CRIMSON Vol.73
俺はいったいどうしたいのだろう?

次の日、そんな疑問を胸に重たげな表情の紫月が向かった先は自身の卒業した懐かしい学園の

高等部の校舎であった。

賑やかな学生の声が明るく響き渡る校庭、、、、、

紫月は午後の日差しに眩しそうに瞳を細めながらぐるりと門の外を回って体育館の裏手へと足を向けた。

今の時間、授業はないのだろうか?閑散として人の気配のしない体育館の中をちらりと覗き込みながら

日陰の心地好い風が抜けている裏の細い路地へと更に足を向けた。



この場所、、、、、、

この場所からすべてが始まったんだ、、、、、

まだ高校に上がりたてのあの頃、、、、紅月との初めての、、、、、



何であんなことしちまったのかなんて思い出せない

此処で、、、、あの日俺と紅月は、、、、、

そう、、、確か紅月が泣いていて、、、、

何で泣いてたんだっけな?確か父さんに見せられない成績を取ったとかそんなことだったような、、、、



ああ、、、、

そうだ。確か学園に対して一之宮家の恥になるとか何とか言ってたんだっけな、、、、、、

それで、、、、そんなあいつを慰めてるうちに、、、、俺たちは、、、、、












「紫月っ・・・・どうしよう・・・・・・・父さんに恥をかかせてしまった・・・・・僕が頭悪いせいでっ・・・・・」

「そんなことねえって、、、、お前は普段は成績いいんだし今回が特別だろ?

誰だって一度や二度はそんなことくらいあるさ。だから大丈夫だって!父さんだってそんなことで

怒りゃしねえって、、、、」

「そうじゃないんだ!怒られるとかじゃなくて・・・・・ただ僕が・・・・・父さんに申し訳ないと思うだけで・・・・・・

一之宮家の恥だなんて言われたらどうしよう・・・・・僕のせいでっ・・・・・ねえ紫月ー・・・・・・・」



泣きじゃくるあいつを見てたら何か可哀想に思えて、、、、、あいつも俺に縋って来てて、、、、、それで、、、、、



「紅っ、、、、そんなことどうだっていいよっ、、、もう忘れろよっ、、、、、、

お前が怒られたり辛かったりしたら俺も一緒に怒られてやるし、、、、だからもうっ、、、、」

「紫・・・・・月・・・・・?・・・・・・・・・・・・・・・・!!!」



そのまま引き寄せられるように唇を、、、、重ねちまった、、、、

その後は、、、よく覚えてない、、、、、

流されるように俺たちは、、、、、、

結局俺がきっかけを作っちまったんだ、、、、、

俺が、、、

何となくヘンな気分になってそのまま紅月にキスなんかしちまって、、、、そのまま、、、、

何もかも、、、、俺が原因なんだ

だがあのときは何も気付かなかった、紅月のことが格別好きだとかそんな気持ちは無かったしただ

興味本位でそれからのことはおもしろいように深みに嵌っていった、、、、

何で、、、、あんなことしちまったんだろう、、、、

何で、、、、あのとき俺は、、、、



悔しさとも何とも言えない複雑な心中で歪んだ紫月の瞳からはうっすらと涙が滲み出していた。

思わず声を上げて泣いてしまいたい、、、と思ったときだった。すぐ近くの角の向こうから誰かの

気配を感じて紫月は思わず顔をあげ、辺りを見渡した。



「うっ・・・・・・・・・えっ・・・・・・・ううっ・・・・・・・」



それは誰かのすすり泣く声に間違いないようだった。紫月はいぶかしげに息を潜めて覗き込んだその先に

体育館の石畳に腰掛け膝を抱え込んで泣いている姿を映し出し、思わず瞳を見開いた。



「紅っ、、、、、!」



驚きの声は抑えられず、けれどもそれを聞いてもっと驚いたようにこちらを振り返ったのはやはり

見間違いなどではなかった、膝を抱え込んだまま自身と同じ褐色の瞳が涙に濡れていた。



「紫月っ・・・・・・・・!?」



紅月はあまりの驚きに言葉にならずといった様子でそのまま動くことも出来ないでいるようだった。

そんな姿を見つけると紫月は一瞬切なそうに瞳を細めて、ゆっくりと紅月の腰掛けている隣へと

腰を下ろした。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





紅月は未だ言葉にならずにいて・・・・・

隣りにいながらして瞳を合わせないまま穏やかに話し掛けたのは紫月の方からであった。



「お前も此処に来てたんだ、、、、」

「紫・・・・・月・・・・・・・・・・・」

「どうして俺たちはあんなことしてしまったんだろうって、、、、考えに来たんだろ?」

「え・・・・・・・・?」

「何でだろうな、、、、あの日、、、高等部に入ったばっかりの頃、、、此処で俺たちは、、、、

何であんなことしたんだろ俺、、、、何であんなことになっちまったんだろう俺たち、、、、」

紫月はまるで子供ように頭を抱え込みながらそんなことを言ってはうな垂れていた。そんな様子に

紅月はようやくと不思議そうに紫月を振り返るとやっとの思いで言葉を口にした。

「紫月・・・・・この前は・・・・・・・・・」

「ん、、、、ごめんな、、、、、、、」



うな垂れていた頭をやっとの思いで起こしかけ、紫月は紅月の顔を見た。



「ごめんな、、、、こないだ、、、、

あいつ、、、怒ってなかった?氷川、、、だっけ?お前の、、、、、」

「ん・・・・・大丈夫・・・・・・僕こそ・・・・・・ごめんね・・・・・・紫月に酷いことした・・・・・・僕・・・・・・・」

「もう、、、いいよ、、、、、お互いさまだ、、、、、、、こないだは俺の方がよっぽど酷えことしたんだから、、、、」

「うんん・・・・そんな・・・・・・・・こと・・・・・・」

「なあ、、、紅さ、、、、、」

「ん?何・・・・・・・・・・・」

「お前、あいつのこと、、、、好きなんだ?、、、、、氷川のこと、、、、」



「・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あ、、、別にヘンな意味で言ってねえって、、、ただ、、、、どんなふうに好きなのか訊きたかっただけ、、、、」

「え・・・・・・・?どんなふう・・・・にって?」

「ん、、、だからさ、、、俺とあいつのどこが違うのかなって、、、、」



「紫月・・・・・・・・・・」



「え?ああ、、、ごめん。そんなこと訊いたって解んねえよな、、、、そうじゃなくて、、、、、

俺何言いたいんだろ、、、、、?」

言葉に詰まってしどろもどろになっている紫月を見て紅月は切なそうに瞳を揺らした。

何も言葉になど ならずに。

何も言葉など 見つけられずに。

2人はただ黙って肩を並べているだけだった。



「なあ、紅、、、、さ、、、、俺は解んねんだよ、、、、、自分がどうしたのかさ、、、、」

「紫・・・・・月・・・・・・・?」

「実際、、、お前のことを本当に好きで好きでどうしようもないのか、それともまだ俺は帝斗のことを、、、

想っているのか、、、、けど想っていたとしたって、じゃあこの先どうすりゃいいのかとかさ、、、、

何か全部がウソのようで全部が現実でないようで、、、、、正直どうしたらいいか解らねえんだよ、、、、

どうしたいのかも、、、、解らない、、、、、、」



「紫月・・・・・・・・・・・・・・・・

粟津くんとは・・・・・?何か話しとか・・・・・したの?」



「ん、、、、今あいつ出張だから、、、、、」

「じゃあ会ってないんだ・・・・・・」

「ん、、、、、」