CRIMSON Vol.66 |
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「何か用かって訊いてる。ぼうっとしてないで何とか言ったら?」
ゆるりゆるりと歩み寄りながら紫月は唇から軽い笑みを漏らしていた。
紅月は硬直したままベッドから起き上がることさえ出来ずにいる。その瞳は涙さえ出せないままで
凍りついていた。
白夜は次第に近付いて来る紫月の姿を呆然と捉えたまま、やはりその場に硬直したように立ち尽くしていたが、
次の瞬間ガクリと腰を折るといきなり紫月の前で土下座をしてみせたのだった。
そんな様子にさすがに紫月は意表をつかれたのか、一瞬驚いたように立ち止まった。
けれどもすぐに再び、その唇に笑みを取り戻すとやはり信じられないような言葉を口にした。
「そんなことをして、、、何のつもりだ?見せ掛けだけの騎士気取りはよせよ?氷川、、、だったっけあんた?」
「紫月さんっ、、、、私はっ、、、、、
あなたに何と言われても構いませんっ、、、、、ただこれだけはお伝えしておかなければならないとっ、、、、」
「お伝え? 、、、、って俺に?何を?」
紫月は半分見下げるように未だ床に頭をこすりつけるようにしている白夜にそう投げ掛けた。
「紫月さん、、、、私は、、、、
私は紅月さまを愛していますっ、、、、、ですからっ、、、、、」
その言葉に紫月は一瞬言葉を止め、しばし3人を沈黙が押し包む。
異様に緊張した雰囲気に白夜の肩先が僅かに震えているのを見てとると、紫月は意外にも
穏やかに言葉に投げ掛けたのだった。
「愛してるの、、、、?紅月を?」
「紫月さん、、、、、、はい、、、、おっしゃる通りです。俺はずっと紅月さまのことを、、、、、
秘書であった頃からずっと、、、、、
ですからっ、、、、、、いつかはあなたにお話しなければと思っていました、、、、」
「ふうん、そうなんだ?君が紅月をね?
まあいい。想うのは自由さ。俺には関係ない。君が紅月をどう想おうが?でもね、、、、
紅月はどうかな?
紅月の意見も訊かなきゃ。そんなことは俺に云うより紅月本人に云う方が先なんじゃないか?
何で俺に云うわけ?そんなご報告ーみたいな感じでさ?それに、、、、何で土下座なんかしてるのさ?
今の君の態度ってまるで紅月と君が想い合ってるみたいに聞えるけど?」
「ですからそのことをっ、、、、、私と紅月さまのことをはっきりとあなたにお伝えしなくてはと
思っておりました、、、、」
「君と、、、紅月のことー?」
「はい、、、、私たちはお互いに想い合っています、、、、、」
白夜は覚悟を決めたようにきっぱりとそう言い切った。それを聞いた紫月はしばし呆気にとられたように
ぼんやりと首を傾げていたが、少しして又口元に笑みを浮かべると、今度は硬直している紅月の方へ
向き直るとそちらへと歩み寄った。
そしてベッドの上に彼を起こし上げるように後ろ側から背中を支えると、土下座をしている白夜の方に
向かせて自分たちはピタリと身体を寄せ合って見せた。
「ねえ、、、氷川くん?だったら今訊くがいいよ。紅月に君の気持ちを伝えてあげるから。」
そう言うと支えていた紅月の耳元に内緒話のように唇を寄せて、わざとベタベタと頬をすり合せたり
しながら言った。
「紅月、聞いたろ?氷川君はお前のことが好きなんだそうだよ?
どうする?
お前はどうなの?
はっきり答えてあげた方が彼の為だよ?もしも、、、、」
言いづらいなら僕が代わりに断ってあげようか?
ひっそりと耳元でそう囁いた。
そんな紫月の様子に紅月は当然のように硬直したまま声も出せずにいる。
白夜は相変わらず土下座したまま紫月紅月の2人と対峙し、だが本当に最悪だったのは
未だ紅月を襲っていた身体の変調であった。
先程紫月がローズティーに仕込んだ媚薬の効果が、抜けるどころか加速するように高まってしまって
いるらしく、だから耳元で唇を寄せられたりちょっと肩先に手が触れられたりしただけで
ビクリビクリと腹の底から掬われるような性の欲望が湧き上がる。それらを必死に抑えながらの
この状況下は紅月にとっては残酷この上ないものであったのだ。
思考能力は低下し、欲望には流されてしまいたくなり、いわゆる、すべてがもうどうでもいいとさえ
思えるようになリかけていた。
そしてそんな様子を重々理解している紫月が彼を後ろ側から支えながらうれしそうに
微笑み抱き締めていたのだった。
「ねえ紅?氷川君の気持ちは有り難いけれど、、、だからって変に気を使うとかえって彼が気の毒だよ?
ちゃんと断ってあげるのも思いやりってもんだろう?」
「紫・・・月・・・・・・・僕は・・・・・・・・・・・」
ようやくの思いで口を開き紅月は必死に何かを云おうとしていた。
「紫・・・月・・・・・・・・ごめんね・・・・・僕は・・・・・・・・っ白夜の言うように」
覚悟を決めたように紫月を振り返り、胸の内を告げようとした瞬間−−−−−
又しても内緒話のように耳元にぎゅっと唇を押し付けられて囁かれた言葉に、紅月は二度と言葉に
ならない程驚き、そのまま身動ぎひとつ出来なくなってしまった。
「ねえ紅、、、、お前の愛してるのは俺だけだよな?
まさか、、、、、
まさか帝斗との仲を裂いてまでして俺を取り戻したお前があいつに気移りしたなんてことは
あるわけねえよなあー?」
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