、、、

俺たちに寄って来る奴はたいがい一之宮家のバックボーンが欲しかっただけで。男にしろ女にしろ同じだよ。

皆どっかこっかで俺らといればいい思いが出来るだろうって近寄って来るんだ。

だから、、、そんなのにウンザリしてたから、、、、、

結局は自分の気持ちを一番理解してて、側にいて安心なヤツっていったらお互いしかなかったんだよな?

お前とならヘンな気使いもいらねえし、、、兄弟なんだから環境は同じだし金とか名誉とか関係ねえし。

お前となら、、、、安心だから、、、、騙されることもねえし、、、」

「だから僕たち・・・・・・・・・」

「ん、、、、そうかもな、、、、、、、お前も俺も臆病で気が小せえから、、、、」

紫月はくすりと微笑むと、紅月もつられるように微笑み返し、、、、そして又ときがとまる、、、、

互いを見つめあいながら切なさが舞い戻ったように日陰の路地裏の風が二人の間を吹き抜けた。





「紅、、、俺たちはようやく離れてもいいときが来たのかも知れねえな、、、、、」



「紫月・・・・・・・・・・・・」



「金とか飾りとか家柄とか、、、そんなもんじゃなくて俺たち自身を見つめてくれる存在をお互い以外に

見つけることができたのだから。

少なくともお前は、、、、もうそういう相手に巡り合えたんだから、、、、

あいつ、、、氷川ってさ、、、、、

あいつよっぽどお前に惚れてんだな、、、じゃなきゃあんなこと許せねえよな、、、

俺もホントに悪いことしたって、、、、

ごめんな紅、、、、、俺、、、どうかしてた、、、、本当に、、、悪かったよ、、、、」



「紫月・・・・・・そんなことっ・・・・・・・」



「紅、、、幸せに、、、、なれよな?

あいつのこと、、、、、大事にしてさ、、、、、俺も応援してるから、、、、、」

「紫月っ・・・・・・・・・」

「ホントだぜ?マジでお前の幸せ祈ってるって、、、、」

「紫月はどうするの・・・・・?粟津くんとは・・・・・・・」

「うん、、、俺は、、、、解んねえけど、、、、

帝斗が許してくれるかどうかも解んねえし、、、、第一 また元に戻れるかも解んねえんだし、、、

はっきり言ってしばらくは独りになりたい気もするし、、、

人間不信っての?

あ、、、だけどそれってお前のせいとかじゃねえからな?俺が何となく自分のことも含めてそんなふうに

思うだけで。

しばらくおとなしくしてようとかさ、、、、」

紫月はそう言うとくすりと笑みを漏らして紅月を見つめた。





風が渡る−−−−−





見つめ合う2人の間をそよそよと吹きぬけていく





「本当に、、、、幸せになれよ紅、、、、、、、そして終わりにしよう俺たちの間違いを、、、、

今日、、、今この場で、、、、さよならするんだ。若い頃からの過ちに、、、、、、

もう二度と、、、、振り返らないと、、、、これからは先のことだけ見つめて生きていくって約束しよう」



「紫・・・・・・・月・・・・・・・・・・・・・・」



「紅、、、、、、、、、、、」



ふいと紫月は紅月の顎を持ち上げると、軽く唇を重ね合わせた。

本当に、軽く、、、、触れるか触れないかのように重ね合わせて、、、、、





若かったあの日にこの場所から始めてしまった間違いに、

自分たちの弱さや罪までそのすべてから目を反らさずにきちんと向き合って、

そして終わりにしよう

自分たちで始めた間違いに終止符を打とう

もう二度と、、、振り返らないと約束しよう、、、、





そっと唇を離すと2人はしばらく無言のままで互いを見つめ合っていた。

かけがえのないものものを失ってしまうような鈍い痛みを心の中に残しながらも黙ったまま見つめ合った。



一生離れてしまうわけじゃない、

二度と会えないわけでもない、

けれども一抹の寂しさを伴うのも嘘ではなくて・・・・・

そんな互いの心中を言葉にしなくとも解り合ったように2人は再びそっと肩を並べ、しばらくはその場所で

寄り添って過ごしたのだった。

ずっと無言のまま・・・・・・・



若き日に互いを求め合い、そして穢し合った双子の紅月と紫月は、ようやくとその罪の日々から抜け出し

羽ばたこうとしていた。