CRIMSON Vol.65 |
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「お茶が入ったから、、、、一緒に飲もう、、、、最後の我が侭だ。聞いてくれよ、、、、、、」
そんなふうに言う紫月に申し訳ない気持ちで胸が締め付けられた。
紅月は呼ばれるままに紫月の隣りへと腰を掛け、差し出されたティーカップを口にした。
切ない思いが込上げてくる・・・・・・
どうしようもない気持ちに駆られながらかつて彼を想い、願いを込めて育てた紫の薔薇の茶が喉に沁みて・・・
紅月は涙が込み上げてくるのを必死で抑えるようにカップの中の茶を飲み干した。
そしてしばらくの後、隣りにいた紫月は遠慮がちに紅月の肩先に寄り添うと又しても力無い口調で
申し訳なさそうに口を開いたのだった。
「ねえ紅、、、、もうひとつだけお願いがあるんだ、、、、、、聞いてくれるか?」
切ない声に紅月はたまらなくなって・・・・・
「な、何・・・・・紫月・・・・・・何でも言って・・・・・・何でも・・・・・・」
ついには堪え切れずに涙が零れて落ちた。
「ん、、、、最後に、、、、キスしたい、、、、、お前と、、、、、、もうこれっきりだから、、、、
約束するから、、、、最後のキスをさせて、、、、、、お願いだ紅、、、、、、」
「紫月っ・・・・・・紫月・・・・・・・・・」
高まった感情のままに唇を触れ合わせれば切ない思いに全身を電流が貫くような衝撃的なものとなり
紅月を押し包んだ。
まるで今生の別れのようなそのキスはそのとき紅月の気持ちを一瞬白夜から引き離した程で、
切なさ故、どうしようもならない哀しさ故に僅かずつだが深く重なり合う唇の感覚に、ゾクリゾクリと背筋が
震えた。次第に湧き上がる腹の底から掬われるような感覚が、まさか紫月がローズティーに仕込んだ
性の欲望を引き出す媚薬の効果であるなどとは想像のつくはずの無い紅月には、湧き上がった欲望の
感覚でさえ酷い罪悪感を伴わずにいられなかった。
けれどもどんどんと大きくなる欲望に抗えないでいるのも辛い事実に他ならずに。
もうすぐ白夜がやって来る・・・・・
こんなことをしてちゃいけないんだ・・・・・・・
ああだけどっ・・・・・・・・!
荒くなる吐息に互いに興奮していることを認識し合って、気が付けば熱い肌が重なり合っていた。
脱ぎ捨てられただろうシャツがいつの間にか床に放り出されている。髪は乱れ、頬は染まり、
吐息は熱く交叉する。
目の前の現実が現実ではないような感覚に陥っていくのは薬の効果なのだから逃れようが無かった。
ただ紅月が知らないというだけで。
身体は熱を持ったように火照り、急激に湧き上がった性の欲望は抑えようもなくて、流されるように
進んでしまう。
思考能力は低下する。
頭が追えることは早く欲望を解放したいということのみであった。
虚ろな瞳で求めるような表情になっている紅月の様子に薬が効き始めたことを見てとると、紫月はうれしそうに
にやりと微笑み、紅月を打ち砕く最後の言葉を口にした。
「お願い、、、紅、、、、、最後だ、、、、、これで本当に最後だからっ、、、、、
お前を諦めるから、、、、、最後に一度だけ、、、、、お前を、、、、抱きたい、、、、、
お願いだ紅、、、、、、これで本当に最後だからっ、、、、、、」
熱くしがみつく腕を首筋にまわしながら紫月は切なげにそう懇願した。
最後だから。諦めるから。これからはお前の幸せを願っていくから。
そんな言葉の数々は紅月を追い詰めるのにはひとたまりもなかった。たとえ薬など使わずともこのときの
紅月の精神状態からするならば、恐らくは情に流されてYESと云ったに違いないだろう。
我が侭で素直過ぎる故に情にほだされやすい性質の彼がかつて紫月を追い求め、白夜に奪われいつしか
恋をして、という経過は、ある意味で自然の成り行きだったのかも知れない。
だから人を傷つけることも多かった。
思慮に浅い、という程の愚かなものではないにしろ思ったまま行動が伴ってしまう彼特有の抗えない
波乱な人生は運命とでもいうべきであろうか?すぐそこまで近付いていた白夜の足音と気配を
最早感じ取ることさえも出来ない状態の紅月の視界に映り込むのは憂い顔で自分を見つめる
紫月のみであった。
思い出が交叉する−−−−−
若き日に求め合ったあの気持ちが蘇る。
永い間追い続けた苦しみの気持ちも一気に思い出されて。
そんな気持ちを煽るかのように紫月の言葉が拍車をかける。
欲望を引き摺り出して・・・・・・・
「愛してる紅、、、、、お前だけ、、、、お前だけ、、、、、、
だから言って。お願いだ紅、、、、、お前も俺を愛してるって、、、、、、
最後だから、、、、それだけ聞かせて、、、、、
少しでも俺を想ってくれた日々が嘘でないなら、、、、言って。
お前も俺を愛していたのだって、、、、、最後にそう思わせてくれないか?」
涙と吐息混じりにに耳元で繰り返し囁かれるそんな言葉に紅月の瞳からも大粒の涙が零れて落ちた。
身体は薬物に煽られて高められ、心は紫月の言葉に惑わされて止め処なく・・・・・・
すべてが抑え切れずに紅月は紫月の望んだ通りの言葉を口にした。
すぐそこに白夜が到着しているとも気付かずに。
カタリと人の気配と共に扉をノックする音に紫月はチラリとそちらに視線をやった。
腕の中の紅月は最早完全に薬物のまわった状態で、これ以上ない程に絶好の機会であった。
「紅月さま?入りますよ?」
遠くにそんな声が聞え扉の開かれる音がした・・・・・・・
それだけ確認すると紫月は再び強く腰を振り、くちづけをし、高まった紅月をいよいよ解放へと導いた。
とびきり甘い声で耳元を刺激して・・・・・・・
「愛してる紅っ、、、、、誰にも渡したくない、、、、本当は誰にもっ、、、、、、
こんなに愛してんのに、、、、、どうしてお前は分かってくれない?どうして俺を捨てようなんて思うんだ、、、、
こんなに愛してんのにっ、、、、、、紅っ、、、、、、!」
「紫・・・・・・・月っ・・・・・・・・・・紫月・・・・・・・・」
「紅、、、、何か言って、、、、、、何でもいいからお前の声を聞かせて、、、、何か言って、、、、、、、、
俺を愛してるって、、、、、、、、言って、、、、、」
「んんっ・・・・・・・紫月ー・・・・・・っ・・・・・・もう・・・・だめ・・・・だ・・・・・・・
いきそう・・・・・・・・・・もう・・・・我慢できない・・・・・っ・・・・・ああー・・・・っ」
「なら一緒にいこう、、、、、、だから言って。イクときに、、、、、
俺を愛してるって、、、、、言いながらイッて、、、、、」
「紫月・・・・・・・・・・・・
愛してる・・・・・・・僕はお前を・・・・・・・・・・好きだった・・・・・ずっとずっと・・・・・・・好きだった・・・・・・
お前だけを・・・・・・・」
愛してるんだ−−−−−−−−
「本当にっ・・・・・愛してる紫月っ・・・・・・・僕はお前を・・・・・・・」
だからもう・・・・・・イカせて・・・・・・
「ああー・・・・・・・っ!」
ほとばしる汗と乳白色の欲望の欠片が解放されても、その余韻を求めるように紫月は揺らし続けた。
ゆっくりと、ゆっくりと、やさしく揺さぶり続けて・・・・・・・
荒かった呼吸が落ち着くまでゆるくゆるく揺らされながら、ふと振り返ったその先に身動ぎ出来ずに
立ち竦む男の姿がぼんやりと映し出された瞬間に、紅月の瞳は硬直してしまった。
そこには自分を、いや自分たちを見つめながら呆然としている白夜の姿があって・・・・・・
「びゃくや・・・・・・・・・・・・・」
それから先は言葉になどなるはずも無く、だが紫月は格別慌てた様子もないままにゆっくりと白夜へ
視線を投げ掛けると、繋がっていた紅月の秘境からズルリと自身の男根を抜き取って見せた。
まるで欲望の痕跡(こんせき)を見せ付けるようにさらけ出して。
そんな様子にも驚き言葉にならない紅月はベッドの上で動くことさえ儘ならず、硬直したまま放心状態の
ようになっているのが精一杯であった。だが紫月は酷く落ち着いていて、それはまるでこうなることを
分かっていたようでもあるようで、瞬時に訪れた残酷な状況を理解するのは紅月にとっては
全くと言っていい程不可能であった。
紫月はゆっくりとローブを纏うと、ふいとベッドから降りて立ち尽くす白夜の方へと歩み寄った。
額に掛かるヘーゼル色の髪を掻き揚げながら腰紐を整える、不適な程に落ち着き払いながら
見繕いを終えると平静な声で信じられない言葉を口にした。
「なんだ、、、、君、、、、、?いきなり失礼じゃないか、、、、、、
せっかく僕達兄弟が愛し合っていたっていうのに、、、、、、何か用なのか?」
その言葉に硬直していた紅月の瞳は完全に凍りついたかのように動かなくなってしまった。
間に立つ紫月の姿を挟んで互いを見つめ合う白夜と紅月は瞬時に氷結したかのように時がとまった。
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