CRIMSON Vol.63
僕には愛してるひとがいる−−−−−





紅月のその言葉に紫月は不思議そうに瞳を揺らしていたが、やがてくすりと微笑むと楽しそうに

声を上げて笑い出した。

「あははは、、、、、やだな紅ったら、、、、、そんなこと言わなくたって分かってるよ。俺も同じだよ?

お前のこと誰よりも愛してるから!ふふふ、、、、案外照れ屋なんだな紅は?」

まるで意味を理解しているのかいないのか、又もやはぐらかされそうになってさすがに紅月はカッと怒りの

気持ちが込み上げたのか、ついぞ耐え切れずに本当のことが口をついて出た。





「はぐらかすなよ紫月・・・・・・・・・僕は・・・・・・本当に好きなひとがいるんだ・・・・・・・っ

お前には黙ってたけど僕は白夜をっ・・・・・・・」





「白夜、、、、、、、、?」





その名前に微笑んでいた紫月の瞳が一瞬で色を失くした。

まるで別人のように表情は凍りついて・・・・・・

そんな様子にさすがに紅月はビクリと背筋が寒くなるのを感じた。



「ご・・・・ごめんね紫月・・・・・・ずっと言おうと思ってたんだ・・・・・・・

好きなひとがいるんだ・・・・・・お前も知ってる・・・・・・・前に秘書をしていた白夜と僕は・・・・・・・」

「白夜って、、、、、お前に酷えことしたあの野郎のこと、、、、、、?

なんで、、、、、、紅、、、、、、お前何言ってんだよ、、、、、、?」

「うん・・・・・・・ごめん・・・・・・・・・・確かに白夜は酷いことをしたこともあったんだけど・・・・でも・・・・・

もっと早くに言うつもりだったんだ・・・・・・・・僕は・・・・・白夜と愛し合って・・・・・・・」

「愛し合って?」

「うん・・・・だから・・・・・・紫月に言わなきゃって・・・・・言って・・・・・・・ちゃんと謝って・・・・・・」

「謝って、、、、、、何だよ、、、、、、?俺を捨てるっていうのか?」

「違うっ・・・・・・捨てるなんてっ・・・・・・・そんな・・・・こと・・・・・そんなんじゃなくて・・・・・」

「何が違うの、、、、、、?お前、、、、どうかしてるぜ紅、、、、あんな酷い鬼畜野郎のことなんかっ、、、、

何か脅迫でもされてんじゃねえのかっ!?」

「ちっ・・・違うよ・・・・脅迫なんてそんなっ・・・・・白夜はそんな奴じゃないんだっ・・・・

本当に僕と愛し合ってて・・・・・・」

「愛し合ってて、、、、、?本気で言ってんのか、、、、、、?

そいつのこと愛してんの?俺より、、、、、愛してる、、、、、?」

そっと紫月の手が伸ばされて頬に触れる・・・・・

軽く軽く指先が肌を撫で、、、、、紅月は耐え切れずにぎゅっと瞳を閉じ俯いた。

言い知れぬ恐ろしさが沈黙を包み込む、、、、、、

今にも殴られそうな張り詰めた痛みが全身を伝う、、、、、、

いたたまれずに床に土下座をしてひれ伏そうとした紅月の行動よりも一瞬早く、紫月の頬に涙が伝わるのを見て

愕然とその場に凍りついてしまった。





「紫・・・・・・・月・・・・・・・・・・?」





無言のままで自分を見詰め、白い頬には涙が伝わってはベッドに落ちる。

紅月はそんな様子に酷く驚くと共に、しばらくは言葉さえも出せずにいた。



「紅、、、、、、、、?嘘だろ紅、、、、、、、、、、

お前が俺以外のヤツをなんて、、、、、、そんなの、、、、嘘だよな、、、、、?

俺を捨てるなんて、、、、、冗談だよな、、、、、?他の誰かのとこに行くなんてっ、、、、、

離れて生きるなんてっ、、、、、、、、、」

紫月は縋るように紅月にしがみ付くと声を上げて泣き出してしまった。

「そんなのっ、、、、、、嘘だって言えよ紅っ、、、、、、、俺は嫌だからなっ、、、、、

お前と、、、、、せっかく結び合えたっていうのにっ、、、、、、、これからはっ、、、、

絶対に離れないで生きて行こうって決めたじゃねえかよっ、、、、、、ずっと二人で愛し合っていこうってっ!」





約束したじゃねえかよっ、、、、、、!」





「紫月・・・・・・・・・・・ごめん・・・・・・僕が・・・・・・悪いんだ・・・・・・・・・・

悪いのは全部僕だから・・・・・・・・・っ」

「嫌っ、、、、、、嫌だよ紅っ、、、、、お前を失うのは、、、嫌っ、、、、、、、

嫌だ、、、、、、お前を愛してるんだからー、、、、、、、俺はっ、、、、、、」

気が違ったように、或いは子供のように泣きじゃくり、声を上げて泣き叫び、、、、、

どれくらいそうしていたのだろう?紅月にはこの紫月の反応が信じられずにいた。

まさかそんなに深く自分を想っていただなどとは想像もつかない現実だった。

そのままずっと縋りつき、泣きじゃくり、寝乱れたようなベッドの上で紫月は紅月に縋りついたまま朝を迎え、

紅月も又その胸中を信じ難いような複雑な思いでいっぱいにしていた。





それからの紫月はまるで魂が抜けてしまったように呆然としていた。まるで放心状態とでもいうように

言葉数は少なく、ただただ無言で紅月に寄り添ってだけいるのだった。

それは無心の子供のようであり、無意識にしがみ付く掌の強さからは、まるで自分を捨てないでと

いったような必死さまでもが感じられて、紅月は酷く戸惑ってしまった。

ずっと自分の胸に顔を埋める紫月はただおとなしくて、あれ以来何をも言葉にしない。

そんな状態がずるずると一週間も続けば紅月の心はどうしようもない焦燥感で追い詰められていった。

早く白夜にも連絡をしなければならない・・・・・

けれどもこのまま自分から離れようとさえしない紫月を置いて行くことも出来ない・・・・・

次第に大きくなる焦りに深く溜息の出る日々は悶々と過ぎていくだけで・・・・・

だがそんな心の内を嘲笑うかのように、紫月は紅月の胸の中で薄ら笑いを浮かべていたのだった。





く、、、、ははは、、、、、、、、

紅、、、、苦しんでいるようだね?でも自業自得さ。だって全部お前が悪いんだから、、、、

今更俺が邪魔になったからってそうは思うようにはさせねえぜ、、、、、

じゃあそろそろ最後の締め括りといこうかな?

お前にとってこれ以上ねえってくらいの打撃をプレゼントしてやるよ紅、、、、、

俺に抱かれて悶えるお前の姿をあいつの前で見せ付けて、、、、、な?





そんな妄想に紫月はくすりとせせら笑いを漏らすと、ふいと顔を持ち上げて憂い顔の紅月に縋りついたまま

甘えた声を出してみせた。