不埒なテント小屋-嫉妬の巻- |
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明るく何の穢れもないような爽やかな青年の遼二が同室になってから1週間が過ぎようとしていた。
この遼二がテント小屋のウェイターとして住み込みのバイトに入って来た日以来、倫周は重たい心を
持て余す日々を送っていた。
健康的な焼けた肌、屈託のない笑顔、爽やかな話し方、そのどれをとってみても自分には無いものばかりで
男らしい彼が輝いて見えて倫周は非常に落ち込んでいたのだった。
自分は毎夜の如く淫らなショーに出演し、得体の知れない客たちに視姦されてしかも犯られ役といえばむしろ
女の代用品のようなものでしかなく、だから見るからに男らしいこの遼二が倫周には羨ましく思えて仕方なかった。
そのせい、というわけでもなかったが、同室に住んでいても殆んど会話も無く、仕事が終わってお互いに部屋に
帰っても相手のことを気使うとか詮索するとかいった行為は見られなかった。
それどころか遼二に対して少々後ろめたい気持ちの強かった倫周は自然と彼を避けるかのようになっていた。
そしてもうひとつ、倫周には心に重く引っ掛かっていることがあったのだった。
遼二の健全さが眩しく感じられて、そんな思いを打ち消そうと自暴自棄になり、ショーの相方である紫月に
当り散らしてしまった。
様子のおかしかった自分を心配して訪ねてくれた紫月に酷い言葉を投げ掛けて突き返してしまったことを
倫周は非常に後悔していたのだった。
あれから3度程、一緒にステージに立ったが、何だかぎこちないままに殆んど会話もなくて、そのせいか
このところ客の反応も今ひとつで収益も下降気味だった。
どことなく様子のおかしい倫周に紫月は勿論、一緒に舞台に立っている剛や京も痛く心配していたが、
そんな皆んなの気持ちにも礼のひとつも言えないままで倫周は非常に悩んでいたのだった。
遼二も又、そんな倫周のことがかなり気になっていたようで、何とか話をする機会を
窺っているようではあったのだが・・・
そんな重い気持ちが続いていた何日目かの夜半も過ぎた頃、客足の思わしくないせいでいつもよりも
早めに店終いをしてそれぞれが宿舎に帰った時分であった。
倫周はいつものように遼二と殆んど会話のない儘に又もひとりで布団に包まっていたが・・・
夜半になってさすがに寝付けなかったのか、何かを決心したように唇を噛み締めるとそっと布団を抜け出して
部屋を出て行った。
先日酷いことを言って当り散らしてしまった相手、紫月の部屋へ向かったのである。
そろりそろりと忍び足で部屋のドアが閉まる感覚に、やはり寝付けずにいた遼二は無意識に耳を澄ましていた。
何処へ行くのだろう・・・
そっと聞き耳を立てて様子を探る、ぱたりぱたりと階段の踏みしめられる音がしめやかに、しばらくすると
自分の真上の部屋のドアががたりと開くような雰囲気を感じて遼二は瞳を顰めた。
この上、、、確かこの上って紫月さんの部屋だった?
この前そう言ってたような、、、
じゃあ倫周の奴、紫月さんの部屋を訪ねたんだろうか?
そんな想像をしながら遼二はふいと起き上がるとテーブルの上に置いてあった煙草に火を点けた。
此処に来て以来、テント小屋の中で行われていることや倫周の様子などを見ているうちに遼二には
この紫月や此処の経営者の帝斗のことがどうにもいぶかしく思えて仕方なくなっていた。
偶然にも同室になったことで倫周の様子からこんな商売を望んでやっているとは到底思えなかったし、
どちらかといえば嫌なことを無理強いさせられているようにしか見えずに、日が経つにつれて遼二の中には
少々怒りにも似たような感情が湧いてきていたのだった。
いったい此処の連中は何を考えてやがるんだ?あんな、、、まだ20歳にもなってないような倫周に
ふしだらな行為を平気で強いて商売にして、、、、っ
あいつがいつもどんな辛そうな表情でいるのか皆んな分かってんのか?
考えれば考える程苛々とした感情が湧き上がる。
遼二にとっては倫周にそんな行為をさせている紫月や帝斗が歯がゆく思えてならなかった。
その紫月の部屋をわざわざ倫周本人が訪ねて行ったらしいことからして信じがたくもあり、苛立つ感情は
益々抑え切れなくなっていったのである。
不機嫌に煙草の煙を吐き出しながら遼二は上の様子を窺おうと耳を澄ましていた。
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弱々しいノックの音にがちゃりとドアが開かれて、そこには風呂上りだったのかヘーゼル色の髪を
タオルで掻きあげながらふいと紫月が姿を現した。
「倫、、、!」
俯きながら玄関に立ち尽くしている倫周に紫月は驚いたように褐色の瞳を見開くと、だが次の瞬間には
その瞳をふいと細めてやさしく細い肩に手を掛けた。
「どうした倫?、、、そんなとこに立ってねえでさ、、、ほら、早く入れよ。」
ぐいと背中を引き寄せられて、ふいに近付いた胸元のふんわりといい香りに倫周はきゅっと瞳を顰めた。
「紫月・・・・・・あの・・・・・・」
「ん、、、?なんだ、、、、又眠れねえのか?」
紫月の態度は普段と何ら変わりなく・・・・
ついこの前酷い言葉を浴びせて付き返してしまったことなど無かったかのように普通に接してくれようとする
やさしさがありありと感じられて、たまらない思いにぐいといい香りのその胸元にしがみ付いた。
「紫月っ・・・・紫・・っ・・・」
それ以上は言葉にならずに、倫周の大きな瞳は瞬時に潤み始めた涙がいっぱいに、
今にも溢れそうになっていた。
「ばか、、、何泣いてんだよ、、、、」
「だって・・・・だっ・・・・て・・」
「いいから、、、もう分かったから早くこっち来いよ。レモネードでも飲むか?お前の好きな、、、さ?
俺も丁度風呂上がったばっかだしよ、何か飲もうって思ってたトコ。」
「紫月・・・・」
「それともコーヒーがいいか?」
「・・・・・俺、この前紫月に酷いこと・・・・・言った・・」
「ああ?そうだっけ?まあ、そんなことはどうでもいいからよ、それよかお前ちょっと疲れてんじゃねえか?
最近元気ねえし、、、さ、、、」
「ん・・・疲れて・・・はないけど・・・・この前のことが気になって・・・・・
ごめん・・紫月・・・俺・・・・・」
もじもじと椅子の背を掴みながら俯いたままの細い肩に、そっと近寄って軽く抱き締める。
そんな心遣いが温かすぎて倫周はぎゅうっと瞳を瞑った。
「そんなに気になるんだったらさ、、、、?」
「え・・・・・」
「今日はここ、泊まってけよ。そしたら許してあげるよ。」
「ほんと?紫月っ・・・・・」
「ははは、、、その代わりさぁ、、、只泊まるだけなんて思うなよぉ、、、、?」
「へ?・・・?」
ぐずぐずと泣きじゃくっていた表情を瞬時にくりくりとさせながら不思議そうに自分を見上げた倫周に
紫月はふいと微笑むとそのまま手を引いてベッドに連れて行った。
「紫月っ・・・・・」
ぽっと頬を染めながら長いまつ毛を節目がちに細めて、何をするのか充分に知り尽くしていながらも
まるで恥ずかしそうに俯いた倫周に紫月は軽く唇を寄せた。
「倫、、、、、」
ぐいと近寄せられた褐色の瞳に急にどきどきと胸は高鳴って・・・・
「こんな夜中にお前から訪ねて来てさ、、、俺が何もしねえで居られると思う?」
「え・・・・・・?」
形のいい指先がそっと頬を撫で、つうっとそのまま唇に這わされて。
そんなことをされただけで倫周は身体の深い部分から湧き上がってくる熱い感情に、瞬時に瞳が
とろりと溶け出してしまった。
それはやさしく穏やかな愛撫の始まりの記し。甘やかな香りと共に大切にされていると確信できる
唯一の瞬間。二人だけでいるときにいつも紫月が与えてくれる極上のひとときが示唆されるのを
全身で感じて・・・・
「紫月・・・・紫・月ぃ・・・・・あ、ああ・・・・・ん・・」
甘えていいひととき。思いっきり寄り掛かっていいひとときが紫月の手によって促され・・・・
「ごめ・・ん・・・・ごめんね紫月・・・このまえはっ・・・・許してっ・・・・」
ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
何も言わずにすべての思いを受け止めてくれた紫月のやさしさが酷く大人に感じられて、
倫周は熱く胸が高鳴ると共に安心に包まれて、頬を伝う涙は止め処なかった。
「ごめ・・んっ・・・俺・・・急に不安になって・・・・紫月にも、皆んなにも・・・誰にも必要とされてないんじゃ
ないかって思ったら怖くなって・・・・こんな・・・・俺・・・・汚い・・・・から・・・」
そう言って泣きじゃくる倫周に紫月は非常に驚くと共に切なそうに瞳を顰めた。
「ばかっ、、、誰が汚ねえって?お前そんなこと考えてたのかよ、、、、、
何ヘンなこと言ってんだよ、、、、お前が汚ねえなんて誰も思ってねえよ、、、、汚ねえのは、、、
俺たちだろ?俺と、、帝斗で、、、、お前にあんなことさせてよ、、、
倫、、、ごめんな、、、ごめん、、、、、」
いつかきっと・・・お前を幸せにしてやる・・・・自由にしてやるから・・・・
許してくれよ倫・・・・お前にこんな辛い思いさせて・・っ・・・
許されねえのは・・汚ねえのは俺だよ・・・・
「倫、、、布団、、、下に敷こうか?」
「え・・・・?どし・・て・・・」
「ん、、、だってここ(ベッド)だと下に音響くしさ、、、こいつ、ボロいから、、、、
思うように動けねえじゃん、、、、今日はさ、、、お前を思いっきり抱き締めてえんだ、思いっきり、、、、、っ」
「あっ・・・・・ぁあんっ・・・紫っ・・・・・」
熱い吐息が首筋を掠め唇が奪う。頬を肩を胸元を腕を、、、
ぎゅっと掴まれてところどころにキスをされて、、、、
「やっ・・・・やだぁ・・紫月・・っ・・・紫月っ・・・・あっ・・・・ぁっ・・・・・」
だめ・・紫月・・っ・・・・そんなにしないで・・・・・
たまらないよ・・・気持ちよくて・・・・もうどうにかなりそうだよ・・・っ・・・・・・
ああ・・・っ・・・
「やっ・・・ぁぁああっ・・・・・」
首筋から胸元、背中、脇腹と指先で唇で思う存分じらされて、最高に高められて、辿り着いた倫周の
一番敏感な部分がびくりと震えて。
紫月は既に甘く濃い蜜でたっぷりと濡れていたソレをきゅっと品のいい指先で握り込むと共につう、と
舌を這わせた。
「あ・・・・・っ・・・あぁっ・・・・・紫月・・・っ・・・・・んーっ・・・・・」
「どうだ倫、、、?いいか、、、こんなに濡れてるぜ、、、?ほら、、もうこんなにたっぷり溢れてきてる、、、」
「だめぇ・・・紫月・・・そんなのっ・・・声・・っ・・出ちゃうよ・・・っ・・・・・」
「いいよ、、出せよ、、、、」
そう言いながら紫月はきゅっと倫周の口元を掌で塞ぐと、後ろから抱き竦めて自身も又濡れて
張り詰めたものを細い太股の辺りに押し付けた。
「や・・・は・・・ぁっ・・・・・やあぁっ・・・・」
「倫、、、倫、、、、、」
耳元で自分を呼ぶ声が熱く逸っているのがわかる。
ずっと歳も上の大人の紫月がこんなに夢中になって自分にのめり込んでいることをふいと認識してしまって
倫周は更に身体中が熱くなるのを感じていた。
もっと・・・もっと溺れたい・・っ・・・・
もっと・・・もっといやらしいことして・・・もっと・・・・・感じたい・・っ・・・
好き・・・・紫月の熱い肌・・・・すごく感じる・・・気持ちよくって・・・・こんなに俺を求めてくれて・・・・
紫月が俺を抱いてこんなに興奮してる・・・・
こんなに熱い吐息が漏れてて、こんなに虚ろな瞳をしてて・・・・こんなに・・・大きく・・硬く・・・なってて・・・・
「あ・・・・だめ・・紫月・・・・・・っ、もうっ・・・出ちゃうよっ・・・・・」
「倫、、、?待って、、、、待って、、、、、俺も、、も、、少しだか、、、、っ、」
「あ・・・・・ぁぁ・・んっ・・・・・紫月ぃー・・・・・っ」
穏やかだが最高に熱く交わり合った後で狭い布団にぴったりと肩を寄せ合いながら紫月の隣りで
軽く瞳を瞑っていた。
不思議と胸のつかえがすうーと、取れたようで倫周は安心し切った表情で寄り添っていたのだった。
「ねえ・・紫月・・・・俺さ・・・・・」
「ん?なんだ、、、、?」
半分眠たそうな声で返事が返る、そんな瞬間も何故だか安心して感じられて、倫周は思っていることを
素直に話し出した。
「ねえ、俺ってショーの役に立ってるかな?」
「え、、、?」
突然の思いもよらない問い掛けに紫月はきゅっと瞳を見開いて。
「ん・・・だからさ、俺・・少しは役に立ってるかなって思って・・・・だったらうれしいんだけどな・・」
「何言って、、、ばか倫、、、、お前がいなきゃ俺は寂しいよ。ショーの役に立ってるかなんて、、、、
ほんとはお前をあんなショーになんか出したくねえよ、、、こうしてずっと俺だけのものにしておきてえ、、、
お前を、、誰にも見せたりなんかしたくねえけど、、、、」
「ほんと?紫月・・・・・」
「ああ、ほんとだよ。ずっと、、、毎晩こうして一緒に俺だけのもとに置いときてえ、、、」
「やだぁ・・・紫月ったらー・・・あはは、でも安心したー・・・・紫月がそんなふうに思ってくれてんならさ?
俺もっとがんばれそうだなあ・・・」
「はは、、、ばーか倫、、、、お前ちっとも俺らの気持ちわかってねえのな、、、それによ?
お前を大切に思ってんのなんて俺だけじゃねえぜ?剛や京だって。帝斗だって。
こないだなんかさ?帝斗がお前のこと可愛いとかたまには一緒に寝てえとか言い出してさ?
俺、マジで喧嘩ンなりそうだった。はは、、、お前を取り合ってさあ?帝斗と決闘でもすっか?」
「やだぁ・・やめてよ。あはは・・・でもうれしいな。帝斗までそんなふうに言ってくれるなんて!
何か益々やる気出てきた!それでね紫月、聞いてくれよ・・・・」
「何?何かお前すげえ楽しそうなのな?」
「うん、あのさ。明日からのショーのことなんだけどさ・・・ちょっといいネタ思いついたの!」
「いいネター?」
「うん、あの輪姦ショーもさ、そろそろ飽きてきたじゃん?何かマンネリって感じで金もあんまり
集まらないしさ?だからね・・・新しいネタ思いついたんだ!」
うれしそうにそんなことを言う瞳は輝いていて。
紫月は倫周にそんな心配をさせていることに切なそうな表情をしながらも、久し振りに晴れやかな
彼の笑顔が少しだけうれしくてそのまま話を聞いていた。
くすくすとうれしそうに話しながら倫周は紫月の胸元に纏わり付いて。
俺はひとりなんかじゃない。紫月も帝斗もこんなに俺を大切に思ってくれてる。
やはり自分の居るべき場所はここなのだと、自分のしてきたことはそれはそれで間違っていなかったのだと、
そんな確信が掴めたのか、久し振りに仕事にも意欲が出て倫周の心は晴れやかだった。
紫月に抱き締められて安心感を取り戻し、現在の自分は自分で、遼二とは違っても
それはそれでいいと素直に思えるようになって開放感に満ち溢れていたのだった。
「ね・・・明日からはさ。思いっきり甘いの演ってみない?俺と紫月の甘〜いの、たまにはそんなのも
王道って感じでいいかもよ?」
飛び切りうれしそうにそんなことを言った倫周に紫月はくいと瞳を細めると細い肩を抱き寄せて
ぎゅうっと抱き締めた。
「俺と倫がこ〜んなに甘い仲だって、客に見せ付けてやんのか?」
「そうそう!どう?いい考えだろ?」
「ばか、、、倫、、、、、、」
紫月はそれ以上言葉に出来ずに、様々な思いが胸を締め付けていながら更にきつく腕の中の細い肩を
抱き締めたのだった。
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