CRIMSON Vol.2
「遅くなっちまった!倫 もう来てるかなあ?」

「そうですね、ひょっとするともう部屋に、、、あ、来てるかな?」

僅かに開かれたプライベートルームの扉を見てくすりと微笑んだ帝斗は一歩部屋へ踏み込んだ瞬間に

我が目を疑った。

身体は硬直したように踏み出した足さえも空で止まってしまう程驚いて。

「どうした帝斗?」

その様子に不思議そうに中を覗き込んだ紫月も又大きな褐色の瞳に飛び込んできた光景に

絶句する程驚いて、前に立ち止まってしまった帝斗の肩につかまる程に衝撃を受けた。






「り、、倫、、、、、?」






そこには衣服をすべて剥ぎ取られ、全裸にされた倫周が長い茶色の髪をぐちゃぐちゃに乱したまま

リビングの床に身体を丸めて横たわっていた。

すぐ側には引き裂かれたような服の破片があちこちに散らばっていて・・・・



「倫っ・・・倫っ・・・・どうしたお前っ・・・・何があったっ・・・・・・」

夢中で放り出されたように横たわる細い身体を抱き上げた紫月はその美しい顔に広がる

真っ赤な痕を見ると再び蒼白となった。

まるで何度も張り手をくらわされたように綺麗な頬は腫れ上がり、まだ少年のような唇からは

うっすらと血までが滲み出していた。





「倫っ・・・りっ・・・・・」





「なっ、、、なんでこんなっ、、、一体誰がっ、、、!?」

帝斗も駆け寄って2人でこの異常事態に驚愕の思いでいっぱいに見詰め合った瞬間に

大きな帝斗の社長席の椅子に腰掛けていた人物が突然に可笑しそうな笑い声を上げた。















「ふっ、、ふふっふふっ、、、、ひさしぶり。」



・・・・・・・・・・・・・!??



くるりと回転椅子を回してこちらを向いた人物を確認した瞬間に紫月の大きな瞳は闇色に翳りを見せた。



「兄貴・・・・・・」



「元気そうじゃない紫月ちゃん?何て顔してんだ。折角久し振りに会えたっていうのにさ?」

じりじりとゆっくりとにじり寄るように歩を進める、そんな様子に紫月は更に顔色を真っ青にしながら

がくがくと震えるように後ずさりした。





「なっ、、にしに来たんだよ、、、、あんたが倫をこんなにしたのか、、、?」

「酷え言い方だなあ・・紫月ちゃん。俺に向かって”あんた”ってこたあねえだろ?」

「なっ、、ふざけんなよっ!何しやがったっ、、てめえっ、、倫をどうしたんだよっ!!?」

紫月は意を決したように大きな褐色の瞳を カッと見開くと兄と名乗る男の胸倉を掴み上げて怒鳴り散らした。

だが兄のほうは格別慌てる様子もなさそうに、少々薄ら笑いのような笑みを浮かべるとまるで降参します、

といったように両腕を上げて見せた。








「紫月」








たったひと言そう呼んで、冷たいまでに見据えられた紫月と同じ褐色の瞳が微動だにしない、

一度の瞬きもないままに食い入るように見つめられて・・・







「来いよ。」

紫月は掴み上げていた胸倉をぐいっと離すと兄を睨みつけるようにしながら

地下室へ続くエレベーターへと歩いて行った。

「帝斗、悪いな。倫を頼んだぜ。」

低い声で、消え入りそうな声でそれだけ言うと紫月は兄と名乗る男と共に地下室へと向かってしまった。

そんな後ろ姿を不安げに見つめる帝斗の心も又、激しく掻き乱されるように揺れていて。





あんな紫月さん初めて見る・・・兄貴って・・・・いったいあの人は・・・・





目に見えない暗雲が急速に広がりを見せるように足元が掬われそうな程心配になって、だがしかし

目の前に悲惨な姿で横たわる細い身体も又心配で帝斗はしばらく大き過ぎる不安に目線を泳がせていた。





「て・・いと・・・・・?」





地下室へのエレベーターの階数表示を食い入るように見つめていた自身の胸元で発せられた掠れた声に

帝斗は はっとしたように意識を取り戻した。





「倫っ、、、!気が付いたかっ!?大丈夫かっ、、、」