蒼の国-悠久の河原(山賊との対峙)-
次の日、蒼国の幕舎では少々遅めの朝を迎えた。

各々が眠そうな目をこすって居間に集まって来る頃、倫周も又居間のソファーに寝転んでいた。

安曇が自室から出てくると居間のソファーの所にいる遼二と倫周が目に入った。

昨夜の一件で何となく今までより皆と親しくなったようなうれしい気がして 「おはよう」と

声をかけようとしたが、2人の様子に声を掛け損ねてしまった。

ソファーに寝転んでいる倫周に遼二が覆いかぶさるようにして何か話している。

「ほれ、口開けて。舌出してみろ!」

遼二がそう言って倫周のあごをくいっと持ち上げる。

そんな光景に安曇の顔は真っ赤になった。

言われた通りに倫周が口を開いた。すると遼二はぐっと顔を近付けて自分の舌を倫周の舌に絡めた。

あまりにも自然にされたその光景に安曇は人形のように動けなくなってしまった。

顔は火が点いたように真っ赤になって瞳は見開いたまま閉じられないといった感じで。

「よしっ!もう平気だな、熱もねえし!」

そう言った遼二の声で安曇は はっと我に返ったが呆然と立ち尽くす安曇に気が付いて遼二が声を掛けてきた。

「よう!早いな。ちゃんと眠れたか?」

そう言われても安曇はとっさには声も出ず、こくこくとうなずくだけだった。

「何だ?お前、顔真っ赤だぜ?熱あんじゃねえのか?」

そう言いながら遼二が近付いてきて

「どれ、診せてみろ!」

と真っ赤な頬に触れたものだから安曇は慌てて尻込みをし、はずみでその場にひっくり返ってしまった。

大丈夫か?と真面目に問いかける遼二の後ろから、その様子を見ていた潤が近付いて来て

いつものすまし顔で遼二の側を通りぬけながらこう言った。

「あなたのせいですよ、遼二さん!あなたが変な体温の測り方するから!

安曇さんびっくりしたんですよ。少しは自重して下さいっていつも言ってるでしょう?

あなたの舌は水銀柱ですか?」

遼二は又このインテリが難しいこと言いやがって、と苦虫を潰した様な顔をしていたが

そんな様子にも平然としながら潤はにっこりと微笑むと安曇に向かって言った。

「どうか許してくださいね、馬鹿はほっとくのが一番ですから。」

それを聞いた遼二が潤を捕まえて。

「潤!てめえ!言わせておきゃあ、、、!お前も熱測ってやる!ほれ、舌出せ!早く!」

そうして潤の顔を両手で挟んだ。

「もおー、やめてくださいよー遼二さんってば、冗談が過ぎますよ!」

そうしてばたばたと2人の追いかけっこが始まった。

その様子を見ていた倫周がふっと微笑んで。

安曇はそんな倫周を見て又頬が染まった。



、、、こんな顔して笑うんだ、、、ていうよりこの人でもこんなふうに笑うことあるんだ、、、



などと思いながら目線が自然と倫周を追いかけてしまう自分に少し戸惑った。

あちらではまだ終わらない遼二と潤の追いかけっこに倫周が助け舟を出した。

「遼!もう許してやれって。」

そう言って又微笑む。ソファーの上で、両腕を頭の上に組んで、瞳を閉じて微笑む。

その声に、その仕草に、その全てに胸が高鳴る。 無意識に目線が追ってしまう。

安曇はそんな自分が少しだけ怖くなった。





この日は朝から何やら周りがざわざわとしていたが、陽が高くなって一層にその気配が強くなってきた様で

館の方では人の往来が激しい様子だった。蒼国の一同もその忙しない様子に一体何が起こったのか

気になってはいた。

様子を見に行こうとビルと京が出掛けようとした時、館から孫堅の使者が慌てた様子で蒼国の幕舎に

飛び込んで来た。

息せき切らしてたいへんな慌てようである。

「粟津殿!粟津殿は居られるか!?大変な事にっ、、、!」

使者は真っ赤な顔で叫んだ。

帝斗が出てくると使者は慌てて駆け寄り、しどろもどろにしゃべり出した。

「粟津殿っ、大変なことに、、、どうか力をお貸し下さいっ、、、」

帝斗は使者をやさしくなだめると事情を聞いてみる事にした。

少し落ち着きを取り戻すと使者は今度はたいへん不安そうな顔で話し出した。



「実は今朝ほどから館の方へ山賊共がやって参りまして。館の下の河原に陣取っているのです。

実はこの山賊というのが大変厄介でして。早い話が我々に勝負を挑みに来ているのです。

彼らは定期的にやって来ては我が軍の武将に一騎打ちの勝負を挑み、我々が負けると大量の武器を

要求してくるのです。彼らにとっては武器は簡単には手に入りませんからこんな方法で稼ぎに

やってくるのです。最も我々のほうは一応訓練を積んでおります武将が相手を致しますから、山賊共も

殆んどの場合は負けて帰って行くのですが、それが今回は少々様子が違いまして。



ものすごい大量の武器類を賭けて勝負を申し出てきたのです。

館の前に陣取られては我々としても動かないわけには参りませんで。

それにこれだけの大きい勝負を申し出て来るくらいですから今回はそれ相当に向こうも腕の達つ者を

揃えて来ている様子なんです。

我々の方も現在は蜀軍の方もいますので武将の数はいるのですが何分相手の要求量が

異常なものですから不安もあってか大騒ぎになっておりまして。

それで孫堅様から粟津様にも立ち会って頂きたいと要望がございまして。

是非お力をお貸し下さいまし!お願いでございます!」

使者は床に頭をこすり付けるようにしながらそう言った。

それを聞いて帝斗は使者を起こすとにっこりと微笑みながら快くこれを引き受けた。



「どうせ今日は我々の武芸披露の予定でしたし丁度よいですね。」

では皆さん参りましょう、と言って余裕さえ感じられる帝斗の様子に使者はほっとした表情を見せた。

蒼国のメンバー達も久し振りの体育の時間といった感じで特にビルや京、遼二などは

浮き浮きしいるといった感じである。

一同は使者の案内で館の下にある河原に向かった。