CRIMSON Vol.68
「どんな償いも覚悟の上です、、、、俺を、、、、、

俺に紅月さまを、、、、くださいっ、、、、、、紫月さん、、、、お願いします、、、、、」

白夜は再び紫月の足元に土下座をすると床に頭を擦り付けてそう言った。

そのまま身動ぎせずにただじっと同じ格好のまま床に伏せて・・・・・・





「ば・・・・・かじゃ・・・・ないのかお前・・・・・・・・・そんなことしたって・・・・・・ダメ・・・だぜ?

俺が・・・・・お前らのことを許すとでも思ったか・・・・・・・・・?

俺が・・・・・・何も知らないとでもっ・・・・・・・・・・

お前らが俺にしたことを・・・・何も知らないとでも思うのかっ・・・・・・・・

許されるとでも思うのかっ!」

ぽろりと紫月の頬を一雫の涙が伝わった。

それを隠すようにクルリと振り返ると一目散に部屋を飛び出して・・・・・



「紫月ーっ・・・・・・・・!」



紅月の掛けた声も耳になど入るはずもなく。

紫月は夢中で駆け抜けて行った。

後に残された紅月は目の前で頭を上げ、こちらを振り返った白夜を驚愕の瞳で恐る恐る見つめ返した。

申し訳なさと辛さと苦しさと哀しさと、そんなすべてが入り混じったような瞳が白夜を捉えては揺れていた。

言葉などは出る筈もないままに、ただただ愛しい人を見つめているだけであった。



「紅月さま、、、、、、」



穏やかな声が耳元を掠める。驚愕に怯えている紅月の肩先を白夜の腕が抱き締めた瞬間に

張り詰めた糸が切れたかのように大きな瞳からボロリと雨粒のような涙が零れて落ちた。

「白夜・・・・・・・・・僕はっ・・・・・・・・・」

「いいんだっ、、、、もう、、、、何も言うな、、、、、、、何も、、、、、

今は、、、、何も言わなくていい、、、、、、」

「紫・・・月は・・・・知っていたんだ・・・・・僕たちのことを・・・・・・きっと知っていたんだ・・・・

だからあんなふうに・・・・・・

僕はどうしたらいいんだ・・・・・・紫月と粟津くんの仲を裂いたのだって僕なのに・・・・・

紫月が怒るのは当たり前だよ・・・・・・僕は紫月に酷いことしたんだから・・・・・・

我が侭言って・・・粟津くんと別れさせて・・・・・なのに僕はお前に心変わりなんかして・・・・

お前と僕のことを紫月が知ってたんだとしたら・・・・・どんなにか紫月のことを傷つけたことだろう・・・・?

僕は・・・・・・

お前にも言えないようなことを・・・・・・・してしまったんだし・・・・・

この2週間・・・・・紫月とずっと・・・・・・・・

ずっと毎日・・・・・・・・・紫月と・・・・・・・・っ」

紅月はそこまで言うと胸を詰まらせたように後は言葉にならなくなってしまった。

泣き崩れ、途方にくれ、取り乱して。



「ご・・・めんなさい・・・・・・白夜・・・・・・ごめん・・・・・・・・・」



「いいっ、、、、、解ってる、、、、、全部、、、、解ってるから、、、、、、

何も、、、、言うな、、、、、、」

だが白夜も又、どうしようもならない切なさに苦しむように瞳を揺らしながら言葉にならない紅月の

云わんとしていることを受け止めようとしていた。

互いの罪を慰め合うように手を伸ばし相手に触れ、傷ついた心を癒そうと涙を流して・・・・・

ぎゅっと強く、苦しいくらいきつく、抱き締め合って雨粒のような紅月の涙は止め処なく

白夜の広い胸を濡らして止まなかった。















紅月と白夜が切なさを噛み締めながら抱き合っている頃、紫月が無意識に向かった先は

やはり自分たちのプロダクションであった。

帝斗と共に築き上げたその場所−−−−−

まるで癒えない傷を包んでくれる最後のより所だとでもいうようにふらふらと向かったその場所。

普段から人形のように美しく透ける肌と珍しい褐色の瞳が一段と薄く光に透けて儚げにさえ感じられる。

ふらふらとプロダクションの中を歩く姿は、まるで今の紫月の心の内を表しているかのようであった。





帝斗、、、、、、、、帝斗は、、、何処だ、、、、、?

何故、、、、俺は独りなんだ、、、、

俺の隣りには、、、、此処(プロダクション)を歩く俺の隣りにはいつだってあいつがいたのに、、、、、

いつだって、、、、、

俺を包んでくれたあたたかい存在を感じていられたのに、、、、

俺は幸せだったのに、、、、、





朦朧と視点さえ定まっていないような瞳の先に映り込んだ姿にハッとしたように立ち止まる。

ロビー越しの中庭に、誰かと打ち合わせでもしているのだろうか?書類を携えながらにっこりと微笑む

懐かしい笑顔を見つけて思わず涙が零れそうになった。

陽に透けるやわらかな金の髪、自分よりはほんの少し華奢であるだろう肩先の、そしてそのやわらかな

物腰しが懐かしくて愛しくてどうしようもない感覚に駆られた。

今すぐに駆け寄り抱き締めてしまいたい・・・・・・

今までのすべてのことを無かったことにして、あのやさしい胸に顔を埋めて甘えてしまいたい・・・・・

今までの抗えなかった運命も、

抑えきれずに流された欲望にも、

他人を傷つけた自分の卑しい行動にも、

何もかもすべて洗い流せるのならば・・・・・・飛び込んでしまいたい・・・・・・・!

もう一度あのやさしい瞳で見詰められてみたい・・・・・

穏やかな声で名前を呼ばれてみたい・・・・・

そんな想いが止め処なく溢れて、紫月の頬を濡らしていた。