蒼の国-初戦1(呉国に来て初めての対戦の相手は山賊だった)- |
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では皆さん参りましょう、と言って余裕さえ感じられる帝斗の様子に使者はほっとしたようであった。
蒼国のメンバー達も久し振りの体育の時間といった感じで特にビルや京、遼二などは
浮き浮きしいるといったふうだった。
一同は使者の案内で館の下にある河原に向かった。
河原といってもここの河は日本のそれと違って対岸が見えない位大きいのでまるで海岸といった感じである。
一同はこの海岸の様子を見て驚いた。
館を背にして呉軍の真っ赤な旗がたなびき、孫堅を真ん中にして周りを武将達が囲むように整列している。
その隣には蜀軍の旗が掲げられ、蜀色の武将達が各々兵士を従えて整列していた。
「うわぁ、綺麗だあー。」
信一が思わず声をあげた。
こんな時に締まりのない、 と思われるがその光景は本当に見事だったのである。
さすがの潤も信一の揚げ足をとるどころではなかった。それどころか
「まさに壮観ですねえ。」
と真に感心しきっていた。それは皆同じで、だから海岸に着いた時は一同でわあーっと声をあげたのであった。
対陣が整ったところで山賊の幹部らしい男達が孫堅軍の前に歩み出て勝負の順番と対戦相手なるものを
決めようとしていた。
蒼国側では剛が何やらぶつぶつとぼやいていた。
「なあ、俺たちもさあ、揃いの服作ろうぜ。こう皆が揃ってると俺ら何か締まらねえ。どうでしょう?粟津さん。」
剛は帝斗に窺いを立てた。
「そうですねえ、そう言われれば、ばらばらな印象がしますね。では考えましょう。」
とこの緊張した状況とはおよそかけ離れたような会話をしている。まるで楽しそうな様子で。
そんな様子が伝わったせいか、剛の言うように服装がばらばらなせいで目立ってしまったのか、
山賊が蒼国の面々に目をつけた。
ものすごい目で睨みをきかせながらこちらに向かって歩いて来る。
「あらら、威嚇シテマスネー。」
ビルがそう言った瞬間に一同は ぷーっと噴出してしまった。
山賊はその態度が非常に頭に来たらしく大声で怒鳴り込んできた。
そんな様子に帝斗らの側にいた使者はもう肝が飛び出そうな位はらはらとして、目線が泳いで止まらなかったし、
それらを周りで見ていた呉軍の兵士たちもあっけにとられたという顔をしていた。
この緊急事態におちゃらけた態度。もう少し波風を立てない方法はないものかと皆が一瞬にして緊張してしまったのである。
山賊の幹部らしき男は蒼国の面々に近付くと
「何だお前らは、見ない顔だな。」
と言うので慌てて使者が紹介と説明をした。
男は蒼国の面々に興味をもったらしくじろじろと彼らを眺めている。
何より使者が「彼らは孫堅軍のサポートに来てくれた」という説明をしたものだからそれが非常に気になったらしく、
初めて見る蒼国の面々と腕試しをしたそうな顔つきであった。
男は髭もじゃらでいかつい体格の品の悪そうな感じであったが、先程からさかんに蒼国の周りをうろうろと行ったり来たり
しながらじろじろと品定めをしているといった感じである。男はしばらくそうしていたが、何を思いたったのか
孫堅に使いを出し「今日の勝負の相手はこいつらだ」と伝えた。
あまりに突然な事に孫堅の方でもさすがに心配し、ためらった。何を心配したかというと、もちろん来て早々の帝斗らに
尋常でない迷惑が掛かると思ったのも事実であるし、今回大量の武器が懸けられているだけに
正直なところ帝斗たちの腕前がどれ程のものか測りかねていたからであってすぐには返事が出来ない様子であった。
本来なら今日は帝斗たちの武芸披露の日であって出来ればそういったものを見てから駒を決めたかったというのが
本当のところであったのだった。
なかなか返事の決まらない孫堅に山賊側はかなり苛々とした様子になって来た。
もう我慢できないと言って蒼国のメンバーを孫堅の陣の前の勝負場まで引っ張り出すと勝手に品定めのようなことを
始めたものだから皆はこの様子にざわざわと騒がしくなっていき、次第にあたりは騒然となっていった。
その様子を見ていた帝斗が先陣を切って話し出した。
「よろしい。ご希望に従ってこの勝負、お受け致しましょう。」
そう言うと孫堅の元へ使いを走らせた。
孫堅軍はまだ決心がつかないようであったがこうなっては後にも引けないので仕方なく、事態を見守らざるを
得なくなってしまった。 只、帝斗の威風堂々とした態度が軍を納得させる雰囲気にあった。
「それでは、どのように致しますか?」
帝斗は男に尋ねた。
男は又じろじろと全員を品定めするように周りをうろつくと、ふと倫周の前で足を留めた。
いぶかしげな表情で倫周に近付くと、くいっとその顎をつかんでにやにやとしながら言った。
「へえ、綺麗な顔してやがる。まさか女じゃねえだろうなあ。こんな女みたいな奴に剣なんか振り回せんのかあー?
どっちかっていったら違う方のお相手を願いたいよなあー、なあ、皆あー!」
さも馬鹿にしたように男が仲間を振り返ると品の無い喝采にその場が沸きあがった。
この様子に孫堅はもちろん軍の者達も皆はらはらしていたが、その中に一人だけ瞳をきらきらさせて
不適に微笑む男がいた。
男は側にいた従臣らしき男にふと耳打ちをすると
「なあ、あいつ、お前に似てないか?若い頃のお前にそっくりだぜ。」
そう言って不適に微笑んだ。いかにもこの勝負が楽しくて仕方ないといった感じで生き生きとしている。
隣りの男は端整な顔立ちで平然としており、こう言われて「そうかあ?」といった感じである。
この時、軍の中でこんな話をしていられたのはこの2人位であろう、他の者は皆経緯が気になりはらはらした様子だった。
山賊の男は倫周を指差してこいつが相手だと言い放った。
それを聞いて孫堅はじめ、軍全体がざわざわと騒ぎ始まった。
山賊の男が言った通り本当にこんな華奢な男に剣など持たせたとて勝負は見えていると思ったのである。
「断るっ!」
全体がざわざわとし始まった時、倫周の後方で大きな声が響いた。
きっと、男を睨みつけて前へ歩み出たのは安曇だった。安曇は男の前に歩み出ると自分が相手になる、
とそう言ったのである。
「今日はこいつは体調が悪いんだ。代わりに俺が相手になる。」
真剣な面持ちでそう言う安曇に男は目を白黒させると馬鹿にした様に笑い出した。
「なんだあ?今度は子供かあ?一体この軍はどうなってんだあ?こんな奴らが助っ人だなんて
孫堅軍も落ちぶれたもんだなあ。」
そう言って腹を抱えたかと思うと更に煽るように付け加えた。
「大体、体の具合が悪いだって?おおかた昨夜のお楽しみが過ぎたんじゃねえかあ?で腰が立たねえってかあ?
なあ、綺麗な兄ちゃんよお?」
いかにも楽しそうな様子で大げさに振りまでつけながらそう言うと 又しても倫周の顎を持ち上げては
いやらしく笑い声を出した。
「ふざけるなっ!!」
大声で怒鳴ると安曇は男の手を振り払った。
「そう言うことは俺に勝ってから言えよっ!」
そう言いながら鋭い視線で男を睨みつけると腰に携えた剣を引き抜いて男の目の前に突きつけた。
剣を突きつけられてさすがに頭にきたのか男の方も顔色を変えると、にやりと舌なめずりのようなことをして、
自らも剣を構えた。
「いいだろう、そんなに言うなら相手になろうじゃねえか。覚悟は出来てんだろうなあ、え?坊ちゃんよぉ、、、」
「ふ、、っん、どっちがっ、、、」
ぷい、っと横を向いた安曇をぎっと睨み付けると男はさすがに頭に来たらしく真剣な顔つきになった。
「いい度胸だ、だがいつまで持つかな?」
先程までとは違う低い声が不気味に囁く。
勝負場の真ん中に出て安曇と男が対峙した頃には当たりは静まり返っていた。
最初に仕掛けたのは安曇の方であった。剣の交わる音が響く。
安曇は昨夜からの事を思い起こしていた。
まったく、どいつもこいつも皆して倫周を馬鹿にしやがって。そんな目でしか見れないのか?
許せないっ、、、こいつら全員、絶対に許さないっ、、!
安曇の目に殺気が帯びる。
一撃で。
一撃で相手の剣を落とすと男の腕から鮮血が飛び散った。
うわああああぁっ、、、
壮絶な叫び声と共に男はその場に倒れ込んだ。
ゆっくりと安曇は男に近寄るとまだ鮮血が滴る剣をその目の前に差し出した。
「二度とっ、二度とあんなことは言わせないっ、、!」
そう言って怒りに満ちた瞳で男を見下ろした。
「すげえ!やるじゃねえか、あのボウズ!たいしたもんだなあ。」
その様子に水を打ったように静まり返っていた雰囲気を打ち破るような感嘆の声が響いた、
先程の呉軍の男だ。
それを合図といったように次々と軍の中からも歓声が上がった。安曇の勝ちを讃えて皆がうれしそうに騒ぎ出したのである。
この様子に山賊側は当然おもしろくない。こんなガキに大の男が打ちのめされたのだから面子が丸潰れになった上、
呉軍、蜀軍揚げて安曇の勝利を讃えている。大げさに旗など振っている者もいた。
さすがに我慢がならなかったのか山賊の方も何やらぼそぼそと皆で話し合いのようなことをしたと思ったら、
厳つい男たちの輪を開くようにして一人の男がのっそりと顔を出した。
恐らくは頭のようなその男はゆっくりと勝負場の真ん中まで歩み出るとぎろりと大きな瞳を見開いて辺りを見渡した。
先程の男と違って何もしゃべらずにうすら黙ったその雰囲気が妙な気迫を感じさせて辺りは又、
水を打ったように静まり返る。
男は蒼国の側まで無言で歩いて来るとひとしきり周りを見渡してから倫周の前で足を留めた。
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