CRIMSON Vol.55
「え・・・・・!?」





「帰ってくれって言った、、、、、」

「帰れって・・・・・・・ど・・・して・・・・・?

どうして・・・白夜・・・・・僕何か悪いことでも言った・・・・・・・?」

恐る恐るそう訊いた。だが白夜は辛そうに下を向いたまま何をも言おうとしなくて・・・・・

「ね・・・・白夜・・・・・・・迷惑だった・・・・・・・?勝手に・・・・・押しかけて来て僕・・・・・・・・」

紅月も又ショックを隠せないといったようにそう訊いた声を震わせていた。

しばらくそのままで互いに何も話せずに、動くことも出来ずに。



「すみません紅月さま、、、、、失礼をお許しください、、、、、でも、、、、

ごめんなさい、、、勉強がありますので、、、、今日はもう、、、、、、」

「そ、そうだな・・・・・ごめんね・・・・気がきかなくって僕・・・・・・・自分が休みだから・・・・つい・・・・・・」

紅月は慌てて立ち上がると急いで玄関口まで行き、済まなそうに頭を下げた後、それでも恥ずかしそうに

俯きながら微笑んだ。

「白夜ごめんね・・・・・じゃあこれで帰る・・・・・・・・・」

「すみませんでした、、、、俺の方こそ、、、、、お気をつけて、、、、、」

「うんありがと・・・・・・あのさ・・・・・・・

あの・・・・・又・・・・・・・・来てもいい?

あ、あの迷惑じゃなかったら・・・・・・今度の休みとか・・・・・そ、そんなに長居しないからっ・・・・・」

頬を染めながらそう言った。



「紅月さまっ、、、、、、」



だが少し照れながらはしゃいでいた紅月の心を一瞬で凍りつかせるような言葉を白夜は放った。

「紅月さま、、、、、もう、、、、此処へは来ないでください、、、、、、もう、、、、、」

「え・・・・・・?」



「、、、、、、、、、、、、、、、、、」



辛そうに瞳を歪めたまま白夜は唇を噛み締めていた。無言のまま俯いて・・・・・・

「もう・・・・来ないでって・・・・・・・やっぱり・・・・・迷惑だった・・・・・・・・・・?僕・・・・・・・」

紅月も又拳を握り締めながら白夜よりも僅かに低い位置でその肩を震わせていた。



「そ・・・・そうだよな・・・・・・・迷惑だよな・・・・・・・・

だって・・・・お前は僕のもとを離れて行ったんだったものね・・・・・・・秘書を辞めて・・・・ひとりになりたくて・・・・

僕と離れたくてっ・・・・・・なのにっ・・・・・

僕が又訪ねて来たりなんかしたらそりゃ迷惑だよねっ・・・・・・・・」

震える声でそう言って、俯く頬に一筋の涙が伝わった。

「悪かった・・・・・・・・・白夜・・・・・・・もうっ・・・・・・・・来ないからっ・・・・・・・・

二度とっ・・・・・・来ないっ・・・・・・・・」

振り向きざまにドアを開けたとき、紅月の瞳から溢れ出た涙が空を切って白夜の頬を掠めた。

一目散に階段を駆け下りて行く足音が耳に痛い、、、、、

白夜は頬に飛んだ紅月の涙をそっと指で拭うといたたまれない気持ちをぶつけるようにドンと壁を叩きつけた。

「くそっ、、、、、畜生っ、、、、、なんだってこんなっ、、、、、、俺はっ、、、、」

ドンドンと壁を叩きつけ、額までをも痛めるようにぶつけて・・・・・・



もう二度と来ないっ−−−−−



そう言って泣いていた彼の顔が浮かんでは消えた。



ねえ、又来てもいい?次の休みになったら・・・・・



恥ずかしそうにそう言ってはしゃいだ彼の顔が浮かんではいたたまれずに・・・・・・

白夜は我に返ったように扉を開けると、鍵もかけずに部屋を飛び出して行った。

全力でひた走り唯ひとつの目標を追い掛けて突っ走る。

街灯が僅かに映し出すその影を確認すると大きく瞳を見開いて更に加速をかけた。



「紅月っ、、、、、、!」



そう言うや否や腕をとり、走る彼を捕まえて、、、、、

「なっ・・・・!?」

あまりの勢いに2人はその場に転がるように倒れ込んでしまった。



「なっ・・・にするんだバカッ・・・・・・放せよっ・・・・・・・何しに来たんだっ・・・・・・」

荒がる彼を捕まえて、、、、、、

「紅月っ、、、、、紅月さまっ、、、、、」

全力で走って来た自身の吐息も荒く乱れていた。

はぁはぁと2人息を荒くして、街灯だけがそれを映し出す。

白夜は呼吸を整えるように息を飲み込むと、紅月の腕を引いていきなり立ち上がり歩き出した。

「ちょっとっ・・・・白夜っ・・・・・何処行くんだっ・・・・・・放せよっ・・・・・・・!」

無言のまま引き摺るように手を引いて戻った先は煉瓦造りの自分の部屋だった。

ほんの少し前に出て行ったばかりのその部屋、、、、

もう暮れきった夕闇が白いカーテンだけをぼんやりと映し出していて、、、、、

紅月は引かれていた腕を突き放すように振り払うと、突っ掛かるように白夜に向かって怒鳴りつけた。

「何するんだっ・・・・・自分で出て行けって言ったくせにっ・・・・・又帰って来てどうすんだよっ

僕はもう二度と来ないって決めたんだからっ・・・・・こんなとこっ・・・・

お前のことなんてもう二度と考えないっ・・・・・お前なんかっ・・・・・・」

掴まれた腕を懸命に振り解こうとしながら紅月は叫んだ。

「放せよっ・・・・・僕のことが嫌なんだろっ!?だから秘書も辞めたんだろっ!?

僕の側にいたくないからっ・・・・・」

怒鳴り散らす紅月に白夜も思いを吐き出すように声を荒げると、

「あなたこそっ、、、どういうつもりだっ、、、、、」



「えっ・・・・・!?」



「あなたこそっ、、、、何を考えてるのか訊きたいぜっ、、、、、、こんなっ、、、、

こんなっ、、、、ふうに訪ねて来て、、、、たった独りで共のひとりもつけないでっ、、、、

紫月さんは知ってるのか!?俺のところに来てるなんてっ、、、、紫月さんが知ったらどんなに、、、、」

「何で紫月のことなんか・・・・・紫月は関係ないだろっ!?要はお前が僕を嫌いなだけで」

「違うっ、、、、、」

「何がっ!?何が違うんだよっ!?」

「あなたは何も解ってないっ、、、、、何も変わってないっ、、、、、あの頃と何もっ、、、、」

「あの頃・・・・?変わってない・・・・?何言ってんだお前・・・・・・」

「あなたはっ、、、、何も考えてない、、、、、無防備過ぎるっ、、、、

まるで子供のように無垢で、、、、はっきり言ってバカだっ、、、、、」

「ばっ・・・・ばかって・・・・・・

バカで悪かったなっ・・・・・・どうせ僕はお前と違って頭悪いさっ・・・・・一人じゃ何も出来ないし・・・・

けど・・・・・そんなことお前には関係ないだろ・・・・もう秘書も辞めたんだしっ・・・・

お前なんかにそんなこと言われる筋合いはないんだからっ・・・・放っといて・・・・っ」

「そんなこと言ってんじゃないっ、、、、俺はっ、、、、、」

白夜は紅月が懸命に振り解こうとしている腕を一捻りで掴みなおすとそのまま壁に押し付けて

いきなり唇を塞いだ。腕を取り上げられ、唇を塞がれて、息も出来ない程に長く強くただただ唇を

押し包まれて・・・・・・

「ぁあっ・・・・白夜・・・・・っ・・・・・・やっ・・・・・・・」

「だからバカだって言ってんだ、、、、」

「え・・・・・・・?」

「こんなことっ、、、、されるかもしれないんだぞっ、、、、、たったひとりで部屋に来てっ、、、、

あなた前にも俺に酷い目に遭わされてるのに、、、、、そんなことすっかり忘れてしまったように

純粋無垢に俺を見詰めてくるっ、、、、、いつ、、、、何をしてしまうかも解らない気持ちを抑えながら

あなたの側にいる俺の気持ちなんて何も考えてないっ、、、、

あなただって俺に又何かされるかもしれないって、、、、どうしてそんなことが解らないんだっ、、、、

どうしてあなたはっ、、、、、、」

白夜は紅月を引き摺るようにして手を取ったまま寝室へと連れて行くと戸惑っている彼をベッドの上へと

押し倒した。そして射るような熱い視線が貫いて・・・・・・



「白夜・・・・・・・っ」



「もうダメだ、、、、もう、、、、、、

限界っ、、、、、あなたが訪ねて来たんだ、、、、、あなたからっ、、、、

だから、、、、何されたって文句なんか言えないっ、、、、あなたにそんな資格は無いっ」