CRIMSON Vol.61 |
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「ね、ねえ紫月・・・・何処へ行くの?」
割合早いスピードで高速を駆け抜ける紫月の車の助手席で、不安そうに紅月はそう訊いた。
突然に出掛けないかと誘われて半ば強引に引き摺られるようにして車に押し込まれたまま、
何時間が経過したのだろう?
あの晩、結局は何も言い出せないままに紫月に無理矢理交わりを強いられて紅月の心は焦燥感と
不安で大きく揺れていた。
早く紫月に言わなければ・・・・・
白夜とのことをきちんと報告して謝って、そうしたら・・・・・
そんなことを考えながら先程からずっと質問の答えをはぐらかされたまま、紅月は黙って俯いていた。
早く言わなきゃ・・・・
あれからもう何日になるだろう?きっと白夜だって心配して自分が訪ねるのだけを心待ちにしているだろう。
だから早く紫月に事実を言って謝って・・・・・
紅月の頭の中はそのことだけでいっぱいになり、苦しそうに瞳を歪めては膝に置いた手が僅かに
震えていた。
そんな様子を横目にちらりと映しながら紫月の方はうれしそうに口元を緩めていた。

「紅!着いたよ。見ろよほら!すごい綺麗だぜ?」
重苦しい気持ちのまま連れられて行ったその部屋で、窓からの景色を覗きながら紫月はとびきり明るく
そんなふうに声を掛けた。
「紫月・・・・・・此処・・・・・・・・・」
見慣れない土地の見慣れない部屋。高級旅館のようなその建物は客室が一個一個林の中に
隔離されていて、窓からはプラベートガーデンのような湖が見えていた。
その他はまるでひと気は無く、客室へ案内された従業員でさえ自分たち、つまりは客の顔を見ないように
教育されているのか、完全にプライバシーの確立したといえば聞えはいいが、言い換えるならば
まるでそこは現実と隔離されたような空間であった。
そんな様子にも紅月は不安そうにきょろきょろと部屋の中を見回しては怯えたように紫月の顔色を
窺っていた。
あれ以来何か話そうとしてもいつもするりとかわされて結局は何も言えず、あまりにも明るくて
自分の言うことをまるで聞いていないような様子も酷く気になっていた。
紅月は思い切って紫月に話し掛け、けれどもその後に飛び出したとんでもない言葉に思わず顔が
蒼白となった。
「ねえ紫月・・・・・・何で此処へ来たの・・・・・・?此処は何処なんだ・・・・・」
弱々しいその問い掛けに紫月は相変わらず明るそうに微笑むと、側へ歩み寄ってふいと紅月の身体を
抱き締めた。
しっかりと腰に手を回し、ぴったりと身体を重ねるように抱き締めて、、、、、
「此処、素敵なところだろう?たまにはお前と二人だけでゆっくり旅行でもしたいなあって。
俺一生懸命調べたんだぜ?宿取るの、苦労した!」
「旅行って・・・・・・此処に泊まるの?」
「そう、此処ってな、お忍びでお偉いさんがやって来るくらいプライベートがしっかりしてるって。
だから誰にも邪魔されねえし二人だけで愛し合うには最高だと思って。
ずっと忙しかったから、たまには、、、さ?」
「う、うん・・・・・それは・・・・・うれしいな・・・・・・・でも・・・・・」
僕お前に言わなきゃいけないことが・・・・・
「そうだろ?よかったよ紅、、、、お前何かこのとこ沈んでるようだったからちょっと心配してたんだ。
うれしいって言ってもらえて安心したよ!今日から一ヶ月二人だけでゆっくりしよう、、、、」
その言葉に思わず驚きの声がついて出た。
「一ヶ月っ!!?」
瞬時に紅月の顔色が驚愕に沈んだのを見てとると、紫月はうれしそうににやりと微笑んだ。
「そう、、、一ヶ月、、、、思いっきり愛し合おう、、、、、誰も邪魔する奴はいない、、、、、
此処には誰も来ない、、、、、
誰も、、、、、、、知らない、、、、、、、」
ふっと自分を抱き竦めた紫月の瞳がほんの一瞬にやりとしたような気がして、その雰囲気に紅月は
思わずぞっと背筋の寒くなる思いに駆られた。
まさかっ、、、、、!!?
紫月は知って、、、、、?
一瞬浮かんだ想像に全身の力が抜けてしまうくらいの焦りが貫いたが、すぐにそれらを否定するように
紅月は自身の気持ちを鎮めようと必死になった。
そんなこと有り得ない、、、、、、
そうさ、僕が白夜のところに逢いに行っているときは紫月はレコーディングで缶詰めだったのだから、、、、
そう、、、そうだよ、、、、、
知っているなんて、、、、有り得ない
僕が後ろめたいからそんなふうに思うだけだ、、、、
落ち着け、、、、、、
それに考えようによっては二人だけでゆっくり出来るこのときが話をするにはいい機会じゃないか、、、、
何も、何処も行くとこもないんだし、、、、、この機会にちゃんと僕の気持ちを紫月に言って、、、、
そうだ、、、、、そうすれば、、、、、
紅月は自身に言い聞かせるように心の中でそんなことを繰り返していた。
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