不埒なテント小屋-陵辱の巻- |
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今日からお前と同室になる奴だ、そう紹介された瞬間に俺は不思議な感覚に囚われた。
一瞬の目眩のような感覚。
瞳が合った瞬間にすべてが引き込まれてしまうような。
爽やかな笑顔が眩しいその男は濡れるような黒曜石の瞳が印象的だった。
「倫、ちょっといいか?ほら、今日からお前と一緒の部屋に住むことになった鐘崎くんだよ。
ウェイターとして仕事をしてもらうことになったんだ。」
見慣れた紫月の褐色の瞳が程よく透き通るうららかな午後に優しげに瞳を細めてそう紹介された、
ひとりの男。
鐘崎遼二。
逞しく鍛え上げられた腕が捲し上げたTシャツから覗いていた、真っ黒な彼の瞳、真っ黒な艶のある
髪がやわらかに風に揺れて、そんな感覚が酷く不思議だった。
一瞬にして言葉を全て取り上げられてしまったようなヘンな感覚。
「よろしく、鐘崎です。」
そう言ってぺこりと頭を下げた彼の、その姿勢が戻った瞬間に引き込まれそうな程の
真っ黒の瞳が俺を捉えた・・・・
「うん・・・」
そう言うだけで精一杯だった。
こちらこそとか、よろしくとか、一切が言葉にならずに只ただその場に立ち尽くしているしか出来なかった。
それ程に黒い瞳が印象的だった、とでもいうのか。
よくわからないけれどとにかく俺は紫月に紹介されたその男を目の前にして「うん」以外のひと言も
発せられなかったことに違いはなかった。
「ま、彼は体格よさそうだし用心棒としても頼りになりそうだよな?じゃあ倫、
いろいろと部屋のこととか教えてやってくれな!それじゃ後でな!」
それだけ言うと紫月は忙しそうに手を振りながらテント小屋の方へと引き上げて行った。
降り注ぐ木漏れ日が眩しい5月の午後。
「な、荷物置いてもいい?俺のベッドこっち使っていいのかな?」
「あ、ああ・・・ごめん・・気が付かなくって・・・・」
「名前、、、」
「え・・・?」
「名前、何ていうの?俺は、、、さっき紹介されたけどさ。一応ちゃんと自己紹介。
鐘崎っていうんだ、鐘崎遼二。」
「鐘崎・・・」
「そ、鐘崎遼二。遼二でいいぜ?」
「あ、ああ・・そう・・・・?俺・・・俺もいいよ、名前で。
倫周・・・・柊倫周っていう・・・・」
「倫周?へえ、、、珍しいな。」
そう言うと遼二はにっこりと微笑みながら手を差し出した。
「よろしく倫周。」
差し出された掌は大きくて、微笑んだ黒曜石の瞳は穏やかで、逞しい腕もさらさらと揺れる髪も
何もかもが珍しく思えた。
不思議に思えた。
ふいと心を許せるような懐かしいような感覚、あれは何だったのだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今夜も又、相も変わらず俺はいつもの舞台に存在している。
隣りには着物姿の紫月と剛が、そして京がいて。
俺たちは例の輪姦ショーの日以来こうして着物を羽織って舞台に立つことが多くなった。
ばかみてえに札びらが散乱したあの日から何度こうして同じ見世物を演じてきたことだろう。
輪姦ショーなんて馬鹿馬鹿しいと思いつつも毎度バラ撒かれる札びらの凄さに半ば
呆れ返ってきたのは今日この頃。
相変わらずのケチくさい電球の下で紫月が倫周の着物を開く。続けて剛、京に弄られて拘束されて、
その後にいつものやらせのセリフ「やめて、嫌、助けて」がお決まりのパターンだった。
半ば馬鹿馬鹿しいと思いつつもいつもと同じそのセリフを言おうとしたとき・・・
何処からか誰かに見られているような感覚に倫周は少々違和感を感じてふいと小屋の中を見渡した。
誰・・・・?
この感覚・・・・誰かに見られているような・・不思議な感じが・・・・
そんなわけねえよな・・・・
普段から何十という客の視線にさらされながらも今まで一度だってこんな感覚はなかった。
だが何時までたってもじっと刺されるような視線を感じて倫周は半ば苛立つ気持ちと共に
ちらりと客席に瞳をやった、そのとき・・・・
・・・・・・・・・・・・!
じっと自分を追い掛ける視線。刺さる程の痛い感覚。だがしかし辺りに
そんなものは存在しなかった、だが何かが気になってどうしようもなく引っ掛かって
送られた視線の先にあったもの・・・・
遼二・・・・
そこには薄暗い闇と煙草の煙の中で客に飲み物を差し出している遼二の姿があった。
これだったのか、、、、
その瞳に遼二を映した瞬間に倫周はとっさにそう思った。
じっと見つめられているような不思議な感覚。
だが遼二は格別舞台の方を見ている様子はなかった。むしろ酔った客をあしらうのが精一杯とでも
いうように自分の仕事に没頭している、というふうにしか見えない。
では一体あの感覚は何だったのだろう。
じっと自分を見つめるような、それから逃れたくて仕方ないような嫌な感覚。
相変わらずに剛や紫月に身体中を弄られながらぼうっとそんなことを考えていた自身の脳裏に
突発的に湧き上がったその感情に倫周は一瞬にして身体中が火照るような感覚に襲われた。
・・・・・まさか・・・・
意識していたのは俺・・・・?
ずっと、昼間あいつを紹介されたときからずっと感じていたこの感覚、不思議な・・・・
只見ているだけで引き込まれてしまいそうなあいつの瞳、真っ黒な瞳が・・・目に焼きついて・・・・
離れないっ・・・・!
俺が意識しているっていうのか、、、、
だから、、、こんなに、、、、
あいつの、遼二のことが気になって。今どうしているのか、何をしているのか、何処を見ているのか、、、
どうしてこんなに気になるんだ、、、、
今日初めて会ったあいつのことがどうしてこんなに、、、
それに・・・
あいつにはこんなことしてるとこを見られたくないっ、、、、、、
遼二にはこんなことをしている自分を知られたくない、こんな汚いことをして生きてきたなんて
思われたくないっ・・・!
とっさに浮かんだそんな感情に倫周は自分の身を隠してしまいたい程の嫌悪感に駆られた。
できるだけ紫月や剛の影に隠れて客席から自分が見えないようにしたい、、、、
どこかに隠れてしまいたい、、、
何故そんな気持ちになるのかはっきりとは解らないままに只ただ自分が酷く汚く思えて倫周は
今まで感じたこともないような激情に駆られていった。
見られたくない
知られたくない
こんな汚い自分
こんなに穢れた自分
どうしてこんなふうに思うの?
どうして・・・・
太陽・・・
太陽のように輝いてたあいつの瞳、、、
真っ黒で濡れたような艶のある瞳、引き込まれてしまいそうな、、、綺麗な瞳、、、、
俺にはない、、、あんな綺麗な瞳はっ、、、
何の穢れもない澄んだ瞳が、、、
俺にはない、、、こんなに穢れてこんなに濁ってしまった俺の瞳、、、
あいつはそれを持っている
まだ何をも知らなかった頃の澄んだ瞳をあいつは持っているから、、、
俺とは違うから、、、
だけど、、、
あいつの前では俺もおんなじように澄んでいたいって思うのは何故?
昔の、綺麗なままの自分でいたい
何の穢れもなかった頃の自分に戻ってあいつと向き合えたなら、、、
会って間もない遼二にどうしてそんな感情が湧いたのか、何故そんなことを思ったのか
明確な原因など解らないままに、だが倫周にはこの遼二の爽やかで見るからに健全そうな感じが
酷く羨ましく思えてならなかった。
身体中が紫月らの愛撫によって淫らに掻き乱される感情の高ぶりがそんなことを連想させたのであろうか、
とにかく倫周はこの遼二にこんなことをしている自分を見られるのが嫌で嫌でたまらないといった
思いに駆られていた。
見ないで・・・
おねがい・・・・
見ないで・・・
「や、、だ、、、」
「やだ・・やめて・・・・紫月・・・・」
気が付くときゅっと瞳を顰めながら小さな声で倫周はそう言っていた。
弱々しく恥ずかしそうな声で、今にも消え入りそうな声で、頬を真っ赤に染めながらそう言った。
「何?何だってえー?聞こえねえよー、何か言ったかボウズ?」
「ぎゃははっ、もっとヨクしてー、って言ったんじゃねえのー?」
「まじかよ?おい小僧、お前ってホントに好きモンだよなあ〜。」
がはははっ・・・・
小さく響いた抵抗の言葉がまさか倫周の本心から出たものだなどとは気付く術もない紫月や剛らは
それが新たなるアドリブであるかのようにその言葉に乗っかっては更なる演技に拍車をかけていく
のが現実であった。
「ち、、違う、、、やだ、、ホントに嫌だからっ、、、」
・・・・・・・・・・?
「今日は、、ホントに、、、もうこんなことしたくないんだっ、、紫月っ、、、」
そう言った瞬間に自然に潤みだした瞳をくしゃくしゃに歪めながら懇願した。
けれどそんな心の内に紫月は気付くどころか反対に倫周を褒める言葉を早口で囁いてよこした。
「倫、いいぜ!今日のアドリブはすっげぇ冴えてるぜ、この調子で最後まで頼むなっ!」
にっこりと微笑みながら軽くウィンクまでしてそんなふうに囁いた。
紫月っ・・・違うんだっ・・・俺は本当にっ・・・・
だけれどもそんな本心など伝わるはずもなく・・・・
「すげぇー、お前ってホント勤勉だよな?よっしゃ!じゃあ俺たちも負けないように頑張るか!」
剛と京までもがそんなことを言ってはにっこりと微笑んでみせた。
「嫌っ・・・やだっ・・・本当にっ・・・・やだったらーっ!!!」
倫周はばたばたと身を捩りするりと3人の腕から抜け出すと床に放り出されていた自身の着物を
素早く取り上げてそのまま舞台裏へと走り去ろうとした。
「おい待てよーっ、こら小僧っ、どこ行きやがる!?」
「早く捕まえろって!」
「ふざけんなよっ!待ちやがれっ、、、」
そんなセリフを吐きながらあっという間に捉えられ再び舞台の中央に引き摺り出されては
髪を引っ張られて顎を持ち上げられた美少年に客席の熱は急加速していった。
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