CRIMSON Vol.69
ロビーの大きな柱に隠れて涙を拭い、中庭に見つけた帝斗の姿から逃げるように足早にその場を後にした。

こみ上げた感情が、帝斗から遠ざかる毎に苦笑いへと変わっていく・・・・

哀しい程に孤独の色を濃く映し出して・・・・・





は、、、、、んっ、、、、、、何だってんだ俺は、、、、、、

今更、、、、あいつに縋ろうなんて、、、、バカなことを思ったもんだ、、、、、

あいつを捨てたのは俺なんだから、、、、、

あの日、見送るあいつを此処に置いて紅月と帰ったのは俺なんだから、、、、

若い頃だって、、、、

まだ帝斗に逢う前のガキの頃からだって俺は紅月と一緒にとんでもない遊びに溺れて来たんだ、、、、

本当は、、、、最初から帝斗と幸せになる資格なんか無かったのかも知れない、、、、

だから俺は紅月と、、、、罪を舐め合いながら生きていこうって決めたっていうのに、、、、

あんな秘書なんかとっ、、、、、



紅月だって同じなのに、、、

紅月だって俺と同じことをしてきたのに何であいつだけ誰かに愛されたりするんだよ!?

あの秘書がよっぽど頭おかしいのか、、、、俺とあんなことをしてた紅月を目の当たりにしても

心ひとつ揺るがないって?

それ程紅月を愛しているとでもいうのかよっ!?

同じことをしてきたのに、、、、、

高校の頃からずっとっ、、、、同じように快楽をむさぼり合って溺れ合って堕落し合ってきたってのにっ、、、

なんで紅月だけは愛される資格があるってんだっ、、、、

俺だけが、、、、

汚いもののように思えて、、、、、

俺だけが、、、、

誰からも愛されず、愛する資格もないような気がして、、、、

辛いんだ、、、、





ふらふらと何処へ行くともなく紫月は歩いていた。

虚ろな瞳で彷徨うように、まるで放心しているかのような足取りで歩きながら、だがふいと腕を掴まれた感覚に

ぼうっとしながらもそちらを振り返ると、そこには売り出し中のロックバンドのマネージャー兼護衛役をしている

ビルが首を傾げて立っていた。



「おい紫月?大丈夫かお前ー?すごいフラフラしてたぞー、、、昼間っから呑んでんかと思ったぜ」

「あ、、、、?ああ、、、ビルか、、、、、大丈夫、、、何でもねえよ、、、、」

「何でもねえって顔じゃねえぜ?このとこずっとお前此処(プロダクション)に顔出してなかったみたいだからー。

皆、心配してたんだぜ?具合でも悪いのかー?そんな蒼っちろい顔しちまって!」

「んー、、、、何でもねえよ、、、、マジで、、、、平気、、、、」

突然訪れた現実に紫月の意識は急激に我に返ったかのように一生懸命ビルに話を合わせようなどとしていた。

柱にもたれ掛かりふぅーっと深く溜息をついて額に滲み出た汗を拭う。自分だけの妄想の世界から

いきなり現実感を目の当たりにしたせいか、気持ちの悪い冷や汗で髪が張り付く程になっていた。



「なあホントに平気?やっぱ具合悪そうだぜお前?そんな汗だくにして、、、」

心配そうに覗き込むビルの顔がふいと視界に入りきらない程に寄せられて、一瞬目眩のような感覚に

襲われた。

よく見ると目の前でぼうっと揺れている大きな胸元が目に入る・・・・・・

まるで何もかも受け止めてくれそうな大きな・・・・・





そう、、、この胸、、、、、

帝斗もこんな胸をしていた、、、、、

いつも俺が頬を寄せていられたあの空間

俺は帝斗の胸元に寄り掛かってるあの瞬間が好きだったんだ、、、、

すごく安心で、、、、やさしくて、、、いつも同じ甘い香りがしてて、、、、

ずっとあの胸は俺の居場所だったんだ、、、、

いつでも、、、どんなときでも俺を受け止めてくれるあの、、、、





再び妄想が紫月を包み込み無意識にビルの胸元に顔を埋める・・・・・

よろよろと寄り掛かるように胸元に崩れかかった紫月の身体を抱かかえるようにしたビルの耳に

信じられない言葉が飛び込んで一瞬不思議そうに紫月を覗き込んだ。



「おい紫月?大丈夫か、、、マジでお前、、、、?紫月?」

「なあ、、、ビル、、、、、」

「あ?なんだよ?具合悪いのか?我慢しないで、、、、」



「抱いて、、、、、」



「は???」



「だから、、、、抱いて、、、、抱いてくれよ俺を、、、、」

「ばっ、、、、!お前何言ってっ、、、、、」

「お前、、、オトコ平気だろ?向こう(ビルの生まれ故郷のアメリカのこと)にいた頃オトコの恋人いたって

言ってたじゃん、、、、だから、、、、、いいだろ?」

「何言ってんだバカッ、、、、そーゆー問題じゃねえだろって、、、おいー、、、紫月、、、」

ジタバタと焦る様子のビルの腰にしがみつき、未だ深く胸元にもたれ掛かったまま紫月は虚ろに瞳を

揺らしていた。



「なんで、、、ダメ、、、、、?俺のこと、、、、嫌いか?」



「バッ、、バカッ、、、、嫌いとかそーゆーんじゃねえって、、、、」

「そんなに、、、、、嫌、、、か?」

「い、、、いや、、、、嫌とかそういうんじゃ、、、、やっぱお前おかしいぜ今日、、、、

やっぱどっか悪いんだろ?だったら我慢しねえでちゃんと、、、、」

「だからっ、、、我慢しないで抱いてくれって言ってる、、、、、っ」



「紫、、、月?」



「いいっ、、、、、もう、、、、悪かったっ、、、、、、今の、、、忘れてくれ、、、っ」

紫月は乱暴にビルを突き放すとぎゅっと唇を噛み締めながら即座に逃げるようにその場を後にした。

「おいっ、、、紫月ー、、、、、」

小走りに去っていく後ろ姿に唖然と見送るだけしか出来ないでいるビルの瞳をほんの一瞬掠めた表情・・・・

酷く辛そうに何かに耐えるように、怯えるように傷ついた紫月の表情がズキンと心に突き刺さるようで、

ビルは心配そうに繭をしかめては小さくなった後ろ姿をずっと見詰めていた。